第13話 盗賊稼業と膝蹴り
ニールと近くにいた男達が、リディアの笑顔に呆然としている。
「リディア様、それ駄目ですってば」
「かっ可愛い」
「たまんねえな」
「お前ら、お嬢を見てんじゃねえ。そっちでレオを吊し上げてろ」
「酷え、独り占めかよ」
「俺らにだってちっとくれえお裾分け「簀巻きにしてドブに放り込まれたいのか?」」
リディアは呑気に手を振っている。
「ほら、レオが待ってるわよ。吊し上げてって」
「「・・」」
「さて、話を戻すわね。セオに領主様の所に行ってもらって私が「駄目です。リディア様はお部屋で待機」」
「でもね、ここの人達は船の扱いは凄くても、領主様との話し合いには向いてないと思うの。セオは馬の扱いが上手だし領主様にもキチンと状況説明出来るでしょ?」
「アンタに盗賊家業は向いてねえよ。領主のジジイには手紙を届けて、さっさと来いって言ってやる。
裏帳簿は俺が行く」
「1人は危険じゃない? 見張り役とかいた方が良くないかしら」
「あんたは駄目だ。手下の誰かを連れてくよ」
「はぁ、それなら私が一緒に行きましょう。
裏帳簿がどれなのか探すのにも役に立ちますから」
「セオ、もしもの時はちゃんと保釈金払うから心配しないでね」
「リディア様・・」
「あら、勿論ニールのも払うわよ。言い出したのは私だもの」
「お嬢、あんた結構エグいな」
その日の夜中、ニールとセオは人影のなくなった裏通りを管理局に向けて歩いていた。
「あんたも大変だな」
「普段は・・大体は楽しんでますよ」
「奇想天外なお嬢に振り回されてか?」
「変化があるのは良いもんです」
「はっ、惚れた弱みかよ」
「・・」
「さて、正面から堂々と行きますか」
ニールはポケットから鍵を取り出した。
「用意が良いですね」
「奴ら、金儲けばっかり考えてて他の事はザルだからな」
正面玄関のドアを開け月明かりを頼りにカウンターの奥の事務所に入り込んだ。
いくつもの机が並んでいて壁際に様々な本や書類が並んでいる。
次のドアを開けて入ると豪華な執務机が鎮座していた。高級そうな壺や絵画が飾られ年代物のタペストリーがかけられている。
「ここだな。さてと急いで探しますか」
2人で机や棚、ありとあらゆるところを探したがそれらしき物が見当たらない。
「家に持って帰ってやがんのか?」
「いや、金庫が見つかってない。どこかにあるはず」
絵画の裏や壺の中やタペストリーの裏も調べたが見つからない。
床に敷かれた絨毯を捲り地下室を見つけた。鍵をこじ開けてニールが中に入る。
「ひょー、すげぇ金やら宝石が山盛りだぜ」
「帳簿は?」
ニールが地下室から上がってきた。2冊の帳簿をヒラヒラさせている。
窓の下に行き、月明かりで中を確認する。
「間違いない。さっさと帰りましょう」
帳簿をポケットに隠して部屋を出る。カウンターを回り込んだ辺りで、正面玄関のドアが開く気配を感じた2人はカウンターの下に隠れた。
「さっさと出てこい。綺麗な顔に傷がつく前にな」
「お嬢!」
ニールが立ち上がったが、セオは足元で何かゴソゴソやっている。
「もう1人いるはず。さっさと立て」
セオが両手を上げて立ち上がった。
「ゆっくりと前に出て来てもらおう」
男は3人。1人は銃をセオ達に向けている。2人目はリディアの腕を捕まえ、ナイフをリディアの顔に当てている。
「てめえ、裏切ったのか」
3人目の男は何度か見かけたことのある船員の1人だった。
1人目の#
「それだけか? もっとよく探せ」
ポケット以外にも背中やお腹など隈なく探し、
「これだけです。他には持ってません」
男が手渡した裏帳簿を局長が裏確認しようとした時、
「あっ」
リディアが突然気絶しかけた。ナイフを持っていた男は慌てて、崩れ落ちそうになっているリディアを支えようとした。
ナイフが顔から離れた瞬間リディアが膝蹴りを放ちナイフの男が崩れ落ちた。
体をくの字に曲げて悶絶している。
ニールが船員に掴みかかり、セオは銃を持った局長に向けて殴りかかる。
局長が銃を撃ったが狙いが定まっておらず天井のシャンデリアの近くを撃ち抜いた。
セオが怯んだ隙に局長は1人逃げ出した。
「お嬢、何で格好してんだ?」
リディアは男物のシャツとズボン姿。
かなりサイズが大きいようで、袖と足元を巻き上げウエストをリボンで縛っている。
「セオの荷物を漁りましたの。
手伝うことができた時この方が動きやすいでしょう?
思った以上に動きやすくて助かりましたわ」
リディアの膝蹴りを受けた男はほぼ失神状態でヒクヒクしている。
「だろうな、そのおっさんもう使いもんになんねえかもな。
男としては、あれだ。ちっと可哀想な気がするぜ」
ニールとセオ、船員の3人は酷く顔を引き攣らせていた。
悶絶していた男は放置して宿屋に帰って行く。
「証人として連れてった方がいいのかもしれねぇが、あれじゃ動かせねぇよな」
「宿に着いたら医者に連絡して、動かせそうになったら連れてくるのが良さそうですね」
「コイツに話をじっくりと聞かせて貰わんとなあ」
「すんません、管理局で雇ってくれるって言われて」
「アホか、んなもん嘘に決まってんだろうが」
「すげぇ高給だったんす。これなら船降りても余裕でやってけるって」
「そんなに厳しかったのか?」
「俺、力もないし手先不器用なんで。いつも怒られてばっかりで、飯もらえない時とか」
「覚悟は出来てんだろうな」
「・・はい」
宿に着くと煌々と灯が灯され、まだかなりの人が酒を飲んでいた。
ここにいる者の殆どはこのまま朝まで飲み明かすかそのまま酔い潰れてしまうのだろう。
「どなたが船長さんなのか教えてくださるかしら?」
「はい、あそこにいる茶色の上着で髭を生やしてるのがそうです」
「リディア様、駄目です」
腕を掴もうとしたセオの手をすり抜けて、
「失礼ですが、あそこに立っている船員さんは船長さんの船で働いておられますの?」
「ん? ああ、ありゃうちの役立たずだ」
酒で顔を赤くした大男がフラフラと立ち上がった。
「リディア様、駄目ですっ!」
セオの怒鳴り声が響くと同時に、リディアの膝蹴りが船長を直撃した。
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