第6話 「戦争」開始

 深夜の実験を終えて、僕達は王都を支配している魚人族がいる城へやってきた。元々王都の王族が住むところだったらしいんだけど、今王族は地下牢に監禁されており、身動きがとれない状況であると聞いた。まぁ、二人で何とかなる相手なら問題はないかもなぁ。

 …水に溺れる事が唯一の死亡条件。水以外に何か武器でもあるのならそれに致命傷を負われるのも死亡条件の一つ。…そして敗北条件は、王都の奪還失敗ではなく…フィルの死亡。フィルがいなければ王都を奪還することなんて不可能。うん、1%も0.1%もない。0%。完全なる0。僕は頭として戦争に参加する、戦いはするけど。いわば指揮官のような立場。だけど実力はない。指揮官は実力があるイメージではあるが僕にはなにもない。だからこそ総大将は僕ではなくフィル…なのだ。僕は指示を出す…というより作戦を考える役。フィルも自分で行動できる頭は持ち合わせている。僕が死んでもフィルが何とかする…僕が死亡した場合の保険だってかけておいたのだから。フィルは戦闘力は控えるように言っている。…で〜も最低限戦闘してくれないと僕だけではどうしようもならないから。前までは戦闘させないでおこうかなと思っていたけど…無理案件だから。

 「こんにちは〜。朝早くに申し訳ございませ〜ん」

 完全に煽っているようにしか聞こえないが、まぁ戦争する前触れだし…シリアス全開よりかはいいんじゃない?

 「…水」

 フィルがそういうと上が崩壊して滝ができた。まぁなんか上から音が聞こえていたから速攻で逃げたけど。水圧を舐めてはいけない。

 「…下等生物である人間族が…一体何の用だ」

 下等生物なんだ。地球では人間が生物の頂点に立っていたのに。支配者じゃなくなると少し違和感があるなぁ。支配者に慣れすぎてしまったのかなぁ。…まぁいいや。出てきたのは親玉?近くには家来もいる。めちゃくちゃ下に見られているなぁ…見下されている感じが半端ない。

 「宣戦布告だ。ここで僕達と戦い、王都を返してもらう」

 「…なんだと?下等生物ごときが…この私に?」

 下等生物でも一応生きているし…下剋上したいという気持ちは人間族誰にでもあるだろうよ。戦争時代はいつもそれだったから。支配されていてもいつかは下剋上されるかもしれない恐怖…この異世界はその時代と似ているのかもね。

 「そうだけど?なんか文句でもあるの?ヴァッサーさん?」

 「…わたしの名前を知っているのか。それなら私がこの王都の支配者であるのも知っているか」

 「そりゃあ知っていますよ〜。王都出身ですし」

 完全に挑発気味な態度で嘘ついたけど、大体異世界系の漫画の主人公なんてこうだろ。決めつけは悪いんだけど。まぁ、水生成だけが能力なら…何とかなるか。まぁ、水生成だけではなさそうなんだけど。

 「…命知らずが」

 はい、正論来ました〜。命知らずですよ、でもこうでもしないと僕達は困りますのでね。

 「じゃあ…」

 予想通り、出来た滝を利用して溶けてきた。そして武器も何も持っていなかったとすると…僕達を殺すには溺死か…それとも窒息死…あ、どちらも同じか。首を絞めるか、水に沈めるかの問題だ。

 「あ…あの…どうするのですか…!?」

 「平気平気〜。どうせ…」

 「…なっ!?」

 「首絞めてくるだけですし〜」

 武器がない状態で殺すには魔法か、首を絞めるくらいしかない。まさか魚人族が手のひらで心臓をさせるくらい力が強い場合は例外なんだけど。

 「…瓶…?」

 お、早速気づいた〜。フィルの左手…僕は両手でこいつの手を抑えるのにいっぱいいっぱいだからね〜。…フィルの手にある瓶に…気づいた。んじゃ…

 「ちょっと少しだけ氷像になってよ」

 「か…かけた!?何を考えているのです…!水をかけたら魚人族が…え?」

 「こ…氷が…!」

 お〜ちゃんと機能して良かった良かった。魚人族が凍ってよかったよかった。まぁ水生成だし、すぐに再生しそうだけど。…リジェネは自動回復…つまり体力を回復するだけで状態異常を回復するわけではないからね〜。だからこういう場合は脳筋だけで戦うのではなく状態異常で頑張るしかないかもね〜。

 「き…貴様!」

 上にいた家来も降ってきちゃったなぁ。まぁ、長に一矢報いたからそりゃあ出てくるよね。

 「こっから頑張るよ〜、フィル」

 「理解…ご主人さま」

 司令塔ではあるけど何もしない後ろで指示するだけの存在なんて格好の的でしかない。…最弱ではあるけどなんとか頑張って戦闘してみますか。

 「下等生物が傲慢なことを…!我ら魚人族に敵うと思っているのか!」

 「傲慢でわるぅ〜ござんしたね。人間なんで僕達」

 僕達は元々支配者であったのだから。…フィルは違うような気がするけど。でも僕は支配者であったことは変わりない。だから傲慢で強欲なのは許して☆環境が違うわけだから。

 「ひぃ…!こ…これでいいんですかぁ…!?」

 と瓶を放り投げてリーヴルが言った。当たってはいないけど頑張ってる、頑張ってる。…瓶が割れているだけでもいい成果が出るんだから

 「…何個…ありますか…?」

 「リーヴルの図書館にある冷凍庫に入れるだけ入らせて成功したものも失敗作のも持ってきた。だから各6個くらい持っている」

 「…水…流れ…」

 「あぁ、流される心配?大丈夫大丈夫。ドア閉めているし…滝はもうなくなっているし」

 「理解…」

 ガラスはまだあるようでよかったよかった。いつか切るかもね。…どっちかはあえて言わないけど。いや、まぁどっちも切る確率は普通にあるんだけどね。そもそもフィルは切れない…切れないけど傷はつくかもね。

 「あと電力は?」

 「…大丈夫。たっぷりあるよ」

 いつまでないフリをしていたのかとは思っていたけど…まぁ本調子に戻ったみたいなら安心か。

 「じゃあ、頑張ってくれよ。総大将さん」

 「ご主人さまのために精一杯頑張る」

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