第12話 中抜き、賄賂にピンハネ

「失礼しました。私はリディア・ポー・・唯のリディア。こっちがセオで彼女はマーサ」


「んで、何でこんなとこに? ここはお嬢が遊びに来るようなとこじゃねえ。道にでも迷ったか?」


 リディアが話をしようとするとセオが慌てて話し始める。


「大した理由はなくて、ちょっと港町を覗いてみ「新しい関税について教えて頂けません?」」


 ガックリと肩を落とし頭を抱えたセオを横目で見ながら、


「この港に船を着けられるかなって思って、調査に来ましたの。

そうしたら偶々関税の事で揉めている最中だってお聞きしたものですから」


「いいかお嬢様、こいつは若い貴族のお嬢様には関係ない事だ。

お遊びに付き合ってる暇はねえ。

物見遊山の船なら次期に港を使えるようになる」


 レオが冷たく言い放つ。


「商売の船ですの。

だから何に課税するつもりなのかとても気になりますでしょう?」


「お嬢が商売? おままごとの道具でも売るつもりかい」


「まだ何も言えませんの。

この港が商用利用出来るのか、どの位の収容能力があるのか知りたくて」


 レオとニールは不審げな顔で暫くリディアを見ていた。

 腕を組んだレオが口を開いた。


「そこのにいちゃん、セオっつったっけか。

この惚けたお嬢さんの言う事は本当か?」


「・・本当です。港が落ち着いてから出直すつもりでしたが、残念な事に足止めを食ってしまったので」


 ニールが頭をガシガシとかきながら、


「そいつはすまなかったなぁ。

かなり気が立ってたから金持ちの馬車を見た途端頭に血がのぼっちまって」



 レオが席を立って、男達と出て行った。


「取り敢えず食ってくれ。食いながら説明するよ」


「では、遠慮なく。やっぱりお魚料理が多いのですね」


「ああ、魚は苦手かい?」

「好き嫌いはないので大丈夫ですわ。これは鰻ですわね」

「ああ、そっちは虹鱒でこれがブリーク。鯉の仲間だな」



「では、積荷に課税を?」

「ああ、今までは通行と港の使用が課税されてたが今度は積荷に従量制の課税をすると言い出しやがった。そんな事になったら商売にならねえ」


「それは問題だわ。どうしてそんな事を言い出したのかしら」


「この辺りには商人ギルドも職人ギルドもねえからな。

役人がやりたい放題やってる」


「領主様は何も仰いませんの?」


「あのおっさんが役人に全権を任せてるからいけねえんだ。

ちょっと前から随分と忙しくなったらしくてな、港の事は管理局に丸投げしやがった。

んで、奴らはやりたい放題で贅沢しまくってる」


「中抜きですの?」


「賄賂にピンハネ、何でもありだな。

新しい関税だって領主に報告するかどうか分からんな」


「でも、武力行使は良くありませんわ」


「まぁな、ありゃ唯の威嚇よ。よっぽどじゃなきゃ戦うつも「大変だ! ニール、奴らが港と街道を封鎖しやがった」」


「くそ、アイツらマジで馬鹿なのか? んな事やったらただじゃ済まねぇって分かってんのかよ」


 ニールが連絡に来た男達を引き連れて駆け出して行った。



 カルムの町に閉じ込められたリディア達。


 マーサは先程から皿の中の魚と睨み合いを続けている。


「マーサ、暫くここに逗留する事になったみたい。

それ食べても大丈夫。かなり美味しかったから頑張ってね」


「はい、食べてみます。鮮度やお味より衛生面が不安でつい。

それよりお嬢様大丈夫でしょうか。戦いになったら危険では?」


「うーん、邪魔にならないようにお部屋に籠るとかしかないかしら」


「お嬢様にしては賢明な判断ですわ」


「? 管理局に怒鳴り込むと思ったの? 確かに、それもありよね」


 セオが慌てて立ち上がる。


「マーサ、リディア様に余計な知恵をつけちゃダメだ。俺達の仕事はリディア様を守る事だからな」


「セオ、落ち着いてお部屋が空いているか聞いてきてちょうだい。マーサは少し腹ごしらえしてね」



 その後数日経ったが町は膠着状態が続いている。


 管理局は傭兵や冒険者を雇い、着々とバリケードを積み上げている。

 ニール達もバリケードを積み対抗しているそうだ。


 時折銃声が聞こえてくるが、どちらの陣営にも被害は出ていない。


「うーん、これじゃあ全然前に進めないわね」


 リディアが部屋の窓から外を眺めながら呟いた。


「ダーリントン侯爵に連絡するのが一番だと思うんだけど、もうマナーハウスに戻られたかしら」


「間道を通って侯爵様宛に手紙を出すとか」


「そろそろニールが食事に戻ってくる頃じゃないかしら。ちょっと見てくるわ」


「お一人では駄目です。一緒に行きましょう。それと笑顔禁止ですよ」


「それがよく分かんないけど、できる限り真顔でいくわね」



 部屋を出ると一階の酒場で男達が揉めている大声が聞こえてきた。


「だから、いつまでこんなこと続けるんだって言ってんだよ!」

「船出が遅れるほど借金が嵩んじまう」

「とっとと片を付けようぜ」


 そっと階段から下を覗くと険しい顔をしたニールとレオが男達に囲まれていた。

 リディア達が音を立てないように階段を降りて行ったが、目敏いレオが気付いて声をかけてきた。


「お嬢さん、腹でも減ったか?」


「いえ、それ程でも。ちょっとニールに用事があって来たのだけど、忙しい様なら出直しますわね」


「いや、大丈夫だ。こっち来いよ後はレオ頼んだぞ」


「えっ、オレ? マジかよ」



 店の一番端の小さなテーブルに3人で座り、小声で話し出した。


「このまま膠着状態が続くのは不味いでしょう?」

「ああ、奴らかなり気が立ってる。

船員なんて元々気の短い奴らが多いからな、よく持った方だと思う」


「でね、間道を通って領主様に連絡するべきじゃないかと思うの」


「それも考えてはいるんだが、あのジジイが管理局の肩を持ったらますますやばい事になるだろ?」


「だから、盗みに行きましょう。裏帳簿を」



 リディアが満面の笑みを浮かべた。


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