第2話
「パル、学校はどうだい?楽しいかい?」
自宅件店舗の小さな中庭で、長男のファスが聞いてきた。
この中庭はお店側からは見えないので、洗濯物を干したり、家族で休憩を取ったりする時に使うことが多い場所だ。
兄からの話の切っ掛けは学校の話から始めることが多い。
これはわたしに話し掛けるときの決まり文句のようになっている。
一番下の妹との話の切っ掛けがわからないのだろう。
自分も経験のある学校生活が話題にしやすいみたいだ。
「うん。楽しいよ。この前も友達とおしゃべりしてたら少し遅くなっちゃった」
わたしは少し肩を竦め、やってしまったと告白した。
兄はわたしに厳しいが気持ちは理解してくれるので、直ぐに叱るようなことはしない。
注意してダメだったら叱る、というスタンスだ。
「そうか、あんまり遅くなりすぎたらダメだよ。父さんは直ぐに心配するから」
「わかった。気をつけるね」
兄からの忠告に素直に返事をしておく。
遅くなった日に帰りが遅いと注意されたことは内緒にしておいた方が良さそうだ。わたしは既に言われたことについては口をせず、素直に頷く事に留めておいた。
「パルももうすぐお見合いを考えないといけない年齢になるから、言動には注意するんだよ。見合い相手に話が行くと条件のいいお見合いが出来なくなるからね」
長男からの真面目な話のようだ。
この年から(12歳)からお見合いの条件について心配しないといけないとは考えたこともなかった。前の人生なら小学校を卒業するくらいの年齢だ。
将来についても今から考える、もしくは考えてもいないのが主流だろう。
それなのにお見合いとは、何回考えても納得がいなかないし、したくもない。
わたしには夢があるのだ。しかし、ここで兄に力説しても子供のわがままと捕らえらるだけで、なにもメリットはなさそうだ。
慎重に話をもって行かなければならない。
まずは長男の考えを探ってみよう。それから対応を考えても問題はないはずだ。
「ファス兄ちゃん。わたしお見合いしないといけないのかな?お嫁に行くのはなんか嫌だな。お家にいたいよ」
少ししょんぼりした様子で、地面を見ながら言ってみる。
兄はわたしの反応が以外だったのか、隣に座り顔を覗き込んで来る。焦ったような早口で聞いてきた。
「どうした?誰か好きな人がいるのか?それとも誰かに何か言われたのか?」
「違うよ。お嫁に行ったらお家を出ていかいないとけないでしょ?それが嫌なの。お家がいいな。お兄ちゃん達もお家にいるし。お父さん達とも離れたくないよ」
「そうか。初めての事でいろいろ心配なんだな。誰でも初めての事は心配だよ。そこは慣れていく事だな」
どうやらファス兄ちゃんはわたしのお見合いには賛成らしい。
嫌だという気持ちには同意をしてはくれなかった。
これは世間一般的だから賛成してはくれないのか、本気なのかはわからない。もう少し踏み込んでみよう。
「ファス兄ちゃんは、わたしにお見合いをしてはやく結婚しろって言いたいんだね。わたしがいないほうがいいの?」
「ちがう。違うよ。そんなことは考えてないよ。でも、結婚が遅いと問題のある子だと思われて、さらに結婚が遅くなるだろ?そうなると条件が悪くなっていくじゃないか。それが嫌なんだよ。パルには良い結婚をして幸せになって欲しいからね」
「そんなに結婚しないとダメかな?」
話の流れで思いきって世間から外れたことを言ってみる。長男の反応はどんな感じだろう
「結婚したくないのか?」
困ったなぁ、と顔に書いてある。
長男の大きな手がわたしの頭に置かれ、ゆっくりと撫でられる。
「みんな学校を卒業したら結婚するんだよ。当たり前の事なんだけどな」
「ファス兄ちゃん、誰が決めたの?皆、そうするのが普通だからって、わたしもそうしなくちゃならない理由にはならないと思うんだけど」
子供らしいわがままと屁理屈をこねてみる。
今はまだ子供のわがまと思ってもらったほうが都合が良いのだ。
「急にどうしたんだ?前からわかっていたことだろう?」
「そうだけど、ただ、嫌なの。皆そうするからって、わたしもそうしなきゃならないのが。それだけ」
「そうなのか、困ったなぁ」
長男は困ったなと笑いながら、わたしの頭を撫でていた。
これは長男の癖みたいなものだ。わたしがわがままを言うと宥めるように頭を撫でる。
いつものわたしなら、それを受け入れていた。その習慣でいつもと同じようにするのだろう。
今回は一応、受け入れておこう。
わたしは肯定も否定もせず話を終わらせることにした。
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