第15話 賭けの結果

「なにで勝負する?」


「待って下さい。リディア様、いくらなんでも無茶すぎます。勝負で決めるとか絶対駄目です」


 リディアはセオの腕を叩きにっこり笑った。


「えーっと、船で皆さんが良くやるのって何がありますの?」


「だから、駄目ですってば」


「サイコロかカードだな。どっちが良い?」

「では、カードで」


「リディア様、駄目ですってば」

 リディアの腕を掴もうとするセオ。


「種類は?」

「どれでもお好きなのを」


「リディア様、本「ブラックジャックにするか。セオが煩くてしょうがねえ。おい、この後ちょっとでも喋ったら去勢して簀巻きにすんぞ」」


「脅されても無駄です。リディア様をお部屋に・・むぐぅ」


 レオに口を押さえられセオが暴れている。


「お嬢様、本当に宜しいんですの?」

「ええ、決めきれないから神頼みかしら?」



「親は俺、一発勝負でどうだ?」

「良いですわよ。ブラックジャックって21に近づけるんでしたわよね」

「ああ、大丈夫か?」


「ルールは分かってると思うの。カードをお願いします」



 ニールがカードをシャッフルしてカードを2枚ずつ配った。

 リディアが手元のカードを確認した後ニールはカードを表向きにした。


 ニールのカードはスペードの6とハートの7。


 リディアは2回ヒットし手持ちのカードは4枚になった。ニールはその後ハートの6を引いて合計19。


 リディアがカードをオープンする。ダイヤの3・ハートの5・ダイヤの7・クラブの6。


 レオが呆然としている。

「マジかよ、21って」


 セオが真っ青な顔で床に座り込んだ。


「では船長さん。これから宜しくお願いしますね」

「おう、勝負だからしょうがねえな。宜しく頼むぜ、リディア・ポーレット伯爵令嬢」


「あらご存知でしたの?」


「いや、今の勝負で思い出した。

ポーレット伯爵家にはとんでもない令嬢がいるって以前ジジイが言ってたってな」


「ニールは侯爵様と随分仲が宜しいのですね」

「まあな、一応俺達の父親だからな」


 キョトンとしているリディア。


「誰と誰の父親ですの?」

「俺とレオの」

「お二人はご兄弟でしたの?」

「「そこから?」」


 ニールとレオが声を揃えた。


「リディア様は色んなところが鈍くていらっしゃいますから」


 セオがツッコミを入れた。


「ビックリですわ。では船長さんを手に入れた上に侯爵家との交渉もできたような物ですのね」


「何がしたいのかよく分からんがまぁお嬢の希望は叶うだろうよ。

俺が船長なら多分だがレオもオマケでついてくるぞ。

しかし、自分の一生をカードで決めるとかあり得んだろ」


「勝負を受けたお前がそれを言うか?」

 セオがニールを睨んだ。


「騾馬の時もそうでしたの。勘? きっと良い結果が出るってそんな予感がしましたの。

だからそれを信じてみました」


「騾馬? もしかしてお嬢はスペンサー商会の」

「はい、商会長を務めております。今後とも宜しくお願いしますね」



 リディア達は漸く夢の実現に一歩近付いた。


 局長達の行ってた不正は多岐に渡り取り調べはかなり時間がかかるとの事だった。


 港の詳細についてはレオが報告書が纏まり次第本店のエバンス宛に送ってくれる。


 リディア達はオークリーの町に戻り以前一泊した宿でダーリントン侯爵が戻ってくるのを待つ事にした。



 修理の終わった馬車に乗り込みカルムを出発した。


 1週間近く滞在したカルムでの緊張感が解れリディアがぼーっと窓の外を眺めていた時、


「リディア様、そう言えば一つ気になってる事が」

「何かしら?」

「先日羨ましかっただけだと仰っておられましたがあれは何だったのでしょうか?」


 リディアは暫く悩んでいたが顔を真っ赤にして、

「覚えてないわ。セオもそんなくだらない事は忘れてちょうだい」


「くだらない事なのですか?」


「セオ、あなたはちょっと生真面目すぎだと思うの。些細な事は忘れて良いのよ」


「些細なことだったんですか?」


 セオは訝しげな顔でじっと正面からリディアを見つめている。リディアは益々顔が赤くなりそっぽを向いてしまった。


「マーサ、どうしたら良いかな? すっごく気になるんだが」


「男の人が細かい事を気にするのはあまり感心しませんね」


「そうよね、流石マーサだわ。セオは細か過ぎで心配し過ぎなの。どーんと大きく構えて・・大きくね」


 リディアの元気がなくなっていき突然ふんっと横を向いてしまった。




「ここに泊まったのが何だか随分と昔の事に感じられますね」

 マーサが部屋を見回し嬉しそうにしている。


「本当ね。カルムの町であんなに足止めされるとは思わなかったから。侯爵様が戻られるまで暫くゆっくりしましょう」


「レオが話してましたが夏のこの季節には東の広場で週に一回市がたつそうです。

かなり賑やかで吟遊詩人やジプシーもやって来て焚き火を囲んでダンスしたりもするとか」


「吟遊詩人とジプシー? 珍しくない?」


「最近は吟遊詩人の数は激減してますしジプシーはまだ数が少なくて噂ばかりですから。

私も両方初めてです」


「ジプシーってエジプトから来た人って言うんでしょう?

髪も肌も黒くてダンスや音楽、それに占い。

吟遊詩人とジプシーの語り歌比べかしら。凄い楽しみだわ」


「いつあるのか宿屋の亭主に確認してきます」



「お嬢様、さっきのセオが気にしてた話は何だったんですか?」


「あの時、セオの服を借りてきたでしょう。

どこもかしこも大き過ぎてぶかぶかだったの」


「そうですね。袖や裾を折り返すのが大変でしたね」


「ウエストだって紐で絞って漸く着れたのに、お尻だけパツパツで破れたらどうしようって。

だから羨ましかったの。ちょっとだけね」


「ぷっ。それはセオには言えませんね」


「でしょう、なのにしつこいんだもの」


 2人で大笑いしている所にセオが帰ってきた。


「?」

「何でもないですよ。セオはレディのお尻のことなんて気にしちゃいけません」



「マーサ!」


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