第80話
陛下、お忙しいところお時間いただきまして、ありがとうございます」
「姫。わざわざすまないな。離れに私が行くと言ったのだが、宰相が良い顔をしなくてな。」
「宰相の言う事はもっともかと。」
いくら被害者に事情を説明するためだとしても、陛下がホイホイと留学生(人質)のいる離れに行くことは、外聞としてあまりよくない、と思うのは無理のないことだと思う。宰相の発言は当然でしょう。
「そうかな?」
「はい。」
あまり無理を言わないで欲しい。宰相が気の毒だ。
私は陛下の私室に招かれていた。いや、『呼び出し』という方が正しいだろうか?
先日の犯罪の、経緯を話してくれるらしい。
宰相は陛下が私に話す事、そのものを反対していたが、覆らなかったらしい。
宰相、負担が大きすぎて、胃痛とかにならないと良いけど。身体は大事にしてほしい。
この件に関しては私は何も悪くないけど、私が原因と思われてたら嫌だな、少し心配しながら、気持ちは拗ねモードになりつつ、陛下に水を向ける。
「陛下自らが、今回の状況を説明をしてくださるとか、申し訳ない気がいたします。」
「今回の一件はこちらの不始末だからな。当然だろう。」
そうかもしれないけど、宰相の説明でOKな案件だからね。陛下、その自覚は持ってほしいと思います。
主に宰相のために。
「ありがとうございます。では、あの者たちについて、どうなりますでしょうか?」
「そうだな。順番に説明することにしよう」
陛下から侍女達の犯罪理由やその後が教えてもらえる事になった。
犯罪理由や使い道について
横領の始まりは、やはり侍女長から持ち掛けられた事らしい。
始まりは子供が病気になった事かららしい。その治療費が欲しかったとか。城に入れる身分はあったが、保証人はお金を払って頼んでいたらしく、その後から金銭的にはそこまでの余裕は無かったと。
治療費欲しさに横領を始め、病気が治ればそこで止めれば良かったのに、給料以外の収入に楽を覚え、止められずにそのままズルズル。
一人だけ収入が多い事(侍女長といってもそこまで収入は変わらないらしい)を部下にバレるのを不安視して、他の侍女も巻き込んだ。他の侍女達は普通に遊興費(テレビで聞いた台詞だ)や衣装代にしていたそうだ。
金庫番は侍女長の古い知り合いで、子供の治療費ということで協力、その後は侍女長と同じ理由、使い道は侍女達と同じ。一番たちが悪い気がする。
鉄格子は、『外出に陛下の許可が必要』と私が勘違いしていたので、それを強調するためにつけたようだ。
外出の許可や監視、短時間なのも同じ理由らしい。
陛下は許可を必要としていないので、実際は侍女長の判断で決められていた、ということになる。
私が外に出なければ、衣装が増えていない事や、宝飾品が使われていない事を、見られるリスク・バレるリスクが減る、という判断で行われていた。
確かに誰にも会わないから、疑われる事は無かった。
今回の件はキッチンの使用から、管理番や商人に会うことで、疑わしいと思われたわけだから。
今までのままだったら、まだ事件の発覚は遅れていただろう。
因みに護衛の騎士さん達は、何も知らなかったそうだ。
鉄格子は本当に私の希望と思っていたようで、ときどきしか外に出ないし、その時もお喋りをしないので、私を身分を大事にしている姫だと思っていたし、騎士さん達は自分たちとは喋りたくないのだろうと思っていたそうだ。私からするとありえないのだが、何も知らなければそう見えるだろう。勘違いなのだから仕方がないし、コミュニケーションを怠った私にも原因があるだろう。そこは反省するべきだと、私自身が思っている。
学校に行けなかったのも、同様の理由だ。
品格維持費の使い込みがばれるし、外に出る事で私にお金を使うことになれば、自分達の取り分が減るので、『ばれたくない』『取り分を減らさない』ために通わせなかったと。随分と手が込んでいる。
私への対応が雑になっていくのも当然だろう。外に出さないように、人に会わせないようにしているのだ。雑になってもバレないと思うのは、自然の摂理だ。
笑えることに、ここまでしておいて、外交問題になることや、下手をすれば国家反逆罪に問われる可能性は、全く考えていなかったらしい。『今でもそんなつもりは無かった』と言い続けていると。
悠長、というよりは感覚が麻痺していたのだろう。
何年も同じ事をしていると、人のお金とわかっていても、自分のお金のように感じるものである。
これでだいたいの事がわかったが、おまけがあった。
食事の件である。
美味しくないのは変わらないのだろうが(多少は改善されるか?)、出される食事や品数が違ったそうだ。
何でも、私に出すはずの料理を賄いと入れ替えたり、品数そのものを減らしたりしていたと・・・
なるほど、これは立派なネグレクトだ。
『そんなつもりは無かった』は通用しない。そこは理解してもらいたい。
私は、成長期なのだから栄養が必要だ。
「それとな、姫。」
「はい、何か?」
「本来なら裁判には、証人の出廷が必要となるのだが、いくらなんでも姫に、そんなことはさせたくないし、子供の姫に証言させるつもりもない。今回は証拠も十分にある。自白もあるからな。」
人の意見を尊重する陛下が珍しく断言した。
これは絶対意見だ。私が嘴を入れてよい事ではない。それに私に負担のないようにと、考えてくれたみたいだ。ここは大人しく頷いておこう。
「ありがとうございます。陛下。私へのお気遣いを、ありがたく」
「そうか」
陛下も私が察したことがわかったようだ。微笑んでくれた。
わかりやすい返事だった。
「ところで、どうかな?姫。何か気になることはあるかな?」
経緯の説明は終わったが、私に対する話は終わらないようだ。
いや、どちらかと言うと、陛下からテストの時間のようだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます