第18話 傭兵と共にソーテールヘ

 翌日の朝、日の出と共に出発することにした。


 朝まだ暗いうちに着替えを済ませ、店の前でセオを待った。


 リディアはシャツとズボンに皮のブーツを履きマントを羽織っている。

 髪は三つ編みにしてシャツの中に押し込みスカーフを被って誤魔化している。



「お嬢様、もしもの時のためにこれをお持ちください」


 出掛けにマーサに渡された小振のナイフを、リディアはお礼を言って受け取りブーツの中に刺しこんだ。



「セオ、お嬢様に何かあったら絶対に許しませんからね。

お嬢様は、こんな格好をしていても男の子には見えませんから」


「分かってる。状況が違えばこんな無茶は許さないんだが仕方がない。

絶対に危険な目には遭わせない」



 城塞のメインゲートで護衛の傭兵4人と落ち合った。


 リディアとセオは前後を傭兵に囲まれて、エバンズから海岸沿いを東に向けて走り出した。


 ベルンへ向かうには途中アルザス山脈を越え東に走り続けるのだが、この山脈にはタチの悪い山賊が住み着いている。


 通常商隊は山賊を避けアルザス山脈の北側を迂回するが、今回は時間短縮のために山脈越えを狙う。

 陽の明るいうちに山を越えることができればかなり危険は減るだろう。



 1回目の休憩でサライの町に立ち寄った。サライの町は小さな宿場町で商隊の休憩箇所としてかなり賑わっている。


 馬を預けて世話を頼み酒場に入って行く。


 酒場は満席に近い混雑ぶりで、リディア達は入り口近くで席が開くのを待った。


 リディアはフードを被り俯き加減でセオの後ろに立っていたが、不審に思った客の1人が声をかけてきた。


「にいちゃん、フードなんか被って暑くないのか?」

「いや、大丈夫だ。弟は人混みが苦手でね」


 セオが代わりに答えてくれた。



 席が空き料理を注文した後、セオが小声で全員に話しかけた。


「このまま順調に行けば夕方ソーテールの町まで行けると思う。

そこで一泊して山越えするつもりだ」


 リディアは声を出さずに頷いた。


 傭兵のリーダーのヒューが厳しい声で、

「本当に山越えするのか? この時期は一番危険なんだが。

しかも小さな子供連れだと狙われる確率が上がる」


「迂回している時間がないんだ。夜明けとともに一気に山を越えようと思う」



 傭兵の1人ジャスパーが食事を終わらせ、酒場の亭主に山の情報を聞きに行った。


 ヒューは相変わらず眉間に皺を寄せていたが、


「了解。弟さんも予想以上に馬に慣れてる様だしなんとかなるか」


 ジャスパーが戻って来て何かヒューに耳打ちしている。話を聞き終わったヒューが、


「ここの所山賊は鳴りを潜めてるらしい」


「そいつは不味いな」


「あまり良い話ではないな。

ソーテールでもっと詳しい話が聞けると思うが、活発だった奴らが大人しいのは、時期を待ってる可能性が高い」



「ソーテールで情報が入ると良いんだが。なんとかして山越えしたいんだ」


 サライの町を出発してからも2時間に一度休憩を挟んだ。


 ヒューは、みんなから少し離れた所で休憩しているリディアを見ながら、


「セオ、弟さんは随分と無口なんだな」

「ん? ああ、リーは酷く人見知りするんだ」

「ふーん」


 何かを怪しんでいるのか、疑り深そうな顔でリディアを見ている。


「以前セオに仕事を頼まれた時、兄弟はいないって言ってた気がするんだが」


「そうだったかな? よく覚えてないな。

そう言えばヒュー以外の人とは今回初めて会ったんだが、付き合いは長いのか?」


「そうだな、さっきのジャスパーは4年くらいかな。後の2人はもう少し短い。

何度も組んで仕事をしてるから信用できる奴らだ」


 セオは以前に何度かヒューに仕事を頼んでいるが、リディアの警護を頼んだ事はない。


 出来れば最後までバレずに済めば良いのだがと、内心冷や汗をかいていた。



 幸いな事に、ソーテール迄は問題なく暗くなる前に着くことができた。


 セオが部屋を4つ取ろうとすると、


「おい、俺達は2部屋で構わんぞ」

「ん? そうか。そうだな、なら3部屋で」


「どうした、セオ顔色が悪いぞ?」


 俯いていたリディアがチラッとセオを見上げた。


「ちょっと疲れたかな。一晩寝たら直るよ」

 リディアがセオの袖を引っ張り小声で、

「湯浴み」


 セオの顔がますます青ざめて行った。


 風呂の準備を頼み、それぞれ部屋に分かれた。


 マントを脱ぎスカーフを外したリディアは、

「ふーっ、暑かったー」

と、赤い顔をして汗を拭いている。


 セオは所在投げに部屋をウロウロしている。


「セオ、どうしたの?」

「いえ、何でもありません。その、お疲れ様でした」

「セオもお疲れ様。湯浴みが済んだら、夕食はお部屋でも良いかしら?

もう一度マントを着たら又湯浴みしたくなりそう」


「そうですね。リディア様の食事はこちらに運びます」


 ドアがノックされたのでリディアが慌ててマントを被ると、宿の下働きが2人で桶とお湯を運んできた。

 

「そっそれでは、私はドアの外におりますので、おっ終わられたら声をかけて頂けますか?」


 セオが物凄い勢いで部屋を飛び出して行った。


 リディアは荷物から着替えを出しお湯に浸かる。


(ふう、想像以上に暑かったわ)


 のんびりと髪を洗い、着替えを済ませてからドアを中からノックすると、ドアが開きセオがゆっくりと顔を覗かせ、そのままバタンとドアが閉まった。


「?」


 湯浴み直後のリディアは、頬が上気している。濡れた髪をタオルで拭きながらセオを見上げる姿は想像以上の攻撃力で、セオは部屋に入る勇気を無くしてしまった。


 ドアの前で思わずしゃがみ込んで頭を抱えていると、ヒュー達が部屋から出て来た。



「セオ、そんなとこで何をしてるんだ?」


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