第81話

「気になること?ですか」


陛下からの問い掛けに質問で返す。




陛下の眼が笑っている。




前回、熱弁振るってしまったからな。陛下は私の反応を見たいのかな。


これで私の何かを試すつもりのようだ。何を見たいのか知らないけど。


知らない振りをして終わらせるのは簡単だけど、気になることは確かにある。


それを聞いてみようか。


幸い陛下から聞いてきた事だ。怒られる事はないと思うし。




「陛下。気になることは確かにあります」


「何かね?」


陛下は顎に手を当て、嬉しそうに聞き返して来る。




そんなに楽しみだったのだろうか?私が何を聞いてくるか興味津々の様子。




「あのもの達から返金はあるのでしょうか?」


「返金?」


「はい。横領で使い込みをされた額は、確認できると思います。不正の帳簿は残っているようなので(管理番が教えてくれた)。その金額を返金してもらわなければなりません。横領は国民の血税です。有耶無耶にして良いもの、ではないと思いますが?」


「税金。そうだな。帳簿は二重帳簿になっていて、金額は、はっきりしている。返金は確かに請求できるが、あのもの達では払えないだろう」


「そこで終わりですか?」


「払えないものをどうする気だ?」




えっと、陛下、本気で言ってます?


使い込まれたのは税金ですよ。国民の血税を使い込まれたのだから、何としてでも取り返さないと。


国家の長ですよね? 国民の血税には敏感になってください。


信用をなくしますよ。




「陛下。払うのは、何も本人たちだけとは限りませんよ。何のための保証人ですか?家族や親戚もいますよね?極刑だろうという予想ですが、監視下で労働をさせ、そこから徴収する方法もあります。取ろうと思えば、いくらでも方法はあるはずです。考えて、努力をしてください」




あれ?この言い方。あんまり良くないかな?


でも、国民の税金だからちゃんと返してほしい、と思うのは間違ってないと思う。




「貴族同士で個人のお金なら、本人達の問題です。諦めるのも自由かと。しかし税金は別です。本来なら国民や国のため、有意義に使われるべきものです。ちゃんと返金してもらわないと、国民は納得しないと思いますよ。陛下ならどうですか?自分のお金が勝手に使われたら、返せって思いませんか?額が違っても基本は同じです。」


「そうだな」




同意はしてもらえたものの、陛下もちょっと引きぎみだった。この反応はまさか、陛下も『返せないならいいや』とか『仕方ないかな〜』とか思ってたって事では?


ないわ〜、ものすごくない。




陛下の反応に、私は白い目で見つめてしまう。視線は、思いっきり非難の色だ。




それを感じ取ったのか、陛下も若干慌てながら言い出した。誤魔化すように咳ばらいをする。




「いや、姫の言う事はもっともだ。裁判のときに返金の方法も、決めてもらうようにしよう」


「国の名前で訴訟になりますか?それとも裁判の流れで、そのまま決める事ができるんですか」




「「んっ?」」


陛下ともう一人声が重なった。


宰相だった。陛下の後ろにいたんだった。今まで口を挟まずにいたから、スッカリ忘れてた。


影が薄い(ごめんね、宰相)国で2番目に偉い人のはずなのに。




その宰相から質問が飛んできた。


「姫様。国名義の訴訟とは?」 




陛下たちと、私の認識が合わない。


商人達から聞いたときは、国も訴えを起こせるって、言ってたけどな




「国も訴えを起こせるんですよね?」


「そうだな。」


「侍女達の横領とかは犯罪ですが、お金を返してもらうのは、犯罪ではないですよね?そうなると裁判は別にならないのですか?」


「なるほど、そういうことか」


陛下が納得したようだ。宰相も頷いている。




「姫様。確かに2つは別のように思えますが、横領は犯罪なので、それに対する懲罰を希望する事ができます。その時、懲罰として返金を求めることにします。それで問題ないと思いますよ」


「そういう事なのですね」


私も納得。国によって法律は違うから。


この国で、そう決まってるなら、口を出すことでは無い。




「しかし、姫は予想できないな」


「なんの事でしょうか?」


「いや、気になる事、と言って税金の返還を言われるとは思ってなかった」




私は不思議に思って陛下を見る


それ以外に気にする事ってあったっけ?


わからないことは聞くに限る


「それ以外に聞くことって、ありますか?」


「私は気にしていると思っていたのだが」


「?」


何のこと?口にはしなかったが顔には大きな字で書いてあったようで


『何のこと?』




「姫の部屋の事だ。鉄格子の件だよ。」


「あっ」




今度は私が予想外だった。


まったく頭になかった。




「まったく気にしていなかったのが、よくわかるな。顔に書いてある」


「失礼しました」




陛下と宰相からそれぞれ教えてもらえた。


「近いうちに外すように手配している」


「昨日、業者が決まりました。近日中に離れに伺います。その際は多少うるさくなると思いますが、お許しください」


「承知いたしました。私のために手配してくださる事なので、楽しみにしています」


「そう言っていただけると助かります。」




近いうちに、離れの改修をしてもらえる。


鉄格子は外聞が悪いので、はずしてもらえるならありがたいことだ。


楽しみにしていよう。




「それとな、姫。今年のプレゼントは用意している。そのつもりでな」


「気にかけて頂いて、ありがとうございます。楽しみにしております」


プレゼントを、断る理由はない。


陛下セレクトを愉しみにしておこう。


私は陛下と二人、ニッコリと微笑んだ。

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