第14話 バリケード撤去

 グフッと怪しい声を上げて崩れ落ちた船長は、うつ伏せで腰を高く上げくの字になっている。


「食事抜きとかそう言うのは私我慢できませんの」


 宿の中が静まりかえった。


 床でのたうち回っている船長にはリディアの声は多分聞こえていないだろう。


「すげぇ」

「ありゃやばい」



 痛みを想像して顔を顰めている船員達を他所目に、

「セオ、手加減のやり方が少し分かってきましたわ」


 リディアはにっこり笑っていた。



「大変、マーサを救出しなくちゃ。誰かお湯を沸かしてくださるかしら」


 2階に駆け上がって行くリディアの後ろ姿? の一部を船員達が見つめている。

 慌てたセオがリディアの後ろ姿を隠すようについて上がって行く。


「酷え、にいちゃんが一番良い場所で見てやがる」

「膝蹴り覚悟で良いから近くで見たかったなぁ」



 部屋でロープで縛られて猿轡を嵌められていたマーサを救出した。


 マーサは桶いっぱいのお湯で口を濯ぐ間ずっと涙を流していたが、

「ヒック、お嬢様がヒック無事で良かっだでず。ヒック汚い猿轡のごどヒックなんでお嬢様に比べだら」


 リディアはしゃくりあげながら話しているマーサの背中を撫で続けていた。



 マーサが落ち着きを取り戻しリディアはドレスに着替えたがセオの顔を見た途端そっぽを向いた。


「リディア様、何かありましたか?」


 困惑気味のセオ。


「別に何でもないわ。セオがちょっと羨ましかっただけ」


「そんなに裏帳簿見つけに行きたかったんですか?」

「違うわ、それはどうでも良いの。男の人はほら、あれよ・・あーもう知らない」



 翌日領主に手紙を届けに行ったレオが帰ってきたので、全員でテーブルを囲んで作戦会議を始めた。



 領主は屋敷に戻っていたそうだが、面会はせず手紙だけ執事に預けて帰ってきたそう。


「さて、どうするかな。証人はこの2人、局長の秘書と騙された船員か。ちょっと弱いな」


「裏帳簿持ってますよ」


 セオが少し丸まった帳簿をニールに手渡した。


「どうやった?」


「足に縛り付けときました。

どうせリディア様が何かやらかすだろうと思ってましたし、帳簿を持って帰らないと今度は自分が行くって言いかねないんで」


「お前、苦労してんな。もしかしてそう言うのが好きな方なのか?」


「変な性癖はありませんからご心配なく。リディア様とはもう7年以上の付き合いなんで」


「なんだ、ただのロリコンかよ」


「ニール、セオは自分好みに育てるのが好きってやつなのかも」

「はっ、ぜってえ育てられてんだろ。セオが躾けられてるって」

「あー、確かに」


「マーサ、性癖とかロリコンって何?

セオは誰かに育てられてるの?」


「だっだから、俺はノーマルです!」


「はいはいっと、んじゃ領主が来るのを待って一気に片付けるか。俺の予想じゃあのジジイ今日中に駆けつけると思うぜ」


「ニール、手紙に何を書いたんだ?」


 興味深々のレオにニールは、


「ジジイの秘密をバラしますってな」


「ニール、ニール・フォルス!

出てこい、このバリケードの山は何だ!」


 ニールの予言通り、当日のうちに侯爵が騎乗で駆けつけた。


 管理局や船員が作ったバリケードを掻い潜り、局長達を蹴散らして一目散にニールの所にやってきた。


「おっさん、久しぶりだな。ちょいと老けたか?」

「老けてもおらんし腹も出ておらん」


「ほー、腹を気にしてるのか」


「何の用で態々呼び出した?」

「こいつを見ろよ。

あんたが放り出してる間に面白い事が起きてるぜ」


 ダーリントン侯爵はニールを不審げに見ながら、机の上に放り出された帳簿を確認した。


 局長が宿に駆け込んできて汗をかき息を切らしながら、

「ご領主様、突然どうされましたか?」


 さっきまでとは打って変わって冷ややかな声の侯爵が、

「局長、この港で何が起きている?」


「船長達が暴動を起こしまして鎮圧しようとしておりましたが、ご領主様が心配されるような事は何もございません。

あっという間に治めてご覧に入れます」


「では、これは何だ?」


 侯爵が局長に帳簿を見せつけた。


「は? やっ、それは」


「局長を牢へ。それ以外の管理局の者達も全員集めて話を聞かせてもらおう」


「局長室の絨毯の下に秘密の地下室があったぜ。

昨日の夜は金やら宝石やらがたんまり隠し込んであったよなあ」


「管理局に忍び込むとは、誰かその盗人を捕まえろ!」


「その前におめえ局長の審議だな。盗人猛々しいって言葉知ってるか?」



 侯爵が局長達と出て行った。


「さてと、おいお前らバリケード全部壊して片付けてこい」


「まさか、局の奴らが作った分もですか?」


「それは向こうの奴らに片付けさせろ。残りの金が欲しけりゃ働けって言っとけ」


 レオ以外の全員の男達が出て行った。


「さて、後はジジイが全部始末するだろうから酒でも飲んで待ってりゃ良い」


「ニール、侯爵の秘密って?」


「それをレオにバラしたら次から使いにくくなんだろうが。

俺しか知らねえから効果絶大ってやつだからな。それよりもだ、お嬢アンタに真面目な話がある」


「?」


「俺の嫁になんねえか?」


 マーサとセオが、

「「まさかの、デジャブ?」」


「えーっと、ニールは私の事が好きって事ですの?」

「そう言うこったな。どうだ?」


「うーん、今はそれどころじゃないと言うか。他にやりたい事がありますの」


「俺とじゃできねえ?」


「そうでもありませんわ。

腕の良い船長さんは探してますのよ。そうよねセオ?」


「また俺に振りますか、堪忍してください。

第一、結婚相手と商売の話は別でしょう?」


「そう言えばそうね。だったら・・そうだ、勝負しませんこと?」

「?」

「ニールが勝ったら結婚する。

私が勝ったら船長さんとして雇われる。

どうかしら?」


「リディア様!」「お嬢様!」



「よっしゃ、その賭け乗った」

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