第44話

ダイニングテーブルには私の感覚と今ある材料でできる『休日の豪華ランチ』が並べられている。




ご飯、お味噌汁、ほうれん草のお浸し、豚肉の生姜焼き、酢の物、簡単茶碗蒸し、デザートにフルーツ寒天といったメニューだ。




本当ならお刺身とか、巻き寿司とか、お稲荷さんとか、いろいろ思うところがあったが、時間と材料を見て諦めることにした。


できる範囲で手早く作るならこれが限界な感じがしたのだ。




「簡単な感じになってしまって、ごめんなさいね。良かったら食べてみて」




私はいろいろな理由を一言にまとめ、二人に伝える。それを聞いた二人は顔を見合わせた。




「簡単なもの…ですか?この食事が?」


「そうね。私的にはそう思えるわ。そこは私の感覚だから、それより食べてみて。良かったら感想を聞かせてほしいわ」




再度、食事を勧めると二人ともフォークをとった。




残念、お箸があれば良かったのに…


口にできない思いを抱えながら私もフォークをとる。




目の前の男性達は双子のように同じ行動になっていた。




お皿からご飯を掬い目の前に掲げる。その後匂いをかぎ恐る恐る口に入れる。咀嚼する様子も同じで、私は噴き出さないように口元を引き締める事となった。それと同時に味の感想が気にかかる。


二人からの感想はまだ聞こえてこない。




次は生姜焼きだ。お肉を一枚すくい上げている。今度は目の前に掲げるだけではなく、ためつ眇めつパクリと食べた。ご飯で安心感が出たのかためらいがない。一口二口と噛みしめ飲み込む。 




その後は無言だった。眺めることもなく、話すことに口を開くこともなく。もくもくと食べていく。お味噌汁やほうれん草のお浸しにも躊躇いがない。味わうように噛み締めてはいたがそれだけだった。その後の反応が顕著だったのは茶碗蒸しだ。


蓋を開けたときに目を見開きフォークの先で確かめるように突いていた。


スプーンの方が食べやすい、と言うつもりだったが二人とも大人だ。自分で判断するだろう。




フォークの隙間から茶碗蒸しを落としながら掬って食べ始める。始めは上品に掬っていたが、最後は諦めたのか茶碗を持って流し込むように食べる。こちらではマナー違反と言われる食べ方だ。




(大丈夫かな…他でやったら怒られると思うけど、いや、私は何も言わないけど…)




最早、言葉もない。


何か言ってよ、とも思うし視線も投げるが気づかれる様子がない。諦めの境地だ。二人が満足するまで待つ事にして、私も食事を始める。




全体的にまぁまぁの出来だが、残念なのはフルーツ寒天だ。冷やす時間がなかったのでいまいちの出来上がりになっている。下準備が足りないのでこんなものだろうだが、こんな事なら切った果物だけな方が良かったかも。と、一人反省会を脳内で繰り広げていると商人から口火が切られた。

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