第9話 忘れ去られた聖女

 …人間族を作った…聖女?…ヴァッサーはいないと話していたけど…。…図書室に行こうとしたが路線変更しよう。聖女がいるというのならそいつから話を聞いたほうが早い。すぐさま王宮にある僕達の部屋に来た。立ち話は足がつかれるし、長くなりそうだから負担がかかる。部屋にあるふわふわで高級そうなソファーに座り、紅茶を入れながら話を聞いてみる。

 「まず、聞くけど…君が僕達を召喚したの?」

 紅茶をすすりながら白髪の聖女はそう語った。

 「そうだよん!我が救援要請を出した〜!」

 元気そうな声が部屋に響いている。中性だから男の子なのか、女の子なのか分からない。

 「救援要請?何かあったのか?」

 救援要請ということなら何か僕たちに助けてほしい事情があったような口ぶりだった。いきなり異世界召喚されて、元の世界に帰りたいけど…なんだかこの聖女のお願いを達成できなければ元の世界に帰れないような気がした。

 「それがね〜…人間族が滅びそうだったから勝つために救援要請を施したの〜」

 …要請理由はおそらく戦争に勝つため。種族同士の戦争…自分たちが作り出した種族が一番だというガキらしい理由で戦争を起こしている馬鹿の一人であるから何となく予想はついていたが…。僕たちを戦争に駆り出すために召喚した。僕たちは何不自由なく平和に暮らしていたのに。

 「戦争に勝つため…か?」

 「それもあるけど!」

 それもあるけど?…まだなにか理由があるのか?

 「私ね〜忘れ去られているって言ったじゃん?」

 「あぁ、言っていたな」

 忘れ去られているから人間族に聖女が居ないという嘘が定着してしまった。だけど本当は聖女はいた。だけど誰もいるとは知らないということか。

 「実はあたし、元々神道族の長なんだよん。でもねぇ〜最近、長の座を引きずり降ろされちゃってぇ」

 「長の座って簡単に引きずり降ろされるのか…」

 「そうそう。あたい、かな〜り強い力を持っていたんだけど、ある日突然誰かに奪われて長として相応しくないからと言われて引きずり降ろされちゃったぁ。だから人間族を守る聖女がいなくなって、神道族はこんなにも荒れちゃった」

 …元々戦争を起こすつもりはなかったということか。…つまりこいつの本当の願いは…何となく察した。

 「僕は戦争をなくしたいんだよん。人間族の聖女として、神道族の元長としてどうしても長の座を取り戻したいのん」

 かなり変な喋り方ではあるけど、その目はとても真剣な眼差しだった。嘘かもしれない、信じれないかもしれない。…だけどその目からは嘘が混ざっていなかったような気がして…少しだけでも信用してもいいかもしれないと思った。

 「…だから協力してほしいのん。力を奪われて、存在自体が認識されなくなって…信仰が足りないんだよん。…ほぼ消滅寸前だったけど、人間族を守るために君たちを召喚したというわけよん」

 「…分かった。警戒はするが、少しだけ信用する」

 「ありがとうよん。警戒するのも仕方のないことだし、むしろうちは君たちにもっと期待することが出来たよん」

 未知なる存在に警戒するのは当たり前。言葉だけで簡単に惑われないという事に気づいたからそれ以上に僕達を信用するに値したという事らしい。

 「…まぁ、一つ言いたい事があるというのなら」

 「何〜?」

 「…一人称統一出来ないの?」

 さっきから、我やら、あたしやら、あたいやら、私やら、僕やら…一人称が統一されていないんだけど。…少しだけそこが気になった。

 「あぁ〜私は統一出来ないよん。うちは他の神道族とは違い、すっこぉ〜し訳アリだから〜」

 訳アリ…か。まぁ無理して聞くとなんかはぐらかされそうだから聞くのはやめておくか。でも探らせてはもらうけどね。

 「そういえば名前を聞いていなかった。あ、僕は七瀬繋。こっちはフィル・ニュマン。僕の従者だよ。…機械ではあるけど機械族ではないから」

 「それは理解しているよん。あたいは知識(ダアト)の称号を持つジェミナイよん!」

 ジェミナイ…ふたご座の英語…。…うん、確実に性別がどっちかわからないな。性別については何も言わないことにしておこう。

 「ジェミナイ…名前長いからミィでいいか?」

 「ミィ…可愛げのある名前だぁ(*´∀`*)」

 嬉しそうな笑顔を浮かべながらミィは回った。浮遊能力を持っているみたいで常に浮遊している。

 「というわけで、私はここに居座ることにしたよん」

 突然すぎるほどの居候宣言。僕じゃなければ見逃してしまうね。

 「なんでここに居座るの!?」

 「ず〜っと寂しかったよん。信仰が失って、だぁ〜れも消滅寸前のあたしを見ることが出来ないの〜。だから我はうちの事が見える君たちの元にいることにしたよん」

 …あぁ、そういうことか…。でも警戒するべき相手ではあるんだよな…。

 「…別の部屋で過ごさせる事になるがいいか?」

 「いいよん」

 了承も得たので少し離れた空き部屋に移動させる。いきなり現れて信用出来るほどこの世界は甘くないと思っているから。戦争が起きている世界に甘さなんてないのだ。だから最低限、どんな存在でも警戒しておくべきなのだ。

 ミィを部屋に移させて、次の目標についてフィルとリーヴルと語る。王族のみんなは解放しているが、健康が未だに回復されていないために寝台で眠り続けている。今はリーヴルが王族代理として国を安定化させている。

 「次の目標は…」

 「い、今は…国の復興を目標とするべきなのではないでしょうか…?」

 国の復興…そうだな。水に沈んでいる王都は人間族にとっては不便でしかない。建物も結構破壊されているし、インフラは最底辺だ。…人間族の殆どが奴隷から解放されたわけだし…人手ならまだ…大丈夫なのかもしれない。

 「インフラを整えることが次の目標か。だけど魚人族が攻めてくるかもしれないよな」

 「フィルが探知する」

 「だけどまだ電力頼りだろう?何とか太陽光発電が出来ているからまだ動けているが、探知は常に電力を使う。…エテルネルオーブの解析も急がなくては」

 …課題がまだまだ山積みだ。…明日からこの課題と向き合わなくてはいけないな。

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