第20話
『私が作ったのを食べたいと言われましても… お口に合わないかと、素人の作る料理ですし、趣味程度のものですから…』
私はお茶を濁しつつ断る事にした。
私の望みはスローライフ、面倒事は避けて通りたい。
「なるほど、断る、ということかな?」
お茶を濁した結果をバッサリと言い直された。
語調が強くなったので、不機嫌そうな様子が見える。陛下からしたら断られるなんて想像もしていなかったのだろう。
確かに、普通の立場なら断る、と言う考えそのものが浮かんでこないだろう。
大陸の支配者からの要請なのだから。
私の立場はちょっと特殊な立場だ。そこらへんは考慮してもらいたい。
「断るなんて、人聞きの悪いことは仰らないでくださいませ、陛下。私は恐れ多いと申し上げているのです」
「言葉を変えただけで言ってることは同じだろう?」
身も蓋もないことを返してくる。
ちょっと、陛下、言葉は選んでください。意味が変わってくるから〜
声を大にして言いたいが、言えないので私は言葉を飲み込む。
「で、私には食べさせられないと、そう言うんだな? せっかくキッチンを作ったのに…」
ちょっと、陛下。子供みたいな事を言わないでください。キッチンは私の誕生日プレゼントでしたよね?陛下のために料理するために作られたわけではないですよね?
流石にこれは言えないのでグッと我慢する。
どうしよう… 困った
作るという選択肢はない。でも、断ったらキッチン、使えなくなるかな…そんなケチな事は言わないと思うけど…
どうだろうか…
わたしは上目遣いで陛下を見る。陛下も私を見ていた。思案顔である。
「まぁ、これ以上は言うまい。このキッチンは約束だ。姫の誕生日プレゼントなのだから。姫が喜んだという事で良しとしようか。」
「ありがとうございます」
私は満面の笑みで礼を取る。
問題なくキッチンを使えることになった。
人生で一番の誕生日プレゼントである。
私は素直にそう思った。
「本当にありがとうございます。今までの人生で一番の誕生日プレゼントです。とても嬉しいです」
「今までの、か…今度で9歳だが、長く生きたように言うのだな」
私はドキっとしたが慌てずに
「本当の事ですから。」
そう答えていた。
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