第16話 ジプシーのマリ
リディア達3人は午前中の涼しい時間から東の広場にやってきた。
東の広場は周りを木で囲まれた楕円形のかなり広いスペースだった。
広場には既に屋台や物売りが店を広げており、元気な呼び込みの声が聞こえてくる。
町の人達は家族連れや夫婦、恋人同士などが大勢訪れていて大きなバスケットを持っている。
「すごい人出ね。町は空っぽなんじゃないかしら」
「それに近いものがありそうですね。物売りは結構遠くからも来てるらしいですよ。
みんな荷馬車でやってきて、テントに泊まるそうです」
「テント、泊まってみたいわ。テントで暮らすのが当たり前の国もあるのよね」
「お嬢様、テントだけはお断りします。どうしてもって言う時はセオと2人で行って下さいね」
「ええ、流石にそこまでマーサに無茶を言うつもりはないから安心してね」
リディア達は物売りの店を覗いて綺麗な石や珍しい織りのスカーフを見つけては大はしゃぎだった。
少し離れた所にテントが立っていて、周りには誰もいない。他の場所と違う静けさに包まれているように見えた。
「あそこは何かしら。人が寝泊まりするところではなさそうね」
「ジプシーの占いかも。ちょっと覗いてきます」
セオが様子を見に行くとやはりジプシーが占いをやっていた。
今は誰もお客がいないと言うので、全員が占ってもらう事にした。はじめはセオで次がマーサ。
セオは眉間に皺を寄せ真剣な顔で出てきたが、マーサはにこにこと笑いながら出てきた。
リディアが中に入って行くと、黒髪でやや褐色の肌の若い女性が床に片膝を立てて座っていた。
様々な色に染められた服で、スカートが大きく広がっている。
「お婆さんじゃなくてびっくりした?」
「お婆さんが占う方が多いのですか?」
「うーん、その方がジプシー占いのイメージに合うらしくって、えっ? つて顔をされることが多いんだよね。
それに肌が思ったより黒くないとかも言われる。私達は白ジプシーだからそんなに黒くないの。
私はマリ。どうする? やる? やらない?」
「是非お願いします」
「じゃあ座って。どれか好きなの選んでくれる? 石・木・葉っぱ、あれは火」
「では、石でお願いします」
「何を聞きたい? 将来とか結婚とか?」
「結婚は全然興味がなくて、将来?」
「じゃあ袋を持って。一番知りたい事を考えながら手を突っ込んで石を掴んで」
リディアがマリの言う通りに袋の中で石を掴んだ。
「その石を床にばらっと落としてくれる?
そうそれでいい」
マリは黙ったまま暫く石を眺めていた。
「へえ、アンタって面白いね。もしかしてその年で物凄い成功を収めてる? 考えることが普通の人と違うみたい」
(スペンサー商会のことかしら?)
「四年前に商会を作ったの」
「そうか、じゃあそれの事だね。今でも結構上手く行ってるはず。
んー、でもアンタの周りの人が災難に見舞われてるって出てるから、その商会になんかあるのかも。
大きな運を持ってる人はそれと同じ位の不運にも見舞われるから注意して」
「最近立て続けにゴタゴタがあったんだけど、災難ってその事かしら?」
「それってもう終わったこと?」
「ええ、二つとも解決したと思うわ」
「なら、違う。アンタの現在と近い未来に災難の印が出てるから。
ついでにサービスしといたげる。さっきのにいちゃん、大事にしなよ」
「?」
「アンタの未来にすっごく大きく関わってる」
「確かに、彼は長い間ずっと一緒に仕事をしてきたから」
「これからも長い付き合いになるんじゃないかな?」
「そうあって欲しいわ。ありがとう」
リディアが代金を支払いテントを出ると、セオとマーサがほっとした顔をする。
「随分長かったので心配していました」
「お嬢様、大丈夫でしたか?」
「ええ、ジプシー占いって凄いのね。セオ、商会に連絡をとって欲しいの。
何か問題が起こってないか問い合わせしてちょうだい」
「何か言われたんですか?」
「うーん、マリさんって凄い占い師かもしれない。ちょっと商会が気になるの」
「では一旦宿に戻りますか? 飛脚を頼みましょう」
急いで宿に帰り手紙を書きかけたが、
「やっぱり一度エバンズに戻ろうかしら。飛脚便を使っても返事が来るまでに4日はかかるでしょう?」
「そんなに気になる事を言われたんですか?」
「商会が揉め事に巻き込まれてるって。
もし違ってても、一度商会の様子を見たら安心できるでしょう?」
ダーリントン侯爵とニールに手紙を書き、オークリーを出発した。
「お嬢様、商会に何事もないと良いですね」
「ええ、本当に」
馬車は馬の休憩以外はひたすらエバンズに向けて直走った。
「商会長、おかえりなさいませ。良かった、連絡がつかなくて困ってたんです」
「何があったの」
「ヴェンナの支店でミリアーナ様とファルマス子爵がやらかしてて、大変な事になってるんです」
「詳しく教えて」
ロバート達は事務所に乗り込み、事務員から仕事を取り上げやりたい放題。
その上ミリアーナが得意先からの注文品を持ち出そうとして壊してしまった。
金庫からいくつかの書類を取り出し、直ぐに馬車でヴェンナに向かった。
馬車の中は重苦しい空気が流れて誰も口を聞かない。
(はぁ、ロバート様とミリアーナの事は終わったって思ってたんだけど)
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