第25話

わたしはリサと並んで歩いている。リサの家に向かっている途中だ。


「リサ、おじさんからどんな話を聞いたの?仕事を手伝うようにって言われただけ?宿屋の経営があんまりよくないから、今度からもっと手伝うようにって言われた感じ?」


「そうだよ。急に言われたからびっくりした。お客さんが少し少なくなっるみたいだけど、そこまでじゃないでしょう?へんなこと言わないでほしいよ。手伝った方が良いなら、普通に手伝うように言えばいいのに。あんまりだと思わない?」


さっきまではわたしに怒っていたリサだけど、落ち着いたらおじさんたちに怒りが出てきたみたいだ。わたしに対しておじさんへの怒りをぶちまけている。しかし、事実を知っているわたしとしてはリサに同意する事は出来なかった。わたしの返答がないせいかリサは不満なようだ。同意を求めるように視線を投げてくるが、視線を合わすことができないでいる。どこから話をするか考えるが、下手に誤魔化すと納得ができないだろうから、わたしができる範囲で当たり障りなく話す事にする。




「リサ。おじさんが言ったことは本当なの。お客さんは来てるけど、宿屋の経営には必要なものを購入するのにお金がかかるのね。それを引くと経営はあんまりよくないの」


「本当なの?」


「そうよ。昨日、リサのご両親とお兄さんと計算して確かめたの。だから間違いないよ。今日はこれからどうするか話し合いに行くのよ」


「なんでパルがそこまで話をするのよ?わたしはのけ者なのに」


「忘れたの?リサが話してくれたから、わたしはおじさんたちと相談してるんだよ?初めの日におじさんから言われたでしょ?わたしが今からすることは仕事になるって、報酬が出るからそれなりの結果を求められるって。そのためにわたしは頑張ってるんだよ。納得してもらえる結果を出したいの。報酬をもらうからには、プロとして仕事をしたいと思ってるから」


「プロの仕事?」


リサからするとあまり納得できないようだ。手伝いとしての仕事はしたことがあっても報酬をもらう仕事はしたことがないから、責任と結果を伴う仕事の感覚はわからないのだろう。まだ先の話だがリサにも一つだけ伝えておこう、覚えてもらえるかはわからないが、これからの人生で覚えてて損のない言葉だと思う。わたしが大事にしている言葉の一つでもある。


「リサ、覚えててね。プロの仕事する、というのはね。仕事をする、報酬をもらう、ということと、それには責任が伴うという事なの。払われた報酬に対して満足してもらうものを差し出せたか。対価に対して相手は納得ができるものだったか、ということを考えて仕事する必要があるという事よ。払ったもの、払われたもの、両方が満足できて始めていい仕事ができたと言うの。満足した笑顔を見せてもらえて始めてプロの仕事なの。それがどんな仕事であってもね」


「どんな仕事でも?家は宿屋よ。どうしたら笑顔になるのよ?泊まって朝には出ていくのよ。笑顔になることなんてないわ」


「あるわよ。いくらでもね。そうね、例えば部屋がきれいで気持ちよかった、とか。朝早くに出るから朝食があって良かったとか、言われたことは無い?」


「ある」


わたしの話に納得ができなかったリサだが、例に例えて話したら理解できたようだ。少し憮然とした顔だが言われたことは理解できたのか、返事をしないということは無かった。


そこは可愛いなと思ってしまってフフッと笑ってしまった。


「なんで笑うのよ?」


「かわいいと思って」


「可愛い?どこにかわいいがあったの?」


「そんなところだよ」


感情を素直に出すリサは可愛かった。身体的な年齢は同年齢だが、精神的な年齢で行くと娘ぐらいの年齢だ。素直なところなんて可愛くて仕方がない。許されるなら頭をナデナデしたいくらいだ。


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