第8話 報酬
戦いが終わってしびれている三人の魚人族を保護する…というより捕らえる。まぁ、ロープで縛り上げたり、拷問するという鬼のような所業はしないんだけど。それで恨みを買ったらまずいだろ。ほぼ人間族は壊滅寸前なんだから。現代で言うところの絶滅危惧種なんだから。出来ればあんまり恨みは買わないほうが生存の確率は上がると思われる。だから水槽にぶちこむ。三人以外の魚人族は逃げていってしまった。まぁ、多分…本来の魚人族の住処に戻っていったんだろうなぁ。…それで恨みを買わなければいいんだけど。
戦いの日から数日…僕は三人が入っている大型水槽を見に行った。もちろん、隣にはフィルもいる。水槽は地下室にあるというわけでもなく、普通に城の一室にある。まだレッドカーペットが洗濯し終わっていないから何もない廊下を歩く。そして大きな二枚の扉を開けると大型水槽が目の前にある。水族館によくある大型水槽が。ジンベエザメとかイワシとか色々入れそうな大型水槽が。城にこんなものまであったんだと内心で思いながら。
「ご主人さま、いる。今回はちゃんといる」
「水に溶けていないとは…結構意外だね」
いつもは水に溶けて、話なんて聞いてくれなかったのにまさか今回は水に溶けていないとはね。…心情変化というやつなのかな?
「なんだ?今回も笑いに来たのか?」
「別に笑いに来たわけではないんだけどね。笑ってほしいなら普通に笑うけど?」
何だか煽るような言動になっているけど気にするな。
「ま、ちゃんといて良かったよ。いなかったらどうしようかと思った」
「こんな水槽壊せるのに…」
「あ、やめたほうがいいよ。壊そうとしたらセンサーが反応して…」
「電気が流れるんだろう?」
あ、もう体験済みでしたか〜。まぁ流石に逃がすのはやばいと思っているから脱走対策くらいはしないとね。電気が流れるなんて聞いたら流石に大人しくするのは当然だよね。
「んで、私達に何のようだ?」
「ただ確認しに来ただけ。というかそろそろ水を変えないといけないかなぁ」
「私達をペット扱いするな!」
矛盾していることに気づいているのかな、この魚たちは…。ただ立場が逆転しただけなんだけど…。まぁ、ペットなら…。
「お〜い、リーヴル」
「は、はへ!?」
「ちょっと水槽の水を変えるから城の水道を少しの間止めてとみんなに言ってちょ」
「分かり…ました…!」
あの戦争以来、僕達は城に移り住む事が許された。人間族を救った英雄として何故か祀られているけど、僕達はただ自分たちのエゴのために協力しているだけなんだよね。ただ元の世界に戻りたいというエゴのために。
水槽の水が少しだけ濁ってきたので綺麗な水に変える。水槽の隣接している巨大なバルブを回すと一気に水槽の水が抜かれる。そして全部の水が抜いたら、バルブをしっかりもとに戻す。バルブは巨大な排水溝を開け締めするためのものだから開けたままでは水の無駄遣いになる。濁った水は浄化して再度、この水槽の水に再利用される。完全なる浄化ではないから人間族の飲水として使うのはもう少し研究が必要。そして次にバルブの近くにあるレバーを引くと一気に水が上から放出される。なんか魚たちが必死で抵抗していて少しだけ面白い。まぁ排水溝に引っかかったら危ないので水を入れ替える際は腰にまかれている僕が発明した拘束具が作動して上の方に引っ張り上げている。捕らえているとはいえ命の危機に晒すつもりなんてサラサラないからね。
「水の入れ替え完了と。居心地はどうだい?」
「…別に。だが故郷の水のほうが何十倍も過ごしやすい」
「そこって水がとても綺麗なのか?」
確か…さか…魚人族の故郷はスウルスシレーヌという巨大な湖なんだっけ?一族が住めるくらいだし、相当巨大な湖なんだろうなぁ。それに魚人族にとって、水というのは落ち着ける安寧の物質と言っても過言ではない。水が綺麗のほうが魚人族にとっては過ごしやすいんだろう。
