第36話

家の手伝いも終わり、無事に昼食も済ませたわたしはリサの家に向かっていた。手にはお菓子を握っている。母に持たされたものだ。連日リサの家にお邪魔しているので母が気にして持たせたものだ。


ちゃんと挨拶もするのよ、と何度も念を押されていた。それに頷きつつ家を出る。母はわたしが依頼を受けてリサの家に行っている事を知らないので、失礼なことををしていないか心配しているのだろう。無理もない事だ。憂鬱な気分を引きずりつつ職場に向かう。こんな気持ちで仕事に行くのでは、前の生活の繰り返しだな、と思う。仕事が嫌になるのは仕事内容よりも、人間関係の方が大きいのだろうと実感する瞬間である。


入り口に立つとため息がでる。


またリサから攻められてしまうのだろうか?嫌だな、と正直に思ってしまう。許可さえあればいつでも話せるのに。話せないのはわたしの責任ではないのに、なんでこんなに、とも思うがリサからすればわたしに言うしかないので、そこは諦めるしかないのだろう。




わたしは諦めを飲み込みつつドアを開けて中に入る。日参していると入るのに抵抗がなくなっていく。


挨拶の声を上げるとすぐにお兄さんが出てきてくれた。掃除をしていたようだ。


「ごめんください」


「こんにちは。パルちゃん。いらっしゃい」


「こんにちは。お掃除ですか?」


「今日は部屋の移動をするんだろ?その下準備。すぐに始められた方が良いと思ってね」


「そうですね。助かります。ありがとうござます」


「ウチの事なんだからありがとうはおかしくない?」


「そんな事はありませんよ。スムーズに進むのは助かります。わたしも一緒にするんですから」


お兄さんが笑いながらわたしの言葉を訂正するが、さらにわたしも訂正する。お兄さんはおじさん達がいないときは朗らかに話すことが多いように思える。今も二人で話すせいか気楽に話しているような感じがするし、気のせいではないと思う。


どんな聞き方をしようか?聞き方によってはお兄さんも嫌な思いをすることになるし。


そう思いながらお兄さんを見ていたらお兄さんが困ったようにわたしに笑いかけてきた。


「パルちゃん。僕の顔に何か付いてる?そんなに見られると恥ずかしいけど」


「ごめんなさい。そんなつもりじゃなかったんですけど」


お兄さんの指摘に恥ずかしくなりわたしは下を向く。考えていたらじっと見つめていたようだ。お見合いのように二人で固まっていたらおじさん達が出てきた。二人で固まっているのを見て何事か不思議そうだ。


「どうしたんだ?パルちゃん。こいつが何かしたか?」


「いいえ。何もしてません」


とっさに言葉が出てこず、中学生みたいな返事しか出てくる。そのせいでさらに恥ずかしくなり俯いてしまう。これ以上色々聞かれたくないわたしは今日の予定を確認する。


「今日は荷物の入れ替えをする予定ですけど、このまま進めて大丈夫ですか?」


「ああ、もう始めてるよ。入れ替える場所の掃除は終わっている」


「そうなんですね。私は来るのが遅かったですか?」


「いや、本当なら自分たちだけでしないといけないんだから。来てもらえるだけで助かるよ」


「そう言ってもらえるとわたしも安心します」


遅くなった事を気にしていたけどおじさんの言葉に少し安心する。


遅れた分を働かないと。


わたしはおじさんよりもお兄さんの方か話しやすいので仕事の続きを聞く。


「わたしはどこからお手伝いすればいいですか?」


「そんなに頑張らなくても大丈夫だよ。運ぶ場所とか指示してくれればいいよ」


「そんなわけにはいきません。今日はお手伝いするつもりで来たんですから」


「じゃあ、簡単な物からお願いしようかな」


お兄さんはそう言うとわたしを作業中の場所に案内してくれた。


わたしは昼から作業に勤しむ事にした。

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