第25話 遥と剣都

   ◇ ◇ ◇


「遥、こっちでいいんだよね……?」


 剣都は心配そうに遥にそう聞いた。その質問に、遥は黙って頷いた。


 魔力を感じる方向に走っていた二人だが、急に遥は足を止めた。


「遥……?」


 剣都も止まって振り返って、そう呟いた。


「ん」


 遥はそう声を出し、左手で森の暗闇を指さした。

 その方向は、遥からすれば左側、剣都からすれば右側だった。


「どうしたの……?」


 剣都はそう呟いたとほぼ同時くらいに、追っていたものと違うものの魔力を感じた。


「えっ……」


 二人はその魔力を感じる方向を見た。


 そして、その魔力の持ち主は、二人にどんどん近づいて来ていた。


 視認はできないが、それなりに近づいていた。その時、剣都は術式を発動させた。


 術式が顕現し始めた時、その敵は一気に暗闇から飛び出してきた。


水龍すいりゅう流転りゅうてん……!」


 剣都は術式をその飛び出してきたものにぶつけた。


 ただ、飛び出すからには何も対策しないなんてことがあるわけもなく、そいつは電撃を放った。


 剣都の龍と相手の電撃がぶつかり合い、爆発音と黒煙が発生した。


 その黒煙を貫いたのは相手の電撃だった。


 電撃は、真っ直ぐ剣都に向かって行った。


 あまりの速さで剣都は反応出来ず、動けなくなっていた。


 遥は剣都に走っていき、そのまま押し倒した。


「っ……」


 それによって、剣都は電撃から逃れられた。


「遥、ありがとう」


 剣都は顔を上げると、上に乗っかっている遥にそう言った。

 遥は起き上がり、剣都を見つめた。剣都からは、下から見てるからなのか、遥のが見えていた。


「……あとは僕がやる」

「えっ?」


 遥はそう言い、立ち上がって黒煙の向こうを見つめた。


 黒煙はいつまでも漂い続けると思っていたが、相手が魔力で衝撃波を起こしたため、黒煙は一瞬で吹き飛んで行った。


 その勢いに、剣都は思わず目をつぶってしまった。


 遥はそんなこと気にせず、相手がいるであろう方向を見つめていた。


 そして、衝撃波によって遥の前髪がなびき、遥のあらわになった。


 相手の目と遥の目が合い、その瞬間、相手は消え去って行った。


「遥……?」

「ん?」


 剣都の呟きに、遥は振り返って首を傾げていた。


「今のが……?」

「今回の標的だね」


 遥は剣都に近寄りながらそう返した。


「えぇ……つよぉ……」


 剣都はそんな声を漏らした。


「僕たちの出番は終わりっぽいけどね」


 遥は剣都の目の前にしゃがんでそう言った。


「えぇ……」


 さっき追っていた奴は、もう別の場所に行っていて、恐らくこの二人が追うよりも、そっちにいる人に任せた方がいいと遥は判断していた。


 遥は雰囲気とは裏腹に、色々と考えていたりしているようだった。

 まあ、そうでもない限り、魔術師なんて出来てないだろう。


  ◇ ◇ ◇


 陸斗は相変わらず同じ場所にいた。


 ただ、鷹は遥の指示で戻ってきていた。遥が不必要だと言うならしょうがない。


 そこで陸斗は隼に別の役割を与えていた。それは、全体の偵察。

 陸斗には魔術師より遠くにいる敵も把握しておきたいという思いがあった。

 狼が聖響に合図できたのも、これのおかげだった。


 そして、現時点で四体が倒されていた。でも、鷹の視界には映っていない。ということは……


「後ろか」


 そう呟き、陸斗は無意識のうちに狼を召喚していた。


 そして狼は陸斗の背後にいた怪物風術式に食いつき、引きちぎった。

 そのまま術式は消えていった。


 陸斗は気付いていないふりをしていたようだった。

 単に気付かなかったというのは有り得ない状況だった。


 狼は陸斗にすり寄って行った。陸斗が悲しそうな、そんな雰囲気を醸し出していたからだった。

 鷹も陸斗の元に戻り、頭に乗った。


「……ありがと」


 陸斗はそう呟いた。これは狼と鷹に向けたものだった。


 その時、ブザーのようなものが鳴った。終了の合図だった。


 さっき狼が引きちぎった術式がその最後の一体だったようだ。


 終了の合図と共に、狼と隼は消え去って行った。


 陸斗は立ち上がり、他のメンバーが戻ってくるのを待った。


  ◇ ◇ ◇


「お疲れ。聖響大丈夫だった?」

「ああ。もちろんな」


 七瀬と聖響は入り口に戻ってきて、簡単にそう言葉を交わした。


「そっちは?」

「全然。一撃で仕留めた」

「そっか」


 七瀬は当たり前かのようにそう言ったが、遠回しに自慢している。


「お、剣都、遥」


 二人が戻ってきたのを見て、聖響はそう呟いた。


「おう」


 剣都は聖響にそう返す。実際、剣都は何もしていないに等しい働きだったが。


「まあ、去年よりも速かったと思うよ。個人的には」


 陸斗はそう言って、フィールドを後にした。


「去年よりも速かったなんて、そんなことないでしょ」


 七瀬はそう言った。


「何で?」


 聖響は七瀬にそう聞いた。


「去年のメンバーって、六系家の人たちが多かったはずだよ」

「確かに……」


 今の二・三年生には、六系家に生まれた魔術師が多い。つまり、去年参加していた人たちには、そういう人たちが多いはずだった。


 七瀬がそう予測する理由もよくわかる。


 聖響もそれで納得していた。


「それは違うよ」


 その時、遥がそう呟いた。


「違うって?」

「去年は六系家直系じゃない五人で参加したよ。まあ、『最強』にあっさり負けてたけどね」


 遥はそう言った。


「何でそんなことを?」

「僕、去年見てたし」

「えっ?」


 七瀬はすごく驚いていた。他の人たちも声には出さないが、驚いている様子だった。


「僕は特例で……ちっちゃい頃からずっとここにいた」

「え」


 七瀬は驚くことが多すぎて理解が追いついていないようだった。


「学校選なんて、何度も見た」

「まじか……」


 ついに七瀬は思考停止した。相槌を打ったのは剣都だった。


「出るのは初めてだけどね」


 遥はそう付け加え、陸斗と同じように去って行った。取り残された三人は、理解が追いつかなくてしばらくその場で突っ立っていた。

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