第82話

「おはようございます。姫様。今日のお召し物は、いかがしましょうか?」


筆頭侍女が、私に聞いてくれる。




新人さんが来て1週間になる。


新人さん達の名前と顔を覚えて、コミュニケーションが取れるようになってきた。




今回は8人体制なので、私付きで常に近くにいる人と、掃除や水回りの事をしてくれる人と、ちゃんと分かれている。


休みの人数を考えると8人でちょうどか、少し足りないのかな?配属が多いなんて、思って申し訳なかった。宰相の考えは正しかったと今は理解できている。




護衛の騎士さんも一人は常に側にいる。だいたいは隊長さんだ。




キッチンでの料理は続けているが、朝だけは用意してもらう事にした。誤解があったので、まったく食べないのは、厨房に申し訳ない気がしたからだ。




しかし、1番の問題は解決していない。


『ご飯美味しくない』問題だ。




そう以前は品数が少なかったり、賄いと入れ替わったりしていたので、もう少し美味しい可能性もあるかも、と思っていた。でも、基本は変わらなかった。




私の好みに合わない


そしてパンも同様で、あのパサパサしたパンは、普通に食べられている様だ。


私の国は小さかったから、パンは美味しくないと思ってたけど、この国も同じだった


残念だ




ここで嘆いても仕方がない。幸いに私は自分のキッチンがある。


ここで美味しいご飯を作って食べよう。


そう、心に誓った。




決してラノベの主人公みたいに、この味をみんなに教えたい、なんで大それた事は考えていない。


私と周囲だけが楽しめればそれでOK、そう思っている。




私は自分で自分に頷いていると、筆頭侍女が不思議そうに私を見ていた。


「どうかなさいましたか?」


「いいえ、なんでもないわ。今日はそんなに暑くないみたいね。どれが良いかしら?」


いろんな事があったが季節は順調に進んでいる。


私は彼女に問いかけながら衣装部屋(隣に私の知らない衣装部屋があった)で辺りを見回した。




「そうですね。こちらはいかがでしょうか?」


 淡い緑のシンプルなワンピースだ。七分丈になっている。袖はボタンを外せば、折り返せるようになっていた。


料理をする私の習慣を考えていてくれるのがわかる。


ちょっとした気遣いが嬉しい。


「ありがとう。それにするわ」


「ではお髪は合わせてセットしますね?おろしたほうが良いですか?それとも、纏めますか?」


「料理をするときに、邪魔にならなければ良いわ」


私は髪型にこだわりはない。邪魔にならなければ問題ないし。


筆頭侍女はそれを聞くと、髪をまとめ始めた。


どうやらハーフアップにするようだ。


『細かいな』と思っていたが、侍女さん達の話ではこれでも普通以下らしい。


私が気にしなさすぎのようだ。他のお貴族のお姫様は注文が多いのに、私は少ないから心配しているそうだ。


私は元庶民、雑に育ってるからな


仕方ないと思っている。侍女さん達も困らないから、これで良しとしよう。


なんて事を思っている。




「姫様はお料理をされるのですね。」


「あなたはしないの?」


「はい。家では料理人にまかせています。自分で調理をする事を考えた事もありません。」


「そうなの?楽しいのに」




筆頭侍女に料理の楽しさを語りながら、身支度を終える。


筆頭侍女は話しを聞きながら(礼儀正しく相槌は打ってくれている)反応に困っているのか、それ以上は何も言わなかった。


着替えるのを手伝ってもらうのは、一般的な事とはいえ、私は今だに慣れない。




「午前中は図書室に行くわ。その後は部屋でゆっくりするつもりよ」


「かしこまりました。今日は来客の予定もありません。明日には工事の業者が来るとの事でした。」


「そうなの?窓の事かしら?(鉄格子とは言えなかった)さすがは宰相ね。近いうちに、と言っていたもの。」




「姫様には不愉快な思いを。申し訳ありません」


「あなたが謝る必要はないわ。何も悪いことはしてないし、今も私に良くしてくれてるじゃない?それで問題ないわ。気にしてくれてありがとう。この話は終わりよ。隊長さんを呼んでくれる?」


「姫様。お優しいお言葉ありがとうございます。ですが」


筆頭侍女は笑顔だが眼圧が高くなった。 


その反応で私は悟る。




「隊長を呼んで」


「かしこまりました」




筆頭侍女から、言葉遣いの注意を受けることが多くなった。


それを受けて言い直しをする。




隊長さんは私に仕える立場だから、『敬称をつける必要はない』と言われている。侍女さんたちに話しかける時も同様で、『敬称』は駄目との事だ。(筆頭侍女と話す時は気をつけていたのに、失敗しちゃったな)


確かにそうなんだろうけど、何となく躊躇ってしまう。


管理番や商人は、平気なのに。二人は気安い関係だから?


気分は友達感覚だもんな。




他にも挨拶や歩き方、衣装の選び方なんかも注意される事が増えてきた。


自国でもこちらに来てからも、マナー的な教育はなかったので戸惑ってしまう。


ありがたい事なのだが、辛い。今まで干渉されて来なかった分、余計にキツく感じてしまう。




「失礼いたします。姫様。図書室へ行かれるとか」


隊長さんが(心の中で言うぶんには問題ないし)入ってきた。


「ええ、お願いね」




今までにない変化に気鬱を覚えつつ、隊長さんと図書室へ行くことにした。

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