第19話

「帳簿?」




はいきました。予想していた通りです。どこまでも予想を外さないので安心?あきらめ?ができる。


思っていた通り帳簿はつけていないようだ




「お客様、一人からいくらもらっていて、シーツの洗濯代がいくらかかって、みたいなのをノートに書き込んで利益がいくら、経費がいくらと把握するのが帳簿です」


「「「・・・・・」」」




三人が無言で顔見合させている。その三人に私は声をかける。


「つけてないんですよね?帳簿」


「つけたことはないな」


とおじさん。


「始めて聞いたしね」


とお兄さん。


「・・・」


無言のおばさん。


本当に今までよく潰れなかったな。


それとも私が知らないだけでこちらの経営は帳簿という概念がないのかな?うちの経営も心配になってきた。お父さんに確認しておこう。そんなことを思いつつ目の前に集中する。




「では、概算を考えてみましょうか。まずは宿屋に泊まった時の値段とひと月宿泊した人数で計算しましょう。その後に経費を引きましょうか。簡単ですが収支の目安は出すことはできます。先月の分でよいので計算してみてください。わたしが計算してもいいのですが。どうしますか?」




わたしの問いかけに三人が顔を見合わせる。娘の同級生に、家計の内情がわかるような計算はさせたくないだろうと、気を使ったつもりだが。


どうやらわたしの気遣いは不要だったようだ。




「計算してもらえるかな。おじさん達じゃ時間がかかりそうだ」


「わかりました。依頼主の内情は外部に話すことは無いのでそこは信用してもらいたいと思います」




おばさんが宿泊人数は把握していた。


さすがに宿泊数が把握できなければアウトだった。


概算だが大まかな数字が出る。経費の方も曖昧でザックリとしか出せなかった。しかも人件費は出していないので、家族は完全にタダ働きに近い。利益は家族の食費や燃料代で消えた形だ。そこを給料と思えばいいのかもしれないがそれでも、三人分はない。リサの手伝いをバイトと考えるとバイト代も出ていない。収支を考えると完全に赤字だ。


わたしは数字を見ると固まってしまった。ここまでひどいとは思っていなかったのだ。


家族経営だからこそ今まで問題ないと思って過ごしてきたのだろう。これが人を雇っていたら目も当てられない。


無言のわたしが気になったのだろう。おばさんが声をかけてきた。やはり金銭の管理だけあって気になるのだろう。




「それで、どうなんだい?」


これは誤魔化さない方が良いだろう。現実を見てもらうことは大事なことだと思う。


しかし、あんまりにも結果がひどいのでどう言っていいのか迷う。


正直に赤字で家族はタダ働きです。とは言いにくい。現実を見るべきだが言い方も大事だと思う。


どうしようか。言い出しに迷っているとおばさんから切り出された。


わたしがハッキリ言わないから焦れて来たのかもしれない。


「どうなの?ハッキリ言っていいんだよ。パルちゃんが言うほど悪くはないんじゃない?」


おばさんのポジティブさにビックリする。


いや、計算してないからそんなことが思えるのかもしれない。




これは現実を把握してもらうのが大変化かも。


数字を見せて説明しながらでないと理解できないかも。でも、数字を教えてくれたのはおばさんだ。現実はわかっているのに、分かっていない振りをしているのかも。


わたしはその可能性に行き着いた。


おばさんを見る。しかし、おばさんは少し不愉快そうなままだ。


わたしの希望的観測は崩れた。どうも三人とも本気で分かっていないようだ。


これは諦めて厳しい言い方をした方がよいと判断した。

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