第18話

わたしは家族の反対はあるだろうと予想していた。


どう考えても手間は増えるのだ。楽をしていただけに仕事が増えるのは歓迎されないのはわかっていた。これからの話の進め方で今後が変わると思いたい。


説得の材料としては、まずは宿屋のお客様の希望は認識ができたので次は客足の確認だ。経営者側が肌で感じているということは、数字で確認すればかなりハッキリするはずだ。


とらえずは出来る事とできない事をはっきりさせよう。なんでも必ずできると思ってもらっては困る。




「そうですね。わたしの案を採用したからと言って必ず客足が戻るとは限りません。ダメな可能性だって考えられます。あくまでも今回は提案にすぎません。決めるのはクライアントであるおじさんであり、家族で宿屋の経営を担っている皆さんになります」


「パルちゃん。おじさんから聞いたから話をしてるけど。子供はこんな話に首を突っ込むなんて感心しないよ」


「確かに、おばさんからみれば子供であるリサと同じ年なのでそう思われると思います。ですがわたしは依頼を受けてこの場にいます。遊びで首を突っ込んでいるつもりはありません」


「遊びじゃないって?子供が何ができるって言うつもり?」


「分析、提案、改善、この3つです」


「分析?」




空気を読まないお兄さんがわからないと質問をしてくる。おばさんの機嫌が悪くなっているのでお兄さんのこの発言はありがたい。空気の悪さが改善される。


やっぱりおばさんはわたしに対していい印象がないみたいだ。遊びに来たときはそうでもなかったので今回の事に口を挟んだのが気に入らないようだ。娘と同じ年のわたしから経営の事にアレコレ言われるのは面白くないのは当然のことだと思う。よく考えれば最初に話を聞いてくれたおじさんが異例だったのかも、もしかしたらそれだけ切羽詰まった状態だったのかもしれない。




「分析っていうのはさっきのお客様の希望とかのことですよ。誰が何を欲しがっている。こんな事を嫌がっている。その情報から次に必要な事を考えて行動することを検討するんです」


「それを分析って言うんだね。凄いね。僕じゃ考えられないよ。父さんは知ってた?」


おばさんの心境を思いつつお兄さんの質問に答えていく。


お兄さんはわたしの話に感心している。純粋な人だと思う。


おばさんはお兄さんの態度が気に入らないようだ、目が吊り上がって見えるので間違いないと思う。




この場の主導権はおじさんからおばさんへ移っていた、慎重にならないと、おばさんの説得が上手くいかなければ全てが無駄になるのは間違いなさそうだ。




「おばさん、わたしの話は一度忘れてもらって、現状の振り返りをしませんか?その上でわたしの話を考えて欲しいんです」


「現状の振り返りって、今の話でしょう?」


「それももちろんですが、収入と支出も含めてです。具体的な数字をわたしに言うのは抵抗があると思うので数字の話をご自分たちで確認してもらえたらと思います」


「支出って?」


お兄さんお約束の質問だ。これは来ると思っていたからわたしも慌てない。むしろ想像通りだ。今まで質問していたので無かったら逆にビックリだ。


「宿屋の経営で得た収入と経営に必要な経費の金額です。経費は宿屋の経営に必要不可欠なものに使用した金額です。煮炊きに使った薪の燃料代や洗濯の石鹸代なども含まれます。その差し引きで残ったものが純粋な収入になります」


「そうなんだ。残った金額が多ければ儲かってるって事だよね?」


「そうなりますね」


わたしは笑顔でお兄さんの言葉を肯定する。しかし気になっていることがある。


ここまでお客様の希望は気にしていないし、諸々わかっていないことも多いし。不安が残る。


もしかしたら帳簿なんてつけてない気がする。

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