第二部
第39話 再会
九月
学校選の怪我は全員ほぼ完治し、もう少しで本格的に任務に出れるようになるくらいのところだった。
そして、
もちろん、一人ではない。
「えー、本当なら八月にやる予定だったけど、まあ、色々あったおかげで、九月になりました」
今日は学校対抗選手権の第二部、いわゆる体育祭を開催していた。
場所は大阪だが、第一部の時みたいに人里離れたような場所ではなく、ただ小さなスタジアムのような運動場を借りたという形だった。
「でも、もう八月の暑い中やる必要ないなーと、思ったので、どうにか上層部に言ってみますわ」
快音は笑い気味にそう続けた。
「じゃあ、早速両校の参加者、一応初めての人もいるから、紹介していこうかなと」
快音はそう言い、誰かを手招きして呼んだ。
そして快音の隣にやって来たのは、大阪校の一年生担当の
「どっちから行く?」
「乗り込んできた方からでしょ? この前はこっちからだったし」
快音の質問に音緒はそう言い放った。
「えーっと、東京校は、三年の
快音はそう説明した。
本当なら、悠莉・桜愛・夏向・悠香・凛空の五人のはずだったが、桜愛と夏向はまだ完全に回復したわけではなかったので、今回は代理で五宮家現当主の
凛空は夏唯とは面識があるが、翔音とは面識が無かった。
翔音は凛空にとって、初めて会う三年生の魔術師だった。
「そして大阪校は、三年皐月
今度は音緒がそう言った。
大阪校も予定等の都合でメンバーが変わっていたりする。
ただ、こっちの代わったメンバーは、皐月家現当主の次男・皐月莉乃明と、五宮家現当主の長男・五宮久音。それぞれ、夏唯の兄と翔音の
この体育祭は魔術師としてではなく、ただの高校生としての体育祭。術式を使ったり、魔力を使ったりすることは禁止で、本人の本質的な身体能力のみで勝負する。
とは言っても、魔術師は基本身体能力が高いので、普通の体育祭とは全然違う。
かなりレベルの高い体育祭だった。
「じゃあ、種目はいつも通り。組み合わせはその都度発表する。じゃあ、まずは無難に百メートル走から行こうか」
メンバー紹介を終え、快音はそう言った。
その指示で、全員がスタート位置に移動し始めた。
今回は、凛空はちゃんとルールなどを事前に説明されていた。快音もさすがにそこまで忘れたりはしていなかった。
体育祭での勝負は、各種目での個人順位に応じてチームに得点が入り、それで勝負が決まる。
普段は体育祭での勝敗は学校選の勝敗にはあまり関係ないが、今回は第一部の方の勝敗がついていないので、この体育祭での勝敗が学校選の勝敗となる。
だから今回の体育祭はかなり意味のあるものとなっていた。
まあ、本人たちはそういう気合いの入ったような素振りは見せない。
それはこの最強の魔術師・朝吹悠莉のせいだろう。
なら出なければいいということになりそうだったが、中々そう簡単にはいかないものだった。
人を集めるだけで意外と大変だったりする。
「えーっと、第一レース、莉乃明、夏唯、凛空、悠香、遥。第二レース、久音、翔音、悠莉、剣都、聖響。競技開始は十分後。それまでに各自準備すること」
快音がそう言い、全員散らばって行った。
ちなみに、種目は男女関係なく行われる。だが、それで不利な状況になったりしたことはない。
まあ、これは魔術師同士だからできることだった。
「兄さん……久しぶり……だね」
夏唯は莉乃明にそう言った。
「うん……まあ……」
この兄弟は、何故か気まずいというか、距離があるように見える。
「それで、何か用? ただの挨拶なら話しかけて来ないだろ」
「あ……あはは……」
夏唯の思考は莉乃明に完全に見透かされていたようだった。
夏唯は苦笑いするしかなかった。
「で? 何なの?」
「えっと……紹介したい人が」
