第61話

いつもの様にダイニングで過ごしていると、見たことのない近衛騎士が来た。


ドアの前に立ち、通りの良い声で話している。


内容はしっかり聞き取れるのだが、意味の理解に追いつかない。




「陛下がお呼びです。ご一緒に陛下の所まで来ていただきたいのですが」


「陛下が?私を?」


「はい」




『なんで?』と聞きそうになったのを寸前で止める。


最近気楽に過ごすことが多いので言葉遣いを間違えそうになる。




危ないわ。気をつけないと…


しかし、陛下が何のようだろう? 今までこんな事は無かったのに… ご飯が食べたいから作れとか?前の話を蒸し返すのかな?


『???』私の頭の中はハテナマークでいっぱいだ。




「支度をするから少し待ってもらえるかしら?」


「申し訳ございません。陛下から急ぐようにと、言われていますので、そのままで良いかと…」


「この格好よ。あまりにも失礼だわ」




私は両手を広げ近衛騎士に自分を見せる。


今、部屋着のラフなものを着ている。動きやすくお気に入りなのだが、陛下に会える格好ではない。




その私を見て近衛騎士も眉をひそめる。やはり場に相応しい姿ではないと認めてくれたようだ。


「では、急いで着替えるから待ってもらえるわね」


「いえ、先程も申し上げましたが、そのままで」




おい、コラ(思わずガラが悪くなる)


さっき見苦しいって思った顔をしてたのに、そのまま陛下の前に連れて行こうとするのは、どういう了見だ?ん?


私は近衛騎士を見上げるが彼は気にする様子もなく




「では、参りましょう」


やっぱりこのまま行くんかい、気持ちの中でツッコミを入れるが、着替えずに陛下の前に行く事は決定事項らしい。


泣きたい




王宮の中を歩く。




久しぶり過ぎて道がさっぱりわからない…


私は方向音痴なので地図があっても歩けないから変わらないのだろうが…  一人で帰れる自信はない。


流石に一人で帰れとは言われないと思うけど…




私の離れから陛下の部屋までの道のりは長かった。


騎士さんに申し訳なくなるほど道は長いため時間がかかる。私とは騎士さんは当然コンパスの長さが違うので歩くスピードも違うから、私の速さに合わせていてくれていて、なお時間がかかる。


申し訳ない。




「ごめんなさいね。私が遅いから時間がかかるでしょう?」


「そんな事はございません。どうぞお気になさらず。歩き方が早かったでしょうか?」


「そんな事はないわ。私に合わせてくれているもの。本当はもっと早く歩けるのでしょう?それくらいは分かるわ」


私は苦笑いが出る。




「少し急ぐわね。陛下がお待ちなのでしょう?お待たせしたくないから頑張るわ」


私は早歩きを問題ない程度の小走りに切り替える。


マナー違反だが陛下が待っているから見逃してほしい。


近衛さんが私に声をかけてきた


「姫様。少し失礼なことをしても?」


「なにかしら?」




許可を出す前に近衛さんが私を抱き上げた。世間で言うお父さん抱っこ。縦抱っこだ。




「えつ?」


抱っこは初めてなので驚いて、近衛さんの首につかまる。




「失礼します。姫様が走るよりこの方が早いかと…」


「たしかにそうね。有り難いけど重たくない?」


そんなに重くないと思うが距離があるので負担にならないだろうか?


心配する私をよそに近衛さんは早足で歩いていく。




「軽いですよ。むしろきちんと食べてらっしゃいますか?軽すぎて心配になります」




私は年齢より小さく見えるから体重も軽いらしい…


ちょっと安心


しかし、この軽さ前の生活で欲しかったなぁ〜 


(遠い目)

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