第29話

「おはよう、今日からよろしくね」


誰もいないキッチンに話しかける。他の人が見たら痛い人間だがここには誰もいない。


それに、今日からここは私の城だご機嫌に話しかけたくもなるというもの。




私はさっそくパントリーからお米を出す。




どうしようか迷ったが朝食はお粥にすることにした。パンを仕込む時間はなかったし。発酵時間を考えるとかなり早く起きないといけなくなる。


時間を考慮して『朝粥』に決めたのだ。




私は生米を鍋に入れ。弱火でコンロにかける。


その間にトッピングを作ることにした。




今のところ梅干し、のり、わさび、漬物は見つからない。無いのかあるのかもわからない。


代わりに魚を保冷庫で見つけていたので、白身魚を焼くことにする。 ほぐして簡単フレークだ。


後は卵を温泉卵にして添えることにする。


お粥の味付けは塩のみになる。




出汁を作ってないし、流石にスープストックでお粥は食べたくない。食べれないわけではないが、どちらかと言うとリゾット、っていう感じになってしまうので塩味だけにする。


私が食べたいのはあくまでも『お粥』なのだ。




「しかし、材料でないものが多いなぁ、もともと無いのか、私のところに持って来てないのか区別がつかない…」




材料は発注形式でも大丈夫だと思うけど、何があるのか知りたい、でないと、ないものを自分でどうにかする必要がある。




「困ったなぁ、厨房には入れてもらえないだろうし、こんなのありますかって聞くか? でも、どうして知ってるのかって聞かれたら困るしねえ〜。それか、厨房の人に来てもらって今置いてあるものの説明をしてもらうか…」




私はお粥を混ぜながらブツブツ呟いていた。


まるで童話の魔女が鍋をかき回してあるようだ、と自分で、思っている間にお粥が出来上がる。




「よし、かんせい〜」


そう声を上げながら鍋ごとダイニングに運ぶ。


お粥の前に出来上がっていた、温泉卵と魚フレークを並べる。


お茶が無いのか残念だが『朝粥セット』の完成である。




「ん〜 朝から幸せ〜、これよこれ」


お粥に息を吹きかけながらハフハフして食べすすめる。


途中、トッピングの魚フレークを載せ、味わう。


最後は温泉卵をお粥に入れる。


お粥の中で黄身をわり、トロッとした部分を掬いながら食べていく。


幸せの時間だ。




厨房にどう発注するか、どう問い合わせるかとかも考えていたのだが、その事もすっかり忘れお粥を堪能していた。


何もかも忘れていた私は食後のお茶(紅茶)を飲みながらシミジミと思った。




美味しいご飯は何者にも勝る




完敗である。


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