「紹介?」
「そう」
そう言って夏唯はそれを眺めていた凛空に駆け寄って行った。
「えっ」
そして夏唯は凛空の手を掴み、莉乃明の方に連れて行った。
「何だ、そいつがどうした?」
「一年の風晴凛空くん」
「うん。それは知ってるけど……」
「従兄弟だって。俺たちの」
「え……」
莉乃明は初耳だったようだ。
「だから、一応」
そうして夏唯は凛空を莉乃明に紹介した。
「皐月莉乃明。一応こいつの兄貴。よろしく」
莉乃明はそう言い、凛空に手を差し出した。
「か、風晴凛空です。よろしくお願いします」
凛空はぎこちなくそう言い、莉乃明と握手を交わした。
「従兄弟って言っても、どういう従兄弟? 母さんの方だと、わざわざ紹介されても困るんだけど……」
「俺は知らなかったんですけど……母がその……当主の妹らしいです」
「父さんの妹……なるほど」
莉乃明は状況を理解したようだった。
「まあ、学校選は敵同士だから。『最強』には負けても、お前らには負けないからな」
莉乃明は二人にそう言い、去って行った。
「兄さんは強いから……前に俺たちの話聞いたでしょ? それで、莉乃明兄さんは自分が怪我しないように強くなろうって。
夏唯は凛空にそう言った。
莉乃明も最初は夏唯と同じような想いだった。でも、やっていくうちに気付いた。翼は自分で自分の身を守れること、自分が守るような相手ではないこと。
それからというもの、莉乃明は普通に強い魔術師となっていった。翼に匹敵するほどの、強い魔術師に。
「何か、急にごめんね。終わってからでも良かったんだけど……勝敗がついた後だと、話しかけにくくて」
「あぁ……大丈夫。俺も、挨拶できてよかった」
凛空は夏唯の気まずい気持ちを理解していた。第一部の大阪校が終わった後のあの沈黙。あれを見ると、話しかけにくいのはよくわかる。
「ねえ、あの子……ずっとこっち見てるけど、知り合い?」
夏唯は二人に向けられた視線に気付き、凛空にそう聞いた。
凛空は夏唯の視線の先を振り返って見てみる。
すると、そこにいたのは大阪校一年の中野遥だった。
遥は隅の方の日陰でしゃがみ込んで、二人のことを見つめていた。
「一年……だよね? 見たことない」
「あ、うん。中野遥くん。この前、仲良くなって……」
「そうなんだ。……行ってくれば? めっちゃ見て来るし……」
「う、うん。じゃあ」
凛空は夏唯と別れ、遥の方に駆け寄って行った。
遥はそれを見て立ち上がった。
「遥くん、久しぶり」
凛空は遥にそう話しかけた。
「久しぶり、凛空くん」
遥は相変わらずほわほわした感じでそう言う。
「あれからどう? 元気だった?」
「凛空くんがそれ言う?」
遥は少し笑いながら凛空の質問にそう返す。
「いや、まあ……ね?」
「元気だったよ、僕は。いつも通り」
遥はゆっくりとそう言った。
「凛空くんは? もう大丈夫なの?」
今度は遥が凛空にそう聞く。
「俺はもう大丈夫。他の人に比べれば軽かったから」
凛空は遥の質問にそう答える。
「そっか、よかった。結構心配してたから」
「そうなの?」
「うん……音緒さんから聞いてたから」
遥は音緒から凛空の怪我の状態を聞いていた。
音緒が言った情報は現場にいる快音から聞いたものなので、正しい情報と思っていいだろう。だから、凛空が軽傷なわけではなく、他が重すぎるのだと遥は理解した。
「ありがとう、遥くん。……心配してくれて」
「友達……だから。当たり前……? だと思う」
「……でも、ありがとう」
自分にこんなに心配してくれる友達ができるとは凛空は思っていなかった。
だからこそ、すごく嬉しかった。
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