第13話

わたしはリサの家から帰りながら、おじさんが家族で話し合いができるか不安になっていた。家族で話し合うということは、リサやリサのお兄さん、つまり子供達にも経営の話をしないといけないと言う事になる。子供達もなんとなくは知っていても改めて親からそんな話があれば心配になるはずだ。それがわかっていて、おじさんから話を切れ出せるだろうか?リサもわかっていても親からそんな話をされれば不安になるはずだ。大丈夫だろうか?


わたしは自分からお願いした事ではあるが、今更ながらに不安になってしまった。


だが、わたしが考えても仕方がないことである。家の中の問題はリサの家族の問題でもある。わたしができるのは宿屋の経営改善だけだ。リサの事は個人として話を聞くことができるから、そうすることで出来るだけのフォローをしよう。


わたしはそれを決める間に家に着いていた。




そして今度は自分の問題に立ち向かうことになる。


お父さんが心配しているはずだ。帰りが遅いと言われるだろう。わたしに甘いお父さんの事だ。叱られはしないだろうけど、お兄ちゃんに愚痴ってるはず。


「これはお兄ちゃんから注意されるだろうな。昨日注意されたばっかりなのに」




わたしは少し憂鬱な気分になりつつ家に入ることにした。いつまでも帰らなければお兄ちゃんの注意は増えていく事が確定するからだ。それは遠慮したい。


わたしは静かに玄関に入り、小さな声で呟くように帰りの挨拶をした。




「ただいま」


「お帰り。遅かったね」




わたしの声に反応してくれたのはお母さんだった。


お母さんはお父さんと対照的で、なにかと口うるさいタイプだ。お父さんがわたしに甘いからそうなっているのかもしれない。もしかしたらお嫁に行くからしつけをちゃんとしないと、と考えている可能性もある。


わたしも前は母親だったので気持ちは分からなくはない。相手のお家で苦労しないように、と考えているのかも。そう思うとお母さんの口うるさいのも聞くことは出来ていた。聞いてもそれを守るかはまた別の問題だが。




「ただいま。遅くなってごめんね。リサの家に少しよっていたの」


「お帰り。帰ってから行けば良かったのに。いつも言うでしょう?一度は家に帰りなさい、って。そのまま行くなんて失礼よ。手土産も持っていってないし」




お母さんは余りに真っ当な事を言っていた。全く持って当然の事でわたしは頷くことしか出来なかった。ここは子供の特権を活かして謝ろう。


「ごめんなさい。学校で話をしてそのまま行くことになったの。次からは家に帰ってから行くって言う事にする」


「そうしてちょうだい。お父さんは遊びに行ってはダメ、なんて言わないでしょう?約束さえ守って、悪いことさえしなければなにも言わないわ」


わたしの方が先に謝ったからかお母さんはそれ以上は言わなかった。


ただ、お父さんが心配しているから謝りに行くように言われただけだった。


わたしはどちらかと言えば、お父さんのグチグチ言われるのが嫌いだった。わたしが心配なのはわかるがしつこいのは勘弁してほしい。


ため息が出るのを堪えつつお店にいるであろうお父さんの所へ謝りに行くことにした。これが思春期の娘なら反抗するところだろうが、なにせわたしは思春期の娘ではない。母親でもあった記憶があるので親への対応は上手く出来ると思っている。


親とは言っても一人の人間。考えも違えば機嫌が悪い日もある。そこに対応できるのは人生経験を積んだ記憶があるおかげなのでありがたいと思っている。




わたしはお店を覗いた。お店には長男のお兄ちゃんとお父さんがいた。いつ声を掛けようかと様子を伺っていると、わたしに気がついたお兄ちゃんが声をかけてくれる。


「パル。帰って来たのか?遅かったね」


「ごめんなさい。リサの家に遊びに行ってて。遅くなっちゃった」


わたしは誰に言われるでもなく先に謝り、理由も添えていた。ついでにお母さんに注意されたことと、約束したことも添える事にした。


「お父さん、遅くなってごめんなさい。お母さんからも注意されたの。次からはお家に帰ってから遊びに行くことにするね」


「あ、ああ。そうだね。心配だから。頼むよ」


お父さんは先に謝られて、注意していく事も先に言われたからなのかそれ以上は何も言わなかった。


わたしはそれにホッとしつつ、そうそうに部屋に引き上げることにする。


これ以上ここにいて余計なことを言われるのは勘弁してほしいしてほしい。


「お父さん。仕事の邪魔をしてごめんね」




わたしは返事も聞かずに部屋に引き上げた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る