第24話

わたしの問いかけにリサは険しい表情を緩めることは無かった。不愉快さをそのままにわたしに食ってかかてくる。


「どういうことなのよ?お母さんたちから言われたのよ。宿屋の経営が良くないって。だから今度からやり方を変えるからわたしにももっと手伝うようにって」


「そうね、昨日の話ならそうなるかもしれない」


わたしは昨日の話を思い返す。宿泊料金は変えないで、手間、というかサービスを増やす選択をしたので当然人手が必要になってくる。経営そのものが良くないのに人を雇う選択はない。とすれば、家族に手伝うように言うのは自然の流れだ。何も不思議なことは無かった。


わたしが否定もせず頷いたことにリサは憤然とする。


「なんでそんな話になるのよ?おかしいじゃない?」


「おかしいことは無いよ?おじさん達から説明があったんでしょう?経営があまり良くないって、聞いたんでしょう?」


「そうだけど。お客さんはまだ来てくれてるのよ?それで経営が悪いっておかしいでしょう?」


おじさんたちはリサに数字の中身までは話していないようだ。悪いから、ではリサも納得できないのだろう。お客は少なくても来てくれているのだ。悪くなったといっても印象は違うはずだ。


どうしようか?お兄さんのことを聞くつもりだったが、リサ自身もどうにかしないよいけないようだ。


しかし、リサは感情的になっている。こんな時に理論的に説明しても火に油を注ぐだけだろう。だからと言って、何も話さないわけにはいかないし、時間もない。今は授業の前だ。早めに来たけど、始業が遅れるわけではないから、時間がないことに変わりはない。


目の前のリサはわたしを睨んでいる。この怒りは思いがけない事を言われて、他に怒る先がなくて私に怒っているみたいだ。簡単に言えば八つ当たりだ。


ここは一回頭を冷やしてもらおう。


時間を置けば少しは冷静になるし、わたしに感情をぶつけたので落ち着けると思う。7秒ルールは優秀だ。わたし社会人時代に習ったアンガーマネジメントを思い出しながら、授業の後にゆっくり説明することを提案する。


「何それ?説明できないってこと?」


「そんなわけないでしょう?授業が始まるから、終わってから説明するよ。中途半端に聞いても気になるでしょ?だから、時間を作ってゆっくり話すって事、どのみち、今日もリサの家に行く予定だし、その時に話しながら行こうよ」


「何よ?今日も来るの?」


「約束してるから。聞いてない?」


「聞いてないわ」


「そうなんだ。話す暇がなかったのかな?」


わたしが確認するように聞き返すとリサが少し顔を赤らめた。本当の事は言わないがもしかしたら話をすることなくそのまま学校に来たのかもしれない。その可能性に気が付いたが突っ込んで聞くことはやめておこう。不安定なリサに事実を確認するのはリスクがあるし、知らないという事実があるのだから、これ以上の事を知っても得することは何もない。


わたしはそれ以上この話に話をする事もなく教室に誘う。わたしにからかわれると思っていたのかリサは意外そうな顔をする。自分でも恥ずかしいと思っているみたいだ。なら、そこに横やりを入れる必要はどこにもないだろう。


「ほら、教室に戻ろう。気になることはちゃんと納得できるように話すよ。家の事を心配して話をしてきたのリサなんだから。知る権利はあると思うよ。」


わたしがすんなりと話すことに同意してきたからか、リサは少し落ち着いたようだ。


頷きながら一緒に教室に戻る。


「怒ってごめんね。パルは何も悪くないのに」


「いいよ。ビックリしたのと、嫌なことを同時に言われてどういう事?ってなったんでしょ?無理ないよ。気にしないで」


時間が空いてリサは落ち着いたみたいだ。自分を振り返って謝られればこれ以上は何も言うことは無い。私はリサの謝罪を受け入れる。後は帰りに納得できるように話しをするだけだ。


だけど、理解ができるだろうか。それにどこまで話をしていいものだろうか。そこが心配な部分だ。


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