「あぁ、魚人族の聖女様はいるだけで水を浄化、清潔にする、正に魚人族の女神のようなお方なのだ」
「聖女?長ではなくか?」
「…聖女について調べた。どうやら長とは別の個体。というより神道族の一人。十一人のこの世界の源とされた称号を背負う。そして聖女は各々の種族を作り出し、自分たちの種族が一番強いという戦いを行っている」
…ガキかよ。いや、まさかの戦争が起こっている原因の一つにそんなふざけた原因があるなんて…。まぁこういう理由も普通に戦争が起こる原因にはなりえる…よな?人間の価値観の違いで戦争なんて普通にありえるからな。今まで人間はそういう価値観を受け入れてきたが…どうやら序列一位様は受け入れられないようで。
「魚人族の聖女、王国(マルクト)の称号を持つ…パイシース。一応女性らしい」
「…パイシース…あぁ、魚座の英語読みか。天候でも操ってくるのか?水を浄化するに限らず天候を支配する力を持っていたらさすが一位様と言ったところ」
「…そいつ…機械族ではないか!?」
あれ?今更気づいたの?だいぶ遅くない?この世界の機械族ではないとはいえだいぶ動作も機械であることは見せていたはずなんだけど?
「まぁまぁ、気にしないで。彼女は僕の従者みたいな存在だから」
「ご主人さま、サボりすぎ。フィル、苦労している」
「が、頑張って苦労を減らせるようにするから…」
「それ言うの、何回目?」
「…分からない☆」
この会話もテンプレになってきている。現代のときではいつもこんな感じで話していたっけ…。家では唯一の話し相手がフィルだけだったからなぁ…。
「…お前らは何か違うようだな」
「ま〜そうだね。…というか今さ、神道族が種族を作り出したと言っていたよな?」
「そうだが?」
…それならもしかして。
「人間族を作り出した聖女がいるという事じゃないか?」
人間族が存在するというのなら聖女もいるはずだ。…力を貸してくれるか分からないが…。
「人間族に聖女はいなかったはずだが?」
「うっわぁ、まじかぁ…力を貸してくれると思ったのになぁ」
聖女がいないということは情報源も図書館くらいしかなくなるということだ。戦争に勝った報酬がなさすぎるな。これだけでは魚人族が侵略してきた際、追い返す力はないのかもしれない。今の段階では降伏させるのは絶対に不可能だ。さっきの戦法はバレているかもしれないし、同じ戦法はなるべく使いたくない。…新たな奇想天外な作戦を練って驚かせて奇襲するしか手はないか?…仕方がない情報を集めるか。
「とりあえず、何か不便があったら言ってくれ。一応駆けつける」
「…客人のような扱い方だ」
・・・・・
さて聖女が居ないと分かったら次に行くのは図書館だ。城の大きな庭を経由して城の近くにある大きな図書館に行く。薔薇が未だに枯れていて葉っぱもしおれている庭の階段を歩く。すると背後から…。
「お〜!召喚要請に応じてくれたんだね〜!」
いきなり背後から中性のような声が聞こえた。男か女かも分からない声が背後から聞こえて僕は階段を転げ落ちそうになった。寸前でフィルが落ちるのを阻止してくれたおかげで大怪我にならずに済んだ。
「あはは〜驚かせてごめんよ〜」
後ろを振り返ると白髪で短髪…そしてサファイアのような深い青色の右目とガーネットのような深い赤色の左目を持った、着物のようなものと羽衣をまとった人物が現れた。頭には包帯のようなものを巻いている。どこか怪我でもしたのか?とよくわからない存在を見て思った。
「…えっと…どなた様でしょうか?」
「自分はね〜」
ー人間族を作った忘れ去られた聖女だよん!ー
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