第12話

「おじさん、まだあるので聞いてもらっていいですか?」


「ああ、全部聞いてから考えるんだったね。ごめんよ」


「いいえ。大丈夫です。それで名物料理を作りませんか?」


「どういう事?」


名物料理と言ってもピンとこないだろう。この宿屋は料理は提供していないのだから。料理を出す発想そのものがないと思う。そこから発想の転換をしてもらいたい。




「朝・昼・晩。どこでも都合の良いときでいいので、簡単な食事を提供するんです。料理の種類は一種類で良いです。大事なことは宿屋から出ないでも食事が取れると言うことが一番大事なんです。疲れているときには外には出たくないですよね。宿屋でゆっくり疲れを取りたい。そういう希望に答えるんです。そこでお客さんを掴みたいと思います。どうでしょうか?」


「パルちゃんの考えることはすごいね。おじさんはそんなことを考えたこともなかったよ」


「もう一つはあるんですが、これは自分でも難しいかな?って思っています。」


「どんなこと?」


「お風呂です。庭でも良いので簡単な汗を流せる場所を作ります。そこでお湯を沸かしてさっぱりしてもらうんです。ただこれに関しては場所もですがお湯を沸かす手間と、排水の問題、燃料代の事もあるので、実現は難しいと思っています。需要としては一番大きいと思っているのですが」


「そうだね。お風呂は難しいと思う。庭は洗濯物を干したりもするから場所は取れないかな」


「はい。一番人気が出ると思うんですが、火事の危険性もありますし無理はしないほうが良いともいます。長く続かないものは信用をなくすので、確実にできるものを検討しましょう。それとおじさん、大事なことはお客さんの希望を叶えることです。そうするとお客さんはここに泊まりたいと思ってくれると思います。おじさんから見て、お客さんの需要はどこが一番大きいと思いますか?」


「需要?」


「お客さんの希望の事です。おじさんはどう思いますか?」


「希望?わからないな」


「わからない?」


「聞いたこともないし、言われたこともないしね」


「ぜんぜんありませんか?そんなことはないと思うんですけど。聞かれたりはしませんか?ご飯は出ないの?どか、洗濯はできないの?とか」


「そうだね。ときどきは聞かれるかな?」




おじさんの返答は頼りないものだった。私は思っていないことを言われたのでポカンとしてしまう。


宿屋を経営していてお客さんの要望を気にしていなかったのだろうか?


わたしの感覚ではありえない話だった。


もしかしておじさん達の気持ちがお客さんの方を向いていないことが、減少の理由何じゃないかな?


そんなことまで思ってしまう。




「おじさん、大事なことなので思い出して欲しいのですが。宿泊客の方達はどんなことを言っていますか?」


「どんなこと?」


「例えば、帰るときにありがとう意外の言葉です。これがあって助かった、とか。これがなくて不便だったとか、何か言われていませんか?」


「特にないと思うけど」


「本当に?」


おじさんは視線を宙に向け考え込んでいる。


お客さんとの話を思い返しているのだろうか?是非とも思い出してほしい。


「ないと思うな」


おじさんの発言にがっくりと肩を落としてしまう。なんて事だろう。ここは家族会議をしてもらう方が良い結果が生まれそうだ。


わたしはおじさんにリサやおばさんからも話を聞いてもらうようにお願いすることにした。


一人の意見よりも接客をしている全員から聞いた方が確実だはずだ。




「家族に聞けば良いのかい?」


「そうです。おじさんに言っていなくても他の人には言っている可能性があります。意見は広く集める方が良い結果が生まれると思います。聞いてみてください」


「わかったよ聞いてみる」


「お願いします。わたしはあさっての学校帰りに寄らせてもらいますね?」


「それって明後日までに聞かないといけないってこと?」


おじさんの不安そうな声にわたしは頷いた。


「対処は早い方が良いのでお願いしますね?」


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