第35話

おばさんは片眉を上げながら不思議そうな顔をする。器用な事だ。


だが器用さに感心している場合ではない。何としてでも話をする許可を取りたい。おじさんがタメならおばさんだ。


「どうしてリサに話をする必要があるの?」


「リサも心配しているんです」


「心配?」


オウム返しに聞き返される。この反応はどうしてだろう。おじさんもおばさんも、リサに対してだけは塩対応だ。お兄さんには優しいし、配慮も見える。昨日、リサが言っていた私はダメな子だから、と言うのにかかっているのだろうか?ここで引いては先に進めないと判断したわたしは、どうしてリサだけが外されるのか追求していく。


「どうしてリサにだけ話してはだめなんですか?リサだって心配してます。自分にできる事はないか気にしてましたよ」


「あの子にも言ってあるから、大丈夫よ」


おばさんは簡単な一言ですませていた。これ以上は踏み込ませない、と言う意志を感じる。いつものわたしなら引き下がるが、今日は引き下がれない。さっきのこともある。わたしはリサの信用をなくしかけているのだ。 


「おばさん。差し障りのない部分だけです。これ以上はだめと言うなら、その先は話しません。だから少しだけで良いので」


「なんで、そんなにパルちゃんがリサのことを気にするの?」


「気にしますよ。わたしはリサの友達ですよ?友達が何も教えてもらえないって気にしてて、わたしにどうしてなのか教えてほしいと言われれば、どうにかしてあげたいと思うのが当たり前じゃないですか?おばさんは友達が気にしててもどうでもいいって思いますか?」


「それは思わないわね」


「それと同じです」


わたしの言葉におばさんは納得してくれたみたいだけど、リサに教えていいとは言わなかった。結局最後まで了承は得られなかった。


不甲斐なさに打ちのめされたわたしは説得の言葉さえ思いつかず家路についた。


ごめんね。リサ


リサはわたしの事を許してくれるだろうか?


また前みたいに話をしてくれるだろうか?


なんであそこまでリサをないがしろにするのだろうか?


あそこまで言えば少しは反応してくれると思ったのに、わたしの経験不足で説得の話し方が悪かったのだろうか?疑問は尽きない。


わたしは明日のリサの反応が怖くて、不安で眠れぬ夜を過ごした。




どんなにわたしが落ち込んでいても朝はやって来る。開けない夜はないのだ。


わたしがどんなに落ち込んでいても家族は何も知らないのでいつもと同じだ。




「おはようパル」


「おはよう。お母さん。ご飯の用意を手伝った方が良い?」


「大丈夫よ。今日はどうしたの?元気がないわね」


「うん。ちょっとね」


「何かあったの?お友達と喧嘩でもした?」


何も知らなくても母親は察する能力があるのか、わたしの不安を当ててくる。ビックリだ。子供のように母親に相談するのは気が引けたけど、誰かに不安を吐き出したくて大まかな事を口にする。




「まだ、喧嘩はしてないけど、今から喧嘩になるかも」


「理由は?喧嘩になるなら理由があるでしょ?」


「わたしが悪いかも。できない約束をしたから」


「どうしてできない約束をしたの?」


「その時は出来ると思ったの。リサをがっかりさせたくなくて。でも、結局できなかった。わたしが悪いと思う」


「だったら謝るしかないわね。自分が悪いなら他には方法はないでしょう?」


「そうだよね。リサは許してくれるかな」


「それはリサちゃん次第ね。パルが決める事ではないわ。今日は学校はないでしょう?どうするの?」


「リサの家に行ってくる。謝ってみる」


「そうしなさい。でもお昼ご飯を食べてからよ。朝から人の家に行くもんじゃないわ。あちらも朝は忙しいからね」


「わかってる。ありがとう。お母さん」


わたしは母親の偉大さを感じつつお昼までは家の手伝いに勤しむ事にした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る