第44話 大阪朝吹家

 学校選の翌日。


 凛空は悠莉に連れられて、ある屋敷に来ていた。


「ねえ、どこ向かってるの?」

「えーっと、まだ秘密」


 と、凛空は一向に悠莉に場所を教えて貰えなかった。


 その末辿り着いたのが、この屋敷だった。


「ここ。ここが目的地」

「こ、こんな大きな……」


 凛空は屋敷の大きさに圧倒されて、それ以上に言葉が出なかった。


 確かに皐月家も大きかったが、それ以上だ。


「ここはね、朝吹家の屋敷。本家のね」

「そ、そうなんだ……悠莉は、関西人だったんだ……」

「いや、俺は東京生まれ、東京育ち。その時は本家が東京にあった」

「な、なるほど……?」


 凛空はあまり理解できていなかった。


「とにかく入るよ」

「う、うん……え!?」


 凛空は悠莉に半ば強制的に連れて行かれ、朝吹家の中に入った。


 中は見た目に劣っておらず、凛空は言葉を失った。


「悠莉様、おかえりなさいませ」

「……どうも」


 召使いが悠莉に挨拶するが、悠莉はぎこちなく返した。


「俺、大阪のこの感じ、慣れなくてさ」

「そ、そうなの?」

「朝吹家の現当主、朝吹悠太ゆうたは、俺の父さんの弟。前当主が俺の父さんである悠翔ゆうと。朝吹家は当主が変わるごとに場所が変わる。東京と大阪を行き来してるだけなんだけど……それで、俺は東京生まれってわけ」


