第4話 コーヒーと船

「マーサ、コーヒーをいれてくれるかしら?」


 ルーカスが慌てて立ち上がる。

「コーヒーなら私が。マーサの入れるコーヒーは胃にくるので」


 マーサがルーカスを横目で睨んだ。

「まあ、それ程じゃありませんよ。ちょっと濃いかな? って位です」


 イーサンがセオに小声で、

「結構だよな。俺、この間眠れなくなったもん」

「お嬢様、イーサンが徹夜できるくらいにいっぱい仕事を振ってほしいみたいですよ」


「うわ、マジ。それだけは勘弁して」


 この頃のコーヒーは煮出して作るターキッシュ・コーヒーで、マーサは料理は得意だがコーヒーを淹れるのは苦手らしい。



 ルーカスが5人分のコーヒーを持って帰ってきた。


「造船業者は結構強気でした。ガレー船による定期航路開設の話が出ているせいだと思います。

それと今はコグ船よりハルク船の方が良いかもしれません」


 イーサンが驚いて、

「えっ? ハルク船ってただ浮かんでるだけってイメージがあるけど?」


「以前はね。最近では厚板の重ね貼りを使って強度を上げる事でコグ船より積載量も上がってます。

価格はコグ船より低価格ですし製造できる船大工もハルク船の方が多いです」


「サイズとしてはどっちがいいのかしら?」


「ロレンヌ川は所々川幅の狭いところがあるので今のコグ船は難しいと思います。

最近のコグ船はかなり大型化してきてました」


「依頼したらどのくらいで納入出来そう?」


「一艘で2ヶ月。旧型タイプを補強した物ならかなり早いです」


 リディアはルーカスの出した資料を見ながら考え込んでいる。



「セオ? 貴族の方はどうだった?」


「これが話に乗ってきそうな貴族の一覧表です。主な特産品も記入してあります」


「結構いるわね」

「はい、思った以上でしたね。

ロレンヌ川の近くに領地がある貴族から螺馬で川までの輸送に1週間程度の貴族に限定してみました」


「この間話を聞いたブルック伯爵とダーリントン侯爵も入ってるわ」


「あと、今回は特産品に鉱物資源は入れませんでした。物量によっては重量オーバーになりかねないので」


「そうね、それが良さそう」


 イーサンがコーヒーを飲み幸せそうにしている。


「ルーカスはクソ真面目な堅物だけどコーヒー淹れるのは上手いよな」

「堅物とコーヒーは関係ないぞ?」

「イメージってやつよ。堅物はコーヒーより紅茶な感じがする」

「それ、物凄い偏見だと思うぞ。紅茶好きが聞いたら怒りそうだ」


「だってほら。足を組んで紅茶のカップを持って眼鏡をクイっと」

 イーサンがルーカスの真似をした。


 リディアとマーサが顔を見合わせて笑った。


 リディアが突っ込みを入れた。

「イーサン、滅茶滅茶似てる」



 ルーカスがイーサンを睨み全員が爆笑した。


「運送用のハルク船を5艘注文しましょう。それと、もう少し小さめの護衛用を2艘」


「5艘とは多すぎませんか? もし貴族達が計画に乗って来なかったらかなりの赤字です」


「間違いなく乗ってくるわ。

彼らは倉庫に余裕が出来てお金になるんだもの。やらないわけがないと思う」


「もしやらないようなら現地で買い付ける方法もありますね」

 セオはリディアの意見を後押ししてくれる。


「そん時は費用割増か?」


「勿論です。輸送コスト等全てこちら持ちになるんですから」


「ルーカスってリディア様よりエグいな」

「ビジネスだからね」


「どちらにも損にならない価格帯でやればいいわ。暴利を貪って恨みを買う必要はないもの」


「じゃあ、ルーカスは船の購入手続きを。

イーサンは商人ギルドと同職ギルドの根回しをお願い。

セオにはルーカスと一緒に川上と川下の港の準備をして貰うわ。中継地点の港も必要ね。人の手配は私が」


「「「「駄目です」」」」


「何で?」

 全員の反対にリディアがビックリしている。


「それだとリディア様はお一人であちこち彷徨くつもりでしょう?」


「彷徨くとか酷くない? マーサもいるし必要ならちゃんと護衛も頼むつも「頼みませんね、絶対。前科ありますから」」

 セオが、リディアの話を遮った。


 リディアが小声でいじけている。

「犯罪者みたいじゃん。商会長さんかわいそうだなあ」


「自業自得ですね。日頃の行いとでも言いますか。

護衛なしでフラフラ出歩くリディア様に問題があります」


「公爵家行く時だってなー」

「えーっ、あの時はちゃんと護衛頼みましたぁ」

「たったの2人な」


「しかも馬車の座席の下は宝石だらけ」


 ガダガタバタン。3人が一斉に立ち上がり椅子が倒れた。


「「「はあ?」」」


「マーサ、それは内緒って約束したじゃない」

「してません。可愛くお願いされましたけどお返事してませんから」

「うっ、酷い」


「女の武器は女には通用しないって覚えてくださいね」


「じゃあ、男の人になら通じるの?」

「通じますとも。その後に起こる事に責任が持てるなら」

「では、教えて。何が起きるの?」

「知りたいですか?」

「勿論よ」

「そこの3人じゃんけんしますか? 勇気があれば手を挙げますか?」


「はい! やります」

と、イーサンがセオの右手を上げている。


「マーサ、あれってどっち? 上げてるに入るの?」



「リディア様、じっくり・ゆっくりお話した方が良さそうですね。危険予測と防衛について」

 セオが睨みつけている。リディアは小さくなって、

「ごめんなさい。次は気をつけます」



「マーサ。今度リディア様が無謀な事をしそうになったら簀巻きにして俺達の誰かに連絡してくれ」

「なんなら猿轡込み?」


「みんな怖すぎ」

「それが怖かったら暢気に出歩かない事ですね」


「はい」


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