第85話

離れは今日から工事が入る。




内容は業者さんから聞いた。




鉄格子を外し、庭への出入りを自由に出来る様にしてくれるそうだ。


工事そのものは2日で終わるらしい。ものすごくハイスピードの工事だ。


宰相、無理を言ったのではないだろうか?心配になる。


パワハラとかしてないと良いけど。




『うるさくなるので申し訳ありません』と謝られたが必要な工事だ。


そんな事でクレームをつけるつもりはない。




気にしない様に伝える。筆頭侍女さんが。


私は直接、話してはいけないそうだ。目の前にいるのに面倒な話だ。


せめて『不愉快ではないよ』アピールでニコニコしておこう。




工事の人達は恐縮しながら下がって行った。


工事が直ぐに始まるのだろう。外から大きな声がしている。




「私は安心させるために、直接声をかけたいと思っていたのよ?」


「はい。存じております。ですが直接


声をかけるのは軽々しいかと。そのために私がおりますので」




目の前にいる人に声をかけるのが、軽々しいのだろうか?


私には納得の行かない理由だ。


私はこんな生活を送らなければならないのか


気鬱になる。目の前の人とも喋れないなんて。理不尽だ。私にも相手にも。




絶対に陛下を味方に引き入れよう。


私の安定した心穏やかな(目標が増えている)スローライフのために。




隊長さんと話した計画を実行する予定で、そのためには下準備と練習が必要になる。




私はキッチンに行く事を筆頭侍女さんに告げる。




キッチンには侍女さんたちは入らない。というか入らないようにお願いした。


筆頭侍女さんは渋っていた。『お手伝いします』とも言われたが、ここは私の領域だ。


他の人に邪魔はされたくないし、入って欲しくない。




侍女さんたちが、『手伝う』というが何ができるのだろうか。料理はしたことが無いのに。


それとも教えたら覚えてもらえるのだろうか。




考えたくはないが、危険な理由を見つけられて、辞めるように説得されるのでは無いだろうか?


筆頭侍女さんの様子を見ていると、そんな心配をしてしまう。


そんな嫌な事を考えてしまうのも嫌で、侍女さんたちは遠慮してもらっているのだ。




護衛騎士さんだけは入ることになるが、そこは妥協の範囲内(護衛の筆頭は隊長さんが多いので安心)


彼らは私のする事に口出しはしないからね。




「始めましょうかね」




私は袖をまくり、エプロンをつける。料理で汚すには気が引ける程のディドレスだ。気をつけないと。


隊長さんと話し合った結果、居酒屋メニューに決めた。




一般の家ではその限りではないが、貴族の間では夕食はコース料理のように、一品ずつ出てくるそうだ。そうなると雑多な感じの食事はしたことがないはず、新鮮な雰囲気も含めて楽しんでもらおうと思っている。




今日から料理の試作と必要な材料の下準備に入る。


今回は居酒屋メニューなので多くの種類が必要だ。




今回のテーマは、『居酒屋熱々料理』だ。




隊長さんの情報では毒味のために温かい料理は口にしたことがない、その事ははっきりしている。


そうなると、陛下が食べたことの無いような料理は、簡単に思いつく。


庶民の私が好きな料理だ(力を込めて断言したい)。




フライドポテト・ピザ・だし巻き卵・サラダ・厚焼きベーコン・茶碗蒸し・プリン・バターコーン・焼鳥




他にもいろいろあるが皆に試食をしてもらってメニューを決めていこうと思っている。


試食者は何時ものメンツだ(いわゆるイツメンだ)




試食は次回の管理番や商人がくる日に予定しているので、それまでに完成させたいものがある。


所謂、燻製料理?だ。


前の生活の時、私は燻製ものが好きで、最後は自分で作っていた(買うと量が少ないし地味に高いのだ)


そのおかげで多少なら自分で作れるし、お酒が好きな人は燻製は好き(偏見になるだろうか?)だと思っている。




今日は居酒屋メニュー欠かせない(私基準)ベーコンを作ろうと思っている。


そのために厨房からブロック肉を持ってきてもらった。


料理人の人が(定期的に材料を持ってきてくれている)


『間違いありませんか?』と何度も確認された。こちらでは、ブロック肉で料理をすることはないそうだ。


購入時はブロックで、その後に必要に応じて切り分けて保管するそうだ。




私は直接喋れないので、護衛騎士さん(その日は隊長さんではなかった)に頷いて受け取ってもらった。


肉を受けとるだけで面倒な話だな、と思いながら下処理を始める。




ベーコン簡単バージョンだ。


塩とハーブを混ぜ合わせておく。本来なら塩の量は計らないといけないのだが、肉の重さが不明なので目分量だ。


肉は余分な脂をそぎおとす。その後はフォークをお肉にブスブス刺していく。そして蜂蜜を塗る。


蜂蜜を塗った後はハーブと混ぜ合わせた塩を塗していく。


その後は漬け込みだ、炭酸水やお酒に漬け込む人もいるが、私の場合はヨーグルトだ。


好みは人それぞれだが、今回は単純に炭酸が無いのも理由の一つになる。




ヨーグルトも商人が見つけてくれた。


チーズを作っている地方の方たちが食べていたものだ。以前から作られていたようだが、郷土料理のような扱いで余所には広まらなかったらしい。


購入の相談をしたら、なんで知っているのか、好きなのかと聞かれて大変だったらしい。




商人の努力が私の手元にあり、いろんな方面で役に立っている。


ありがとう商人。助かっています。




ヨーグルトに漬け込んだら後は一週間寝かせて、その後塩抜き、風乾燥。その後、燻製となる。


私は燻製できる日を楽しみに、保冷庫に保存した。




保冷庫のフタを閉めながら、これが出来上がった時の、皆の顔を想像すると自然と笑いがこぼれていた。

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