第23話 競技開始――大阪校――

  ◇ ◇ ◇


 大阪校の面々はフィールドの入り口前に集まり、準備をしていた。まあ、する準備もないから、喋ってるだけとも言えるが。


 入り口には、少し豪華な大きな門があった。今は扉が閉ざされている。


『そろそろ始めるぞ』


 どこからか、海亜の声が聞こえてきた。


 そして五人は入り口の前に並んだ。


「一年、二人ずつに分かれろ」


 陸斗は他の四人にそう言い放った。


「えっ?」

「分かれていった方が速い。五人でやれなんてルールはない」

「なるほど……」


 剣都は納得したようだった。


「なら、私と聖響、剣都と遥でいいんじゃない?」


 七瀬はきっぱりとそう言った。


「じゃあ、七瀬班には狼を、剣都班には鷹を付ける」


 七瀬の提案を受け、陸斗はそう言った。


「陸斗は?」

「俺は自分では戦えない。魔獣使いはそういうもんだから」

「へぇ……」


 剣都は色々と聞いてくるものだ。


「陸斗は親も有名な魔獣使いだし。何か考えてるんでしょ?」


 七瀬は結構食い気味にそう言う。


「親は関係ない。俺とこいつらがどうかだけだ」


 陸斗はそう言い放ち、魔獣を召喚した。


 召喚した魔獣は、狼と鷹の二体だった。


 その時、いきなりスタートの合図が鳴った。

 それと同時に、閉ざされていた門が勢いよく開いた。


 五人はすぐにそれに反応し、敷地の中に入って行った。



 塀で囲まれた内側に、怪物を模した術式が放たれる。

 塀は見かけ上の囲いで、ちょうどそのあたりに結界のような膜が張られている。

 その膜は、怪物風の術式は出入りできないようになっていて、他にも、邪魔が入らないような工夫もされている。



 中に入ると、さっき分けたペアに分かれていった。


 陸斗だけは中に入ったところで膝をついてしゃがみ、地面に片手をついて目を閉じた。


 陸斗はこうして魔獣と視界を共有している。これによって、各班の位置や状況を把握することができる。


 自分の周りに近付いてくるものは、今の状況の場合、必ずと言ってもいいほど魔力を持っている。だから、その魔力を感じられるため、周りを見ていなくても大丈夫だった。


 ◇


 俺の両親は、有名な魔獣使いだった。


 魔獣使いは、ほとんどの場合、自分だけじゃ戦えない。


 怪物の姿は確認できるし、魔力も感じられる。でも戦うのは自分じゃない。だからこそ、魔獣と魔獣使いは一心同体だった。


 いくら他の魔術師に認められなくても、劣等扱いされても、それでも魔獣を信じ続ける。そんな両親の姿に、俺は憧れていた。


 でも、魔術師の世界は、そんなに甘くなかった。

 何事にも両親の成績が付き纏い、比較される。


 俺は、そんなことに耐えられなかった。


 まだ未熟だということはわかってる。でも、勝手に強いと勘違いされ、何故か怒られる。そんなの理不尽だ。


 だからいつまでも学園に縋る。だからこうやって、三年にもなって学校選に出る。


 同級生はみんな名家の生まれで、その期待に応えている。そんな同級生が羨ましかったし、比較されたくなかった。


 学校選に出たところで、活躍はできない。出ることに、大きな意味もない。でも、もしかしたら、強さを認めてもらえるかもしれない。そんな希望があった。ここにだけは。


 ここ数年、鳴宮快音が学生だった頃から、ほとんどが東京校の勝利となっている学校選。そんな中で勝利できれば、多少なりとも、評価は上がるかもしれないという希望があった。


 でも東京には、『神の子』がいる。勝算はない。だからこの希望も無意味だ。



 この世界は、俺には理不尽すぎる。



 ――今だ


 共有している視界に、怪物風の術式が映った。もちろん、魔獣は動物型の術式なので、人間よりも目がいい。その視界だから、本人たちの目には見えていないだろう。魔力を感じてはいるだろうが。


  ◇ ◇ ◇


 聖響と七瀬は、狼を先頭に、魔力を感じる方に、かなりのスピードで走って移動していた。


「聖響、」

「何?」


 七瀬は隣を走っている聖響に呼びかけた。


「最初のは私が引き受ける。聖響はとっとと先行って」


 七瀬はそう指示した。


 七瀬は小さい時から、魔術師の英才教育を受けている。六系家と同じように。

 それ故の、冷静な指示だった。


「わかった」


 聖響も七瀬のことを理解し、経験を信頼し、作戦を七瀬に任せた。


 聖響が了承した瞬間に、七瀬は一気に踏み込んで加速し、狼の前に出た。


 狼は唸り、怪物風術式が目の前なことを伝えようとした。


 そして少し進むと、例の術式が見えた。


 その術式は、人型で色が人間にしてはグロいという、普通の怪物とすごく似ている見た目をしていた。


 感じる魔力は、魔術師に近いが。


「行って!」


 七瀬はそう言った。

 聖響と陸斗の狼は、そのまま術式を素通りし、フィールドの奥の方に、その術式から離れるように進んでいった。


 七瀬はそれを確認し、術式を発動させる。


「桜花……決然……!」


 辺り一面に時季外れの桜の花びらが舞い、周りの樹木なども巻き込み、術式を一気に包んでいった。



 ――『桜花決然』

 桜花家の術式の一つで、『桜花』の味方への効果を無くすという条件を解除し、その代わりに術式が強化される。


 七瀬はこれなら術式の破壊が可能だと考えていた。

 そのためには、聖響たちと離れ、一人になる必要があった。


 陸斗の分かれろという指示は、七瀬にとって都合のいいことだった。

 そして、聖響なら自分を信じてくれて指示に従ってくれる、さらに、聖響なら一人でも戦えると読み、聖響とのペアを選んだ。


 第三者からすれば、性格面で少しおかしい遥や、魔術師として弱い剣都を避けているようにも見えるだろう。だが、七瀬は七瀬なりに考えがあったということだ。


 そして桜の花びらが消え去った時、そこにさっきまでの怪物風術式はいなかった。


「よしっ……」


 七瀬はそう呟き、聖響たちが向かった方向を見た。


 魔力の流れでなんとなく、状況は把握していた。

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