第43話
商人の持ち込んだ荷物の確認をする。
ざっと見回しただけだが、目的のものには目星をつけていたのでそれらを手に取って行く。
荷物の中には冷蔵商品もあった。
クーラーボックスはないが、保冷剤のような物があってそれで箱の中を冷やしている、その中にはワカメや干物もあった。ワカメはともかく干物は口に合わなかったら要らないだろうに…いくら保存食と言っても、食べなかったら傷ませるだけじゃないのかな?
統一感が有るような、無いような、中身を見ながら首を傾げる。
気になるところは多々あるが質問は後回しにすることにしよう。
いくつかの商品を手にして、調理を開始する。
ここが正念場。
商人を納得させる物を作らなければならない。といっても、私には自信がある。
私の料理の腕は前の生活では一般的だ。しかし、こちらの食事レベルを考えると…
心配ないだろう。
私が野菜を洗ったり下拵えを始めたときに、消え入りそうな声がかかった。
「姫様。調理人を呼びましょうか?」
管理番だ…
手が止まった。完全に忘れ去っていた。
無意識に商人を見ると、商人も管理番の存在を忘れていたらしい。
にこやかな笑顔を装っているが『しまった』と顔に書いてある。
人の良い管理番はそのことに気がついていないのだろう。
料理を始めた私を気遣って声を掛けてくれたにちがいない。
その事まで考えがたどり着いたが気がつかない振りをした。
管理番は気づいていないのだから、知らなかったことにしよう。アイコンタクトで商人を見ると、商人も頷いた。
今日会ったばかりの商人だか感性は私と近いらしい…
言わずとも話が付いたことに感謝しながら口を開く。
「ありがとう。管理番。でも、大丈夫よ。ここは私が陛下からいただいたの。だから人に使ってもらうつもりはないわ。言うなれば私のテリトリーよ。」
冗談ぽく笑って告げる。
その内容は聞こえているだろうが、『姫様が…』と常識に囚われている様子。
普通の姫は… 以下省略…
常識人の管理番からしたら、『姫様』を止められない自分にも罪悪感が沸くのだろ。そこは私にはどうすることも出来ないので深く追求はしない。
ただ現実だけを突き付ける。
「管理番も座って頂戴。あなたの分も(今気がついたから追加するわ)ちゃんと有るのよ?だから、食べていってね」
爽やかな(自分基準)笑顔でお願いしておく。
「私のような者が姫様のお手作りを…」
後半は言葉になっていないが、『恐れ多い』と言いたいらしい。
しかし管理番にも味を知ってもらう必要がある。
これから商品を仕入れたり、貰ったりしたときは、必ず管理番を通すのだ。味を知っていると品物の扱いが変わって来るし少しは愛着も持ってくれるだろう。
これが、あの時食べたあの料理になるのか、と思ってもらえるはず。
私には伝手は少ない。有るものを大事にしなければ…
これからのスローライフの快適さに関わって来る。
あくまでも他人様の迷惑にならないように、自分の欲求をどこまでも追求しながら快適さを求めていこう。↑これ大事。
そんな事を考えながら下拵えが終わったので調理をスタートした。
管理番は目の前でアワアワしている。商人は興味深そうに手元を眺めていた。
二人の視線を意識していたがいつの間にか調理に没頭していた。
そうして私達の目の前には『休日の豪華ランチ』が出来上がっていた。
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