第45話
「姫様、この料理の作り方は教えていただけるのですよね」
今までの話し方をどこかに置いてきたような商人は、声も今までとは違う大声になっていた。
右手にフォーク、左手をテーブルにつき、体そのものも私の方へ乗りだしている。
「えっ?」
「それで、教えていただけるのですよね?」
商人はさらに私の方へ身を乗り出す。
明確な返答をしない私に不安を覚えたのか断定的な口調になってきている。
管理番は商人の身体にしがみつき、椅子に座らせようと躍起になっていた、が商人は座る様子はない。
「落ち着け商人。ちゃんと座れ。姫様に失礼だろ」
ありがとう、管理番。
商人の勢いにちょっとビックリしたからそのコメントはありがたいわ。言えないけど…。
「商人。管理番の言う通りよ。ちょっと落ち着いて。」
「これが落ち着けと?無理です。」
「商人。さっきから姫様に失礼だろう」
「管理番。これを落ち着けと?どうしたら落ち着ける。今までに食べたことのない味だぞ。調理法も聞いたことがない。これで落ち着いていたら商人失格だ。そう思わないか?」
商人は管理番の肩を掴むと揺さぶりはじめた。
管理番はガクガクと首を揺らされている。
吐かないと良いけど。商人、忘れてるかも知れないけど。管理番もあなたも食後なのよ。
管理番の様子を見ながら違う方向の心配をしてしまう。
そして商人、あなたはさっきまで管理番にも丁寧な言葉遣いをしていたのに、言葉遣いはどこに行ったの?私自身にはざっくばらんと宣言したけど、管理番も同じで良いとOKを出した訳じゃないわよね。後で問題にならないかしら?それとも、長い付き合いの様子だったから普段はこんな感じなの?
でも、コントみたいなやり取り、こんな事を本当に言う人がいるんだ… なかなか新鮮だわ
商人の勢いにビックリした私は、ちょっと現実逃避をしてしまった。
二人のコントは続いている。
止めずに眺めているのも面白そうだったが、時間もあまりないことからコントを止める事にした。
「えっと、そろそろ私も仲間に入れてもらえるかしら?」
商人は管理番の肩を掴み熱弁を奮っていた。余りの勢いに管理番は何も言えないでいる、が私の声を聞いた二人は身体がピタリと止まり。油が回っていない機械の様にギギと首を私に向ける。どうやら、私の存在を忘れていた様子だ。
「「申し訳ありません」」
双子のような二人は同時に床を眺める事になった。
「良いのよ。楽しそうだったから眺めていたかったけど、二人とも仕事もあるし、時間もかけられないだろうから、そろそろ本題といきましょうか?」
穏やかに微笑みかける。ここは余裕を見せる方が得策だろう。
「はい。ぜひ、よろしくお願いします」
商人は頭を上げる事なく言いきった。
でも、その前に私からも確認することがある。
ここを飛ばすと話の前提が崩れてしまうのだ。
「で、商人。味はどうだった?気に入ってもらえたのかしら?」
「姫様。」
「料理法を教えるのは味を気に入ってもらえたら、って事だったでしょう?私、味の感想を聞いてないわ。それとも、教えてくれてた?聞き逃しちゃったかしら?」
商人は面白くなさそうな顔だ。
私は吹き出したいのを堪えながら笑顔をキープ。小首を傾げ『聞いたっけ?』
と仕草で問い掛ける。
「姫様。意外に意地悪ですね」
『言わなくてもわかるでしょう?』と言外に滲ませる。商人は面白くなさそうな顔のまま私に呟いた。それに慌てたのは管理番だ。
「商人?」
語尾が上がって完全に声が裏返っていた。
その管理番に商人は落ち着いて返す。
「大丈夫だ。管理番。姫様はこんな事ぐらいで怒る方ではない」
言い切る商人に管理番は不安そうだ。『しかし…』と商人を心細い様子で見ている。
ここは商人に同意を示しておこう。管理番を落ち着かせないと話も出来なさそうだ。
「そうよ管理番。こんな事で怒ったりはしないわ。それにざっくばらんに、って約束したでしょう?」
だから大丈夫、と笑顔を見せ、商人を見る。頷きを返した商人は
「では、姫様。よろしいでしょうか?」
「ええ、お願いするわ」
どうやら、商人の感想をやっと聞けるようだ。
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