第20話

わたしは背筋を伸ばす。


気を引き締めて三人を見る。


「申し訳ありませんが、あまりいい内容ではありません」




背筋を伸ばしたわたしを見てキョトンとする。


三人からしたら生活できているし、収入はあるから赤字が想像できないのかも。そのことを踏まえて家で話を始める。経過を追って話すとじれったいと思うので結論から話すことにした。




「結果から話しますと、この宿屋の経営は赤字です。収益よりも経費の方が多い事になっています」


「そんなはずはないだろう?確かに生活に余裕はないけど生活に問題はないんだよ」


「言いたいことはわかっています。多分毎日収入があるので生活が成り立っていると思いますが、全体的な収支を見ると赤字です。それとも別な収入ありますか?」


「ないけど」


「さっきも言いましたけど、毎日収入があるのでその中で少しづつ賄うので問題がないように感じていると思うんです。国に治める税金を考えると後がつらくなると思います」




三人は黙り込んだままだ。追い打ちをかけるみたいで申し訳ないけど、計算方法をみて確認してもらおう。




「信じられないと思うので計算を全員で確認しませんか?そうすれば少しはわたしの話を信じられると思うんです」




おじさんがかろうじて頷いてくれた。それを三人の総意として計算を見てもらう。広げたノートを全員でのぞき込む。


そのうえで計算の理由を説明していく。説明というがそう大げさなものではない。宿泊費に人数をかけてその合計から経費を引いただけだ。本当に単純な計算なので難しいものは何もない。理解ができない事はないだろう。


私の説明を聞くおじさんたちの顔色は悪くなっていく。説明が大げさなものではないことを理解してもらえたようだ。


わたしも含め全員が無言だ。おばさんとおじさんは現実を受け入れられないのかもしれない。今までこんな計算をしていなかったのだ。自分たちの経営が薄氷を踏むような危ういものだったことを感じたのかもしてない。


このままでは埒が明かないので先に進む。


冷たいようだが時間は有限だ。おじさんたちは今日も経営があるのだ。もう少ししたら今日も宿泊客が来るはずだ。そのお客様の前でこんな話をするわけにはいかないのだ。




「では、現状の確認ができたところで、今後の話に戻りたいと思います。この話をしたのは今後を考えるためです。よろしいでしょうか?」


「そうは言ってもこんなに経営が悪いならこのまま続けて意味があるのかな?大丈夫なの?」




お兄さんから極端な話が出てきた。あんまりにも状態が良くないので不安が出てきたのか。だからと言っていきなり意味があるのかとは、思い切ったことを言う。


唖然としてしまう。今後を考えようと、いわれたのにいきなりその結論なのか。




「話の始まりはお客様を増やしたい、が始まりです。お客様が増えれば状態は自然に改善します。チャレンジもしないで諦めるんですか?おじさんは改善したいからわたしに相談したんですよね?この状況を踏まえてどう思われますか?お兄さんの言う通り諦めますか?」


「何もしてないのに諦めるわけにはいかないでしょう?やれることはやってみましょう?」


おばさんから返事が来た。正直わたしの意見に否定的だっただけに一番意外なことろから返事が来て驚いたけど、嬉しいことに間違いはない。


おばさんが協力的になってもらえれば話はスムーズになるはずだ。


現状認識でおばさんの協力が得られたのは今日一番の収穫で間違いない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る