第11話 逃走失敗で、マーサのピンチ再び

 セオが馬車に乗り込んできてドアの鍵を閉め、馬車の屋根を叩くと馬車はゆっくりと走り出した。



「港で抗争?」


「はい、港湾管理局が新しい関税を設けると言い出して船主達と揉めています。

既に一触即発の状態だそうです」


 大通りには武器を持った船員達が集まり始め辺りはますます騒がしくなってきた。


「ここは一旦オークリーに引き返して騒ぎが落ち着いてからルーカスに任せましょう」


「そうね、とりあえずオークリーに戻りましょう」


 港の近くまで来ていた馬車は大通りを外れてオークリーへの迂回路を走りはじめた。



 バーン! ガタン、ガコン。どーん。

「きゃあー」



 馬車が右に傾き車輪が外れた。


 斜めに傾いた馬車の中ではセオがリディアとマーサを抱え込んでいる。


「おい、さっさと出て来やがれ」


 複数の男達が馬車を揺さぶりドアを開けようとガタガタ揺らしている。


 セオ・マーサ・リディアの順に馬車から降りる。


「ひゅー、こいつはすげぇ」


 男達のヤジが飛んできた。



 セオがリディア達の前に立ちはだかりきつい口調で睨みつけた。


「これはどう言う事だ!」


 男達の後ろで誰かが何か言っている。男達は顔を見合わせ持っていた武器を下ろして後ろに下がった。


 1人のニールが前に出てきた。


「俺はあそこに見える船の船長でニールだ。

あんたら港湾局の奴らじゃねえのか?」


 ニールは沖に止まっている船の中で一番大きな船を指差した。

 その船は艦首を港に向けていていつでも臼砲を撃てるよう準備してある。



「ただの旅行者だ。随分と物騒な雰囲気だからたった今引き返そうとしていたんだ」


「あー、そいつはすまねえ。

随分と立派な馬車だからよぉてっきり港湾局のお偉方が乗ってるんだと思ってな。

おい、誰か車大工を呼んでこい」


 男の一人が町に向けて走り出した。


 残った男達は道を塞いでいた馬車を端に寄せた後所在なげにウロウロしている。


 馬車の下を覗いていた男の1人が、

「こいつは修理に手間がかかりそうだな。車軸がモロにいっちまってやがる」


「馬は二頭とも怪我してなさそうだぜ」


 逃げ出していた御者が恐る恐る帰ってきた。



「馬車が直るまでこの町に滞在するしかなさそうね」


「おう、宿に案内するぜ。

あんたらが普段泊まってる上品なとことは随分ちげえが酒と料理はとびっきりだ。

お前ら、この方達の荷物を運びやがれ。

一つでも壊したりかっぱらったりしたらただじゃおかねえからな」


 ニールを先頭にして混雑した道を歩いて行く。


 リディアは、小声でセオに話しかけた。

「ついでだからニールさんにお話を聞こうかしら」


「・・リディア様。まさかの参加ですか?」



「だって関税が増えたら困るでしょ」


 リディア達はニールの後をついてカルムの大通りを歩いて行く。


 武器を持ってどこかに駆けて行く男達に派手な化粧の女達が声をかけている。


「頑張んなー」

「後でおいでよ、サービスしたげるからさ」

「あんな奴らに負けんなよ」


 リディア達一行に気付いた女が、

「なんだいニールもう捕まえたのかい? やること早いねえ」


 その言葉に周りの男も女もざわつきはじめリディア達を十重二十重に取り囲んだ。


「おい、ニール。そいつらなんだ?」

「奴らの家族か?」

「いい女じゃん、やっちまおうぜ」


「ニール、後で俺らにもおこぼれ寄越せよ」


「うっせえな、お前ら準備はどうした。こいつ・・この方達は唯の旅行者だ。

手ェ出したらぶちまわすぞ。さっさと退きやがれ」


 ドスの効いたニールの言葉に男達が慌てて避け、女達はリディアを冷ややかな目で睨みつける。

 粗野な男達と派手な女達が作る花道をリディア達は足早に通り過ぎた。



 両開きのドアが開かれ大勢の男が屯している店にニールが入って行った。


「おい、レオ。お客を連れてきた」

「あぁ? このクソ忙しい時に何やってんだよって、ひゅー上玉じゃん」


「客だっつってんだろ。おかしな目でみんじゃねぇよ。

お前ら、そこどけ。テーブルを片付けろ」



 店の一角の大きなテーブルについていた男達が、めいめいの皿とコップを持って慌てて立ち上がった。

 テーブルの上が片付けられて椅子が差し出される。


「おっお嬢さん、どうぞ座ってくだせえ」


「ありがとう、では遠慮なく」


 にっこり笑うリディアを見た男達が赤い顔をしてほぅっと溜息をついた。


 セオがリディアの耳元で、

「リディア様、笑顔禁止」

「?」


 意味がわからずキョトンとするリディア。



 ニールが椅子に座りながら、

「おい、飯だ。酒と飯を持ってこい。

あんたら2人も座ってくれ、立ってちゃなんも食えねえ」


 リディアとセオは思わずマーサを見たが、マーサは椅子とテーブルを交互に見て顔を引き攣らせている。


「「マーサ、ファイト」」


 マーサ、2度目の大ピンチ。



 リディアを挟むようにして2人が腰掛けた。

 マーサは背筋を伸ばし青い顔。膝の上で両手を握りしめているがその手が震えている。

 

 酒と料理が運ばれてきた。


「さっきは悪かったな。さぁ食ってくれ」


 レオと呼ばれた男がニールの隣に腰掛けた。


「おい、勿体ぶってねえで紹介しろよ」


「俺もまだ知らねえ。

さっき波止場の近くで間違って襲っちまったんだ。

ここに来たのは馬車が直るまでの場繋ぎだ」


「お嬢さん、オレはレオ。レオ・フォルス」


「ぷっ」

 リディアが吹き出した。


「「「?」」」


「ごめんなさい、だって“オレはレオ” って回文になってるわ」



「「「そこー?」」」


 ツッコミどころのおかしなリディアだった。


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