第26話

リサはわたしの可愛い発言に面白くなさそうだ。身長はわたしの方が低いので殊更、面白くないのだろう。


「私より小さいのに可愛いって何よ?誕生日だって私の方が早いんだからね」


リサはわたしに憤慨していた。頬を膨らませ怒っているので、その姿はさらに可愛さをアップさせているが、その事実に気が付いていないようだ。わたしは笑いたかったが笑いだすと、本気で怒ることは容易に想像がつくので何とか堪えていた。帰り着くまでにお兄さんの事も聞き出すというミッションがあるので、怒らせるわけにはいかないのだ。


わたしはポーカーフェイスを装いつつ、ミッションを達成するための行動に移す。まずはさわりから。基本的な情報を確認しよう。


「ねえ、リサ。お兄さんは宿屋の仕事を継ぐの?」


「そうよ。そのためにお父さんたちの仕事を手伝ってるし、今も仕事してるでしょう?」


リサの話し方からすると、お兄さんが後を継ぐことは決定事項の様だ。お兄さんはそれを納得しているのかな?なんか仕事にもやる気を感じないし、宿屋の改革にも興味はなさそうだったし、表情も覇気がない感じがしたのは、わたしだけなのかな?リサは気にしてないのかな?


「リサ。お兄さんはいつもあんな感じなの?元気がない感じがするけど?」


「元気がない?そうかな?いつもあんな感じだよ」


「そうなの?昨日も話をしてても全然話に入ってこないし。意見を言うこともないし」


「兄さんはいつもそうだよ。大人しいの。お母さんたちの言うこともちゃんと聞くし。わたしとは違うかな。お母さんたちには自慢の息子だよ。いつも怒られてる私とは大違いなの」


リサはそう言うと俯いた。


この反応から見るとリサはお兄さんにコンプレックスを持っているようだ。多くは語らないが複雑な気持ちがあるようだ。予想外の反応にわたしはそれ以上の話を聞き出すことに躊躇してしまった。


リサは今度は顔を上げるとわたしに笑いかけてくる。


「兄さんの事は何も心配ないんじゃないかな。お母さんたちも兄さんの事は頼りにしているし」


「そうなんだ」


それ以上は何も言うことができず、どうするべきか考えているとリサの家に着いてしまった。話を広げることもできず、頷くことで話を終了させるしかなかった。




「ただいま」


「お邪魔します」


「待ってたよ」


「いらっしゃい」


リサとわたしが宿屋の玄関をくぐると、おじさんとおばさんの返事が聞こえてきた。わたしに対しては歓迎の言葉があるが、リサに対しては『おかえり』の一言もなかった。その対応はちょっとあんまりではないだろうか?横目でリサを盗み見る。リサは無表情だ。


これはいつもの事なのだろうか?


わたしがリサの反応に不安を覚えているが、おじさんたちは何も感じていないようだ。


「いいかい?リサちゃん」


「あ。はい。大丈夫です。よろしくお願いします」


わたしは挨拶をしながら、おばさんたちの方へ足を向けるが、視線はリサの方を向いていた。リサの無表情は変わらず能面のような感じだ。他所様の家な事だが、親子関係が心配になってきた。だが私の心配をよそに、おじさんたちはわたしに話しかけてくる。


「パルちゃん、あの後また話し合ってね」


「おじさん、取り敢えず座って話しませんか?おばさんやお兄さんの希望も聞いたほうがいいと思いますし。それに、リサにも手伝うように話をしたと聞きました。それならリサも一緒に話を聞いた方がよくありませんか?」


わたしの提案におじさんは複雑そうだ。すんなりと同意をもらえると思っていたわたしは、その反応に戸惑ってしまった。

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