第38話 復活
◇ ◇ ◇
「んっ……」
凛空は病院のベッドの上で目を覚ました。
起き上がろうとするが、腹部に激しい痛みが走り、起き上がることはできなかった。
「痛っ……何だこれ……」
凛空は本当に起き上がることができない状況だった。
「っ……あー」
凛空は起き上がることを諦め、天井を見つめた。
その時、病室に入ってくる気配を感じた。
その気配は快音のものだと凛空は直感的に思った。
「お、起きたか」
「あ……はい。痛くて起きられそうにないけど」
「そうか。まあ、そんなもんだよ。すぐに治まるし、酷かったら病院関係者に言って」
「あー……うん」
すぐに治まるとは思えないけど、病院の人には言いにくい。難しいところだった。結局凛空は黙って治まるのを待つことを選んだ。
「よく頑張ったな。凛空」
「う、うん……」
快音は急に凛空にそう言った。凛空は何故か恥ずかしい気分になった。
「あと、よかった」
「えっ?」
何がよかったのか、凛空にはあまりわかっていないようだった。
「うん……生きててよかった」
「えっ……」
凛空はまさか快音がそんなことを言う人だとは思っていなかった。
「何か言えよ。恥ずかしいだろうが……」
快音はボソッとそう呟いた。
凛空は何か言わないとと考え、何とか話の内容を見つける。
「俺……どういう状況なの……?」
まずそれを聞いていなかったと凛空は思った。
「あぁ……言ってなかったね。腹部の臓器損傷と低体温症。よく生きてたなって感じ」
「な、なるほど……」
凛空の体温は一時三十度を切っていた。本当によく生きていたものだった。だからこそ、快音からあんな言葉が飛び出してきたということだった。
ちなみに今は体温が戻って来ているから心配する必要は無い。
「他の人たちって、どうなったの……?」
また沈黙の時間が続いてしまったので、凛空はそう聞いた。
「まあ、死者は無し。現れた怪物は恐らく全部討伐済み。夏向は腹部の臓器損傷、胸部の火傷、あと、右腕の打撲。結構重症。桜愛は腹部の臓器損傷と左肩の負傷。重症ちゃ重症。悠香は腹部の臓器損傷と右足の粉砕骨折。一応重症。この中じゃ凛空が一番軽いかな、でも凛空も重症だったけど」
快音は凛空にそう説明した。
怪我の状況からするに、やはりあれはかなりのものだったのかと感じる。
「今回は、俺が張ってた結界の上に新たな結界が張られて、それによって俺の結界が破られて、怪物たちが入ってきた。その結界のおかげで、俺たちは中に入れなかった。まあ、その間相手しておいてくれたのはよかったけど、相手が強かったな……」
快音がそういうならそうなんだろうと凛空は快音の言葉に納得した。
「結局悠莉が破ってくれたけど、相手の策にハマったな……」
快音は独り言のようにそう続けた。
「それにしても……知られすぎてる気がするな……情報を……」
快音はそう呟いた。
「情報?」
「何でもない」
凛空の質問を快音は誤魔化した。
そして快音は「じゃあな」と言って病室を出て行った。
凛空は快音のことを疑った。
まあ、そんな誤魔化し方をされてしまっては無理もないだろう。何を隠しているのか、すごく気になって仕方なかった。
それで痛みを紛らわせることができたのはいいことなのだが、快音のことを疑うのは少し辛い。
快音の方が地位が上で、ただの学生でしかない凛空に教えられないというのもわかる。
だから凛空はそれ以上に聞かなかった。
わかってるはずなのに、気になってしまう。
凛空は葛藤していた。
◇ ◇ ◇
「快音、凛空どう?」
病院の廊下で悠莉は快音にそう聞いた。快音はちょうど凛空の病室から出てきたところだった。
「あー、意識は戻ったよ。そっちは?」
「こっちも意識は戻った。ひとまずよかったって感じ」
「そうか」
お互いに情報を共有した。
「……同級生の心配はしないのか?」
「別に。できることないし。治療は終わってるし。あとは本人次第でしょ」
「まあ……そうだな」
悠莉の言う事はわからなくないが、少し冷たすぎる気もする。
まあ、そんなに関わりも無いから当たり前の事かもしれないが。
「これからどうすんの? 上は何て言ってる?」
悠莉は快音にそう聞いた。
あんなことが起きた後、開催地・東京校の校長である如月歩武が、魔術師の本部の上層部に報告をするという情報を悠莉は掴んでいた。
その結果は、教師陣じゃないと教えてもらえない。だから、悠莉は快音に聞くことにした。
悠莉が快音を信頼しているという証拠でもあった。
「報告はしたみたいだけど、特に何も。起こる可能性は想定できたことだろって。結界が破られたから俺のせいだとも言われた」
「へぇ。まあ、快音はわかってるだろうけど、別に快音のせいじゃないと思うよ?」
「うん、わかってる。アイツらは誰かに押し付けたがる。事あれば俺か悠莉に押し付けて、辞めさせようとしてくる。自分たちは弱いくせに……」
「そこまでにしとけ。ここも一応本部の施設みたいなもの。誰が聞いてるかわかんない」
「別に聞かれてたっていい。あっちもわかってるだろ」
「まあ、そうだな」
上層部は若い頃から強くて『最強』と呼ばれた快音や悠莉のことをあまり良く思っていない。
上の指示は理不尽だし、正しいとは言えないことも多い。それで正しい方を選ぶと、指示に背くので有名になる。夏向の祖父が聞いた噂はそうやってできたものだった。
そういう扱いを受けているのは二人だけではないが、酷いものだった。
でも、本当に強い怪物が出た時や、大きな被害が出そうなときは、大体頼ってくる。意味が分からない。
そんな上層部を嫌ってはいるが、排除はできない。
上層部は二つに分かれていて、一つが六系家の当主で構成されるもの。もう一つが、六系家直系ではない魔術師で構成されるもの。二人が嫌っているのは後者の方になる。
位置付けとしては、六系家会の方が上で、朝吹家の当主が代々魔術師をまとめてきている。
現当主と仲の悪い悠莉は別として、六系家会に名を連ねる快音を虐げる理由はあまりない。
他の人たちも、こっちを上層部と呼ぶ人は少ない。
そして、そんなに毎日のように稼働している者でもない。
そんなことがあるから、もう一つの方が随時稼働し、上層部と呼ばれるようにまでなってしまった。
ただ、六系家会には上層部の決定を覆すことができる権限がある。だから、いざとなればひっくり返すことも可能だが、面倒くさいことになるのでそこには至っていない。
「まあ、運動会はやるだろうな。ずらしてでも」
「えぇ……ほんとに言ってる……? それ」
「ああ。歩武はそう言ってた」
「まじかぁ……」
学校対抗選手権は文化祭。ならば運動会(体育祭)もやるだろう。ただ、名称は『運動会』でも『体育祭』でもなく、学校対抗選手権第二部といったところだ。
本当なら続けてやるから同じ学校選。そう思うと、変ではないだろう。
「どうせ今年もぶっちぎるんだろ?」
「さあな。別に去年はぶっちぎってないし」
悠莉はそう言い、どこかに歩いて行った。どこに向かうのか、快音でもわからなかった。
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