第43話 エキシビション
「これで一応終わりなんだけど、恒例のエキシビションといこうか」
場の片付けが終わると、快音は全員に向かってそう言った。
「え、エキシビション……?」
凛空は思わずそう呟いていた。
「エキシビションは得点には関係ない。ただのお楽しみ会だ」
悠莉が凛空の背後からそう言った。
「な、なるほど……」
凛空は一瞬ビクッとしたが、悠莉の説明で概ね理解した。
「で、今回のルールは?」
悠莉は聞かれるのを待っているかのように黙る快音にそう聞いた。
「今回のルールは……」
「もったいぶらずに早く言え」
「混合リレーだ」
快音はそう発表した。
「四人対四人、あとは朝吹兄妹、俺と音緒の四チームで戦う」
続けて快音がそう言うと、他がそれなりの反応をする。
「詳しい四人組は音緒の方から……」
「うん」
快音は音緒にパスを回す。
「Aグループが、莉乃明、夏唯、聖響、剣都。Bグループが、久音、翔音、遥、凛空」
音緒はそうグループを発表した。
意図的なのか何なのかわからないが、皐月兄弟と五宮の従兄妹がそれぞれ同じグループになっている。そして、凛空と遥も同じグループだった。
「じゃあ、それぞれ分かれて順番決めて」
音緒がそう言い、それぞれのグループに分かれて順番を決めることになった。
「兄さん、一緒になっちゃったね」
夏唯は莉乃明にそう言った。
莉乃明は短く「そうだな」と答え、話し合いに移って行った。
一緒になったからなんだって言うのが本音なのだろう。夏唯にも意図は何もない。
「順番どうする?」
「せっかくだから、くじ引きとかでもよくない?」
「方法としてはアリだな」
夏唯の提案を莉乃明は受け入れた。
「二人はどう? 何番がいい?」
それでもやはり莉乃明はグループのリーダーとして、他の二人にも意見を聞く。
だが、この状況で聞かれた聖響と剣都には、何番がいいとは言いにくかった。正直、何でもいいとも思っている。
「俺は何でもいいかな、正直」
「俺も」
二人は莉乃明にそう言った。
「じゃあくじ引きするかぁ……」
そう言って、莉乃明はポケットからスマホを取り出し、ネットの機能を活用して、くじ引きをした。
「剣都、俺、聖響、夏唯……だな」
こうしてAグループの順番は決まった。
「まさか同じグループになるとはな、落ちこぼれ」
久音はそう言った。
「同じグループになったからには、それなりに協力しなきゃでしょ?」
「そりゃそうだけど、今だけだからな」
「わかってる。ずっとそんな感じだと吐き気がする」
翔音と久音はそう言い合った。
建前として、二人にはそういう過程が必要だった。
一方この二人は真逆だった。
「同じチームだね、凛空くん」
「そうだね。一緒になれて嬉しいよ」
「うん」
遥と凛空は翔音と久音のことも気にせず、そんなことを話していた。
「じゃあ、順番決めようか」
久音がそう言い、四人は集まった。
「どうしようか」
久音がそう聞くが、遥は興味が無く、凛空は先輩に対しては何も言えない性格だった。
「普通に考えれば、僕と久音で前後ろ固めるべきだけど」
「そうだな」
最初のスタートとアンカーは年上がやる、という考えが何故かあった。何でかはわからないが。
「じゃあ俺がスタート行く。翔音はアンカーな」
「勝手に決めておいて。別にいいけど」
翔音は不満そうだが、特に文句もないようだった。
「二人はどっちがいい?」
久音がそう聞くと、遥と凛空の二人は顔を見合わせた。
「じゃあ、俺は三番がいいです。遥くんは……?」
「何でもいいよ」
「じゃあ、決まりだな」
Bグループの順番も順当に決まって行った。
「じゃあ、そろそろ始めるぞー」
快音がそう言い、全員がそれぞれの位置に着いた。
一人百メートルとなるAグループとBグループは、正面と向こう側に半分に分かれた。
二人チームである悠莉と悠香・快音と音緒は一人二百メートルなので、分かれることは無かった。
それぞれのチームの第一走者は剣都、久音、悠香、音緒だった。
その四人が横一列に並び、快音の合図で一斉にスタートした。
最初に飛び出したのは久音だった。悠香と音緒は二百なことから少しセーブしているように思える。剣都はそんなセーブしている二人とほぼ変わらないくらいだった。
あっという間に百メートルが過ぎ、久音から遥へ、剣都から莉乃明へとバトンが渡った。
遥は久音が作った差をどうにか保っていて、莉乃明はその差をじりじりと詰めていた。音緒も莉乃明と同じように差を詰め、その後ろを悠香が追っていた。
それから十数秒後、バトンは莉乃明から聖響、遥から凛空、音緒から快音、悠香から悠莉に渡された。
AグループとBグループと教師陣がほぼ横並び。その少し後ろに朝吹兄妹という距離だった。
そこから百メートルの間に、快音は前に飛び出し、悠莉は聖響と凛空に追いついていた。
そんな状態で聖響から夏唯へ、凛空から翔音へとバトンが渡された。
渡す時に減速があり、それで悠莉は一気に二チームを抜かして行った。
悠莉は快音を追い、あっという間に追いついていた。
夏唯と翔音も、外と内の差があるのかほぼ横並びだった。
快音と悠莉、夏唯と翔音、それぞれに『負けたくない』という気持ちがあり、お互いにデッドヒートを繰り広げた。
最後には悠莉が快音を突き放し、夏唯が翔音を突き放してゴールした。
「うーっ……負けたーっ!」
快音はゴール後、そんな声を上げた。
「やっぱ変わってないな、快音は」
悠莉は快音にそう声を掛けた。
「それってどういう意味だよ」
「いい意味だから」
「えぇ?」
そんな悠莉と快音。
そして夏唯と翔音を含む生徒たちは互いを称え合った。
◇ ◇ ◇
それから数分の時間を置き、結果発表の時が来た。
「えーっと、東京が71、大阪が59で、東京校の勝利!」
快音がそう発表するが、歓声などは上がらない。
東京からすれば、勝利は当たり前のことで、わかり切っていたからだ。
「それで、今年は色々あったので、この第二部が勝敗になり、今年の学校選の勝者は東京校になります」
今度は音緒がそう言った。
仮に第一部で勝敗が決まっていたとしても、東京校の勝利だったことは間違いない。
こうして、凛空の高校一年次の学校選は東京校の勝利に終わった。
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