第41話

わたしはため息が出そうな状態を堪えつつ、深呼吸をして気持ちを落ち着けた。


この家の人たちとわたしの衛生観念が違うのだと、自分に納得させる。お客様の気持ちがわかるだけにそこの説明をすれば、理解をしてもらえるだろうともう一度自分に言い聞かせる。


「おばさん。お客様がタオルが少ないというのは、わたしも同意見です」


「そうかな? 一枚で足りるでしょ? 」


「人によってどこから身体を拭くかは違うと思います。足から拭きたい人もいるでしょうし、背中から、という人もいると思います。足を拭いた後に、同じタオルで頭は拭きたくないじゃないですか。せめてもう一枚タオルを追加する必要はあると思います」


「そうなると洗うのが大変でしょう?乾くのも時間がかかるし。出来たら一枚で済ませたわ」


「そうですね。確かに乾くのが大変なのは良くないと思います。タオルの追加購入は試験運用の後でしたよね? まだ、買ってないと思っていましたけど」


「まだ買ってないよ。あるものを使っていたから」


「でしたら、バスタオルを諦めて、小さなタオルを二枚にしませんか? 洗うのは少し大変でしょうけど、乾くのは早いと思います」


「そうね」




おばさんはわたしの提案に納得がいかないようだ。しぶしぶといった様子である。ここは説得が必要そうだ。


わたしは少し背伸びをしておばさんの説得にかかる。




「おばさん。手間を考えるのはわかります。一人増えるたびにタオルが増えるのですから、考えただけでもうんざりすると思います。でも、ここはお客様の満足度を上げる方が大事だと思います」


「それはそうなんだろうけど」




理解はできるが納得はしたくないような様子である。その気持ちはわたしも理解できる。分かっていても嫌なものは嫌なのだ。


特に洗濯は手洗いなので手間のかかり方は一番大変だ。そこの仕事が増えるのは拒否感は出るはずだ。


救いはバスタオルよりも小さい分洗いやすいはずだ。そこを説得の材料にしたい。




「おばさん。バスタオルより小さいいから洗いやすいと思います。2枚でバスタオル一枚分だと思えば少しは楽になりませんか? 」


「それはそうなんだろうけど」


いかにもしぶしぶだ。諦めが悪いというか、改善を目指すことになったのだから、そこは諦めてもらって、気持ちよく了承してほしいと思う。


気持ちの持ちようで物事は変わるとわたしは思っている。




「おばさん。気持ちよくいきましょう。笑顔でいた方が何でも上手くいくと思いますよ。やってみましょう? 」


「そうだね。喜んでいてくれる人もいるし。それでうまくいくなら試してみようかな」


「ええ。お願いします」




おばさんは改善してくれる様子なので、試験運用の期間を延長する事になった。


持ち出しが増えることになるが、なるべく情報を集めてこの後の本格運用を上手く回したいと思う。

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