第79話

「おはようございます。姫様。」




私の離れに新人さんが来た。


新しい侍女と護衛の騎士さん達である。


しかも、連れてきたのは宰相だった。 




なぜ?


普通は女官長とか、近衛団長とかじゃないの?




私は離れの客間(一応小さい客間はある)で、宰相を迎え入れた。




宰相の後ろには侍女さんが8人と、騎士さんが8人いる。


この人達は全員、私の専属になるそうです。こんなに人がいるかな?


今まで4人ずつだったのに




「宰相?確認だけど、全員が専属になるの?」


「はい。今回は私と陛下で選びましたので、ご安心ください」


「それはありがたいのだけど・・・」




私は人が多いんじゃない?とは言いにくかった。


せっかく連れて来てくれたのに『いらない』とは言えないよね




「何か、問題でも? やはり、少ないでしょうか?増やしましょうか?陛下からの許可もありますし。」


「落ち着いて。大丈夫よ。逆に多いと思うのだけど」


宰相の追加しましょう、発言に自分の心境を正直に言うしかなかった。


私の離れにこんなに人はいらないと思う。




「そんな事はございません。少ないと思っています。ただ、離れも大きくないので、このくらいが妥当かと」


「そうなのね。わかったわ。でも、この人達に無理強いはしてないわよね?王宮の中でも私の専属は、良い場所とは思えないわ。嫌がる人に無理にとは言えないもの、その辺は大丈夫かしら?」




私は小国の姫で、留学生(人質)だ。王宮の中で働く場所として、良い条件の場所ではないと思う。それに侍女さん達は結婚相手を探しに来てるのに、出会いが無かったら問題だろう。


その事で実家の人達に、何か言われては気の毒だ。




「勿論です。姫様が何を思って、そんな事を言われたのかわかりませんが、陛下からの辞令です。喜ばない人間はいませんよ。陛下からの『信頼されている』、という証になります。喜ばれる事です。ご安心ください。」




何かおかしな発言があったような。




「?おかしくない?陛下からの辞令?直接?」


「はい。今回は特例ですので。陛下が間違いがないように、とご自分で選ばれました。」


「そう、あんな事があったから、気を使ってくださったのね。ありがたいわ」




まぁ留学生(人質)の侍女が横領、ネグレクトだ。外聞が悪いだろう。陛下の気遣いはあながち、間違ってはいないと思う。




「まあ、それだけではありませんが」


「他にも何か?」


「いえ、姫様の側に安心できる者を、置いて置きたいと、陛下のお考えでしょう」 




宰相の言いようは、別な事を言いたかった様な気がしたが、そこは深く聞かない方が良さそうだ。




「姫様。今後はこの者が、姫様付きの筆頭侍女長になります。」


「よろしくお願い申し上げます」


前任の侍女長よりは、幾分若い感じの女性が、私に礼を取った。


「もう着任させていますが、護衛の騎士はこの者になります。」


宰相は隊長さんを見る。


「改めて、よろしくお願い申し上げます」




隊長さんも改めて礼をとってくれた。隊長さんの挨拶に忍び笑いが漏れてしまう。


昨日の自己紹介が、頭に浮かんたのだ。


許してほしい。


隊長さんも察したのか笑いを堪えている様子だった。




「ありがとう。二人とも。これからよろしくね。」




私は笑いを無かったことにして、二人に向き合う。


離れは賑やかになりそうだ。私は今までと違う雰囲気になりそうな事に安心していたら、まだ何かあるらしい。




「姫様。もう一点。私がこちらにお邪魔したのは、理由がございます」


「新人さん達の事だけではないのね?」


でしょうねと、同意したかったが、宰相の様子を見て中止した。




「はい」




宰相の言いにくそうな顔を見て、追い打ちは良くないと思う。うん。




新人の配属は、宰相が来る案件ではない




「何かしら?」


宰相に話の続きを促す。




「裁判の件です。」


「もう始まるの?早いわね?」


「ええ、始まるのはもうすこし後ですが、ほぼ日程は決まっています。それに伴って姫様に事情を説明したいと、陛下が」


宰相が口を濁す




「陛下が?その口ぶりからすると、陛下が直接説明してくださるの?」 


「はい」




おかしくない?言ってはなんだけど、この程度(?)の事で陛下が出てくる?いや、この程度ではないのかな?下手したら外交問題だもんね。でも、普通なら気を使って宰相クラスだよね?




「宰相。ごめんなさいね。馬鹿にしているつもりはないのだけど、普通は宰相が説明してくれたら、十分な内容ではないかしら?」


「はい。私もそう思っています。姫様がおっしゃる事が順当な事かと」 


「そうよね?」


「はい」


「で、なんで陛下が説明してくださるの?」


「自分で説明すると陛下が。私が何度も自分が説明しますと、言うのですが聞いてくださらなくて」


「そうなのね。」


他に言いようがなく、私は口籠る


宰相と二人頭を悩ませるが、ここは考えても仕方がない。トップダウンだ。陛下がそう言うなら何か理由があるのだろう。


ここは私が頷いた方が上手く行きそうだ




「わかったわ。宰相。陛下がそう言われるなら何か理由があるのだと思うわ。陛下の判断にお任せするわ」


「姫様。」


宰相は、私が止めてくれると思っていたのか、悲しそうだ。


諦めなさい。宰相。トップダウンには逆らわない方が良いのよ


『長いものには巻かれときなさい』


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