第47話 神白家
一時間もかからないうちに、二人はその住所の場所に来ることができた。
その住所のところにあった一軒家の表札は『神白』。ここが実家で間違いないようだった。
二人が家を見上げていると、中から一人の女性が出てきた。
「あの……うちに何か用ですか……?」
その女性は二人にそう話しかけた。
聖響はどうしようかと悠莉を見る。だが、悠莉は『ここはお前が行け』と言わんばかりに視線を返す。
「えっと……その……」
聖響はなんとか話を返そうとする。
「神白朱音さんのお宅ですか?」
聖響はいきなりそう聞いた。いきなりすぎるかもしれない。
「は、はい。朱音は娘です。今は、別の場所に住んでいますが……」
それは『イエス』に値するのだろうか。今住んでいないなら、家……ではなさそうだが。
その辺はどうでもいいか。
「僕、杠葉聖響って言います。その……」
聖響はどう切り出そうかと考える。
「朱音さんの息子です。……遺伝子上は」
聖響は思い切ってそう言ってみた。
「ま、まさか……」
それを聞いて、その女性はすごく驚いていた。
「……わざわざ来てもらって、申し訳ないです」
「いえ。急に来てすみません」
聖響は至って冷静に会話を交わす。
「朱音の母の
「あっ……杠葉聖響です。それで……」
聖響は悠莉の方を見る。
悠莉だけ部外者になってしまいそうで、聖響にはどうしたらいいかわからなかった。
「兄の
悠莉はそう自己紹介した。
明らかな偽名だが、本名を名乗るわけにも行かず、そうするしかなかった。
兄とでも言わなければ、どういう関係なのか話さないといけなくなる。『魔術師です』なんて口が裂けても言えず、ただの高校の先輩がここまで関わるとも思えない。
これはやむを得ないことだ。
「よろしくお願いします。ここで話すのもあれなので、中へどうぞ」
喜江はそう言って二人を家の中に入れた。
二人は家の中に入って行く。
何かあっても、その予兆を特に悠莉なんかは感じ取れるから大丈夫だ。
そして、今のところは何もない。
喜江は二人にお茶を出し、ダイニングテーブルに二人と向かい合うように座った。
「それで……今、朱音さんはどこに? どうしてるんですか」
「……朱音は、今、あなたの父親と結婚して、子供がいます」
「えっ……」
聖響に衝撃が走った。
自分を育てられないと手放しておいて、迎えに来るとか言っておいて、引き取りには来なかったし、別の子がいる。
父親と同じ人と結婚したなら尚更。
――有り得ない。
聖響はそう呟きそうになったが、その親の前でそんなことを口にする勇気はなかった。
「でも、勘違いはしないでほしいです。あなたを捨てたり、忘れたわけではありません」
「……どういうことですか」
「引き取ろうとは思っても、返してくれなかったと言いますか……引き取らせてもらえなかったようなんです」
「え……?」
どういうことなのだろう。そういう約束で、養子に出したんじゃないのか……?
「経済的に厳しいだとか、精神的にまだ無理だとか」
「そんな話……それって、いつくらいの話ですか?」
「朱音が二十歳くらいの時の話だったかしらねぇ……年齢的には、あまり稼ぎが無い歳に見えるけれど、イクマくんは結構稼いでいたらしいし……経済的にっていうのは、少しおかしいと思ったわ」
「そうですか……」
おそらく、イクマくんというのは朱音の夫のことだろう。
高校二年生の時に産んだということで、十七歳で産んだとしておこう。そうなると、朱音が二十歳の時、聖響は三歳ということになる。その頃は確か、赤ちゃんだった妹の徠明が家に来た頃。ただし、聖響は普通に産まれたものだと思っていた。
「それから、新しい子を産むことにしたみたいなの。『立場が弱い自分たちじゃ、もう何を言っても聞いてくれない。きっと、自分たちに引き取られるより幸せなんだ――』って」
朱音たちは完全に諦めていたようだった。
確かに聖響は幸せだった。でも、もうその日常は存在しない。いっそのこと、引き取られた方が普通で幸せな人生を送れたのかもしれない。
「だから、嫌なようには思わないであげてほしい」
喜江は聖響に必死に訴えかけた。
引き取れなくて、諦めるしかない。でも、子供は欲しい。その結果なのだろうから、聖響がどうこう言う話ではないし、聖響はこれを理解している。別に怒ったりしているわけではない。
「……僕、会いたいです。朱音さんに」
聖響は喜江にそう言った。
聖響はそのためにここに来た。聖響は『どんなことがあっても大丈夫』という気持ちでいる。
「……ぜひ会ってあげてほしい。住所を教えるわね」
そう言って喜江は聖響に朱音の現住所と連絡先を教えた。
さらに、明日にでも行くと伝えると、そう連絡しておいてもらえることになった。
その代わり、聖響も喜江に自分の連絡先を教えた。さすがに住所は教えられなかったが、大阪に住んでいるとは言った。
聖響は、引き取られた家族が死んだことは言わなかった。幸せになれなかったとか、そんな風に思われたくはないし、魔術師に関係することは言わないようにしていた。その結果だ。
今の朱音の名前は
楓里は聖響の三つ下。これも何かの偶然か、杠葉家での妹である徠明と同い年だった。
そして二人は神白家を後にした。
「ホテル取ってあるから、先チェックインしといて。住所は送る」
「あ……わかった」
「金は払ってある」
悠莉はそう言い、聖響と別行動をした。
◇ ◇ ◇
聖響は悠莉に言われたホテルに真っ直ぐ向かって行った。
悠莉が予約をしたはずなのだが、なぜか名前が聖響の名前になっていた。
しかも、支払いは既にされている。クレジットカードも作れないのにどう支払ったのだろうか。そこも気になるところだが、聖響はチェックインを済ませて部屋で待つことにした。
謎が多い男だ。
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