 凛空は当主が変わったということに気付いてしまい、悠莉の父親がどうなってしまったのかを想像してしまった。そのせいで、相槌を打つことすらできなかった。


 悠莉はそんな凛空なんて気にせずに、召使いと話し始める。


「今日はどうされたんですか?」

「学校選でちょっと来たから寄っただけ。叔父さんに用がある」

「わかりました。こちらへ」


 召使いに案内されて、二人は屋敷の中を進んで行った。


 そして案内された部屋は客間のようだった。


 それから数分経った時、部屋に一人の男が入って来た。


「久しぶりだな、悠莉」

「お久しぶりです」

「急に来るとはな。連絡くらいしろ」

「悠月には連絡しましたけど。聞いてないですか」

「用があるならこっちにも連絡よこせ」

「すみません」


 悠莉の話から推測するに、その入って来た男が当主の悠太なのだろうと凛空は理解した。


 悠太は話しながら歩き、二人の向かい側のソファに座った。


「それで? 何の用だ」

「久しぶりに来てあげたのに。それは無いでしょ? ……別にいいですけど」


 悠太は明らかに悠莉が嫌いそうだった。


「最近体調どうですか?」

「下手に敬語なのは逆に怖いな」

「そうですか」


 目上の人に敬語を使うのは当たり前ではあるが……悠莉のことを知っているからこそ、そう思うのかもしれない。


「……体調は問題ない。心配してもらわなくていい。それに、当主にはしないからな」

「知ってますよ」「えっ?」


 悠莉の発言に隠れてあまり聞こえてはいないが、凛空は思わず声を漏らしてしまった。


「君は強い。だが、当主継承順位はまた別の話だ」


 悠太はそう言い放った。


「こんなに強いのに……ですか?」


 凛空は思わず思ったことを口に出してしまった。


「質問の前に君は誰だ。まず名乗れ」


 悠太は凛空を睨みつけてそう言った。


「か、風晴凛空です」


 凛空はぎこちなく名乗るが、空気は険悪な雰囲気になってしまった。


「そんなピリピリしないで。怪しい人じゃない。俺の後輩だ」


 悠莉は凛空がヘイトの対象にならないようにそう言った。


「なら言っておく。これは家の問題で、他人が突っ込んでくるような話じゃない」


 悠太は凛空にそう言い放った。


 だが、凛空もそんなことはわかっている。凛空は衝動的に何も考えずに言ってしまったことを後悔している。


「す、すみません……」


 凛空はとりあえずそう謝っておいた。


「それで? 本題は何だ」

「皐月凛音りんね。知ってるか?」

「それは……まあ。子どもの頃のことなら……な」


 悠莉の質問に悠太はそう答える。


 凛空は悠莉が何を聞こうとしているのかわからなかった。


「皐月家現当主である玲磨の妹。術式的な才能は……なし。だから俺とはほぼ関わりが無く、それ以上の情報は知らない。それがどうした?」

「コイツはその皐月凛音の息子でな。だから、少しは覚えておいてほしい」


 悠莉は俺を紹介するためにそう言ったのか……? それにしては少し本題のような話ぶりだったが。


 二人が話している裏で、凛空はそんなことを思っていた。


「これが本題か?」

「何も知らないなら、これ以上用は無い」

「亡くなったことは聞いてる」

「近況のことも知らないならいい」

「そうか」


 やはりこれが本題だったようだ。


 だが、近況のことなんて、なぜ悠莉が気にしているのか。そういうのは悠太よりも凛空の方が知っているはずだ。でもなぜ聞いたのか。凛空は疑問に思っていた。


「悠月は?」

「部屋にいる」

「わかった。じゃあまた」


 そう言って悠莉は足早にその部屋を後にした。凛空は急いでその後を追う。


 悠莉は迷うことなく屋敷の中を進んで行き、ある部屋の扉の前で立ち止まった。


 そして悠莉はその部屋の扉をノックし、中から声が聞こえてくる。


 悠莉は扉を開けて、その中に入った。


「悠莉、来たんだね、大阪」

「ああ」


 部屋の中に居たのは、悠莉の従兄弟である朝吹悠月。悠太の三男で、ちゃんと魔術師だ。それに、大阪校の二年だ。一応。


「ちょっと出かけよう。ここで話すのもあれだし」

「じゃあ、たこ焼き食べたい」

「ならあそこ行こうか」


 悠月と悠莉は話を進めていき、凛空を含めた三人は屋敷を後にした。


 三人が訪れたのは、悠莉の要望通りのたこ焼き屋だった。


 店の中にあまり人はおらず、話をするのには持って来いの場所だった。


 三人が注文をすると、準備していたかのように、すぐにたこ焼きが出てきた。


「いただきます」


 三人はそれぞれそう言い、たこ焼きを頬張った。


「おいひい。うん」


 悠莉はただ一言、そう呟いた。


「たこ焼き……ちゃんと食べたの初めてかも」


 凛空はそうらしい。確かに食べる機会はあまりないかもしれない。


「美味しいでしょ?」

「うん」


 悠月は自慢げにそう言った。


「よく来るの?」

「いや。前に音緒さんに教えて貰った」

「なるほど」


 そして三人はあっという間にたこ焼きを平らげた。


「今更なんだけど、君、名前は?」


 悠月は凛空にそう聞いた。


 後輩か何かだとは察していたものの、学校選にも参加していない悠月は凛空のことは全く知らなかった。


「風晴凛空です。東京校一年です」

「そっか。僕は悠莉の従兄弟で当主の息子、朝吹悠月ゆづき。よろしくね、凛空くん」

「よろしくお願いします」


 よく知らない状態でたこ焼き一緒に食べてたな……悠月……と悠莉は少し引いていた。


「悠莉、これ、頼まれてたやつ」


 悠月はそう言って少し大きめの封筒を手渡した。


 悠莉はそれを受け取って中を少し確認して頷いた。


「おう、ありがと」


 凛空はその封筒について気になったが、聞いてはいけないような予感がしたので聞かなかった。わざわざ人がいないところで、封筒に入れてまで渡すものだから、凛空が首を突っ込むことじゃないと予感して理解した。


「ちょっと凛空の話をするが、凛空は皐月玲磨の妹の息子で、一応六系家。覚えてやってくれ」

「わかった。複雑だと思うけど、頑張って」

「は、はい」


 悠莉は急に凛空の話をし、それを聞いた悠月は凛空にそう言った。凛空は急な話の切り替えについて行けず、ぎこちない返しをしてしまった。


「皐月なら、大阪の皐月家に行ってみるといい。莉乃明がそこに住んでる」

「なるほど」


 朝吹家が東京と大阪にあるのと同じように、皐月家も東京と大阪にあるのだろう。

 行ってみろと言われてしまえば、断ることはできない。特に予定も無かったし。


「莉乃明には連絡しておく。住所も教えるよ」

「わかりました」

「タメでいいよ」

「え、あ……わかった」


 凛空はすごい人たちとタメ口を利けるようになってしまった。

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