第22話 友達

「じゃあ、決めますか」


 音緒がそう言い、大阪の高坂陸斗と悠莉が前に出た。


「行くぞ」

「おう」


 二人はそう言い合い、同時に構えた。


「じゃん、けん、ほい!!」


 二人が同時にそう言い、じゃんけんが始まった。


 でも一瞬で決着は着いた。


 悠莉がチョキで、陸斗がパー。悠莉の勝ちだった。


「おーっし。後攻で」


 悠莉は喜びすぎず、素早くそう言った。


「くそー」

「正直どっちでも良さそうだけど」

「まあ、そうかも」


 ここの二人も普通に知り合いで、仲は悪くはなかった。


「あとでさ、魔獣同士でやろ」

「ああ。終わったらな」


 なんとなく、さっきまでの雰囲気とは変わってきて、休み時間のような雰