第62話

陛下の部屋に着くと予め言われていたのか、そのまま部屋に通された。




「お待たせしました陛下」


私は近衛さんに降ろしてもらう。着いたらすぐに通されたので、降ろしてもらうタイミングがなかったのだ。


宰相が驚いたように目を見開いたが、近衛さんは涼しい顔で横に控えた。




私はそれを横目で見ながら陛下に対して礼を取る。




「久しいな姫。息災か?」


「ありがとうございます。陛下。おかげさまで健やかに過ごさせていだだいております。頂いたキッチンも有効に使わせて頂いております。」




私は声も軽く挨拶をした。ついでと言っては何だかキッチンのお礼も付け加えておく。お礼は言えるときに言っておくものだ。 




そして部屋の異常な状態に気がつく。


知らない男性が近衛さんの横にいる。そして侍女長が陛下の前にいた。




…… なんだ?この状況は…


私はこの状態に不安と困惑を覚える。


説明ができるのは陛下か宰相だけだろう。




私は部屋を見回す。この部屋にいるのは…


陛下、宰相、私、近衛さん、侍女長、知らない男性となる。


侍女長だけが陛下の前にいるという事は、彼女が何かしたのだろうか?だからこそ、私が呼ばれた?


責任問題か… 仕方がない、彼女は今は私の管理下なのだから…


聞かれる前に謝ってしまおう…




「申し訳ございません陛下。私の離れに仕える侍女が問題を起こしたのでしょうか?私の管理不足です。私がお詫び申し上げます。どうか、ご容赦を」




私の国での最敬礼をとる。


外交に詳しい陛下と宰相なら私の礼の意味がわかるはずだ。




「いや、そうではない。姫の事で聞きたい事があってな」


「私の事ですか?」


「ああ、姫。そろそろ学校に通ってみないか?それが聞きたくてな」


「学校に通えるのですか?行っても良いのですか?」


私はお詫びをしていたのにその事も忘れ、顔を跳ね上げた。


「長く待たせて申し訳ありませんでした」


宰相がお詫びを口にする。私としては学校に行ければ問題ないのでそこは否定しておこう。


権力を持っている人と揉めるのは良いことがない。




「いいえ、お気になさらず。こちらの国に馴染んでから学校に通った方が良いだろうと、思ってくださったのでしょう?おかげさまで国との風習の違いとかも分かったので良かったと思っています」


私は良い子の返事をした。プラス面を伝えておく。




「しかし、姫は本当なら早く通いたかったのだろう?」


陛下が私に気を使ってくださっている。私のためにと、気を使ってくださったのだから、そこに文句を言うつもりはない。


「陛下、そんな事は仰らないでくださいませ。私の事を思っての事なのですから…」


「姫…」


「正直に申し上げれば、早く学校に行ってお友達が欲しいと思った事もございます。しかし今となっては馴染む期間を頂いて良かったと思っております。いくら留学生とは言っても、習慣が違うと受け入れてもらう方も戸惑ったでしょう…そう考えれば必要な時間だったかと…」


「そうか… 気を使っているのだな…」


「陛下、そんな事はございません。皆様に良くして頂いております。」




私は侍女長の事も忘れニコニコとしていた。




学校に行ける。


いつからだろう… 楽しみで仕方ない。


前の生活では学校なんて、って思っていたが今は学べるのなら何でも学びたい。人と交流できる学校が楽しみで仕方がないのだから。


私はその場で飛び跳ねたいのを我慢しながら宰相に尋ねる。


「いつから学校に行けますか?」


声も弾んでしまう。

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