第11話

わたしは自分の言葉を反省しつつ、別な提案を差し出す。




「おじさん、今のは提案の1つ目です。他にも案はあります。話が終わってから決めてもらえませんか?」


「まだ、方法があるのかい?パルちゃんは思いつくの?」


「朝、リサに少し話を聞いていたので、その時から考えていたんです。おじさんに現状を聞いたのもそれが有効か確認するためですよ」 




わたしの発言におじさんは驚いていた。他にも案があるなんて思っていなかったようだ。


クライアントが思いつかない事を提案する。コンサルティングの醍醐味かもしれない。


おじさんが気に入ってくれれば、の話になるけど。




「教えてくれないか?パルちゃん。どんな方法がある?」


待ちきれないのか、身を乗り出しながら聞いてくる。おじさんの身体はテーブルの上に乗っていた。なかなかの迫力だ。その体を押し戻しつつ2つ目の提案をする。




「2つ目は、食事をつけることです。今までは頼まれればつけていた食事を始めからつける形にします。もちろん、値段は上げません。宿屋からすると実質の値下げになります。でも、外から見るとサービスが増えた形になります。そこで値段調整と思ってもらえればいいでしょう。パン屋さんと相談して、毎日一定の量を購入する代わりに、パンの値段を少し下げてもらう交渉をすれば、利益率はそこまで下がらないと思うので、そこは、交渉しだいじゃないでしょうか?」


「朝食を全員にサービス?」


「そうです。さっきの値下げをしない代わりに手間を増やす形です」


「手間を増やす?」


「そうです。仕事は増えますが、交渉や工夫で経費は少しでも抑えられるはずです。そこで実益をいかに減らさないかを考えていけば良いと思います」


「そ、そうなんだ」


サービスを増やすことに否定的なんだろうか?


返納はイマイチだ。


だが提案はこれだけではない。他にも考えているのだ。




「おじさんは朝食を増やすことは反対ですか?」


「いや、そうじゃないけど。思ってもいなかったから、ビックリして」


「では、別な方法も」


まだあるのか?と言わんばかりにおじさんは目を開いた。


いやいや、おじさん、わたしは提案はいくつかあるよって、言ったよね?聞いてなかった?




「はい。洗濯はどうでしょうか?」


「いや、さすがに洗濯をウチではできないよ」


「それはさすがにわかっています。4人で宿屋の運営と掃除、その上洗濯までするのは難しいと思います」


「わかってくれて嬉しいよ。でも、洗濯をどうするんだい?」


「変わりに運ぶんです。申し込みの代行ですね」


「それがサービスになるの?」


懐疑的なおじさんの反応だ。申し込みの代行ぐらいと思っているのではないだろうか?




確かに一般的に申し込みの代行ぐらいと思うだろうが、旅人には大きな意味があると思う。


この世界には車も飛行機もない、歩くか馬車しかないのだ。しかも馬車での旅はお金がかかる。その関係から歩く人が多くなる。


旅人の心境を考えればわかりやすいと思う


長く歩いて来てやっと宿屋に着いた。もうすぐ城下に着く。服ぐらいはキチンとして行きたい、と思う人が多い。そうなると洗濯しなきゃ、となる。歩いてきたのに洗濯を頼みに行くのは面倒だと思う。


誰か行ってくれないかな、と思うと思うのだ。


これは純粋に別サービスで考えて良いと思っている。そんなに大きな金額は難しいだろうけど。


おじさんからすると朝食サービスよりは洗濯の代行依頼の方が純利としては良いじゃないかな。


別サービスだけど宣伝は必要だし。このサービスを始めたら続々と真似をするところが出てくるはずだからそこは覚悟をしていた方が良いことも伝えておかないといけないと思う。良いことは真似をされるものなのだから。




わたしは提案の内容を説明する間に少しは考えてくれたのか、洗濯を頼むくらいなら、みたいなことを呟いていた。


メリットとデメリットは双子の兄弟だ。デメリットも説明しないといけない。


「おじさん、依頼の代行は少しだけ料金をもらいます。あくまでもお小遣い程度の値段です。最初はうまくいくと思います」


「最初は?」


おうむ返しの反応にわたしは頷く続ける。


「これがうまくいけば真似をすることろが増えてくると思います。良いサービスは真似されるものですからね。もしかしたら、手間賃なしで引き受けて来るところも出てくると思います。そのつもりでサービスは始めた方が良いと思います」


「真似するかな?」


「真似されないなら、それはそれで問題はないので」


おじさんは考え込んでいる。




あの、提案はまだあるんですけど・・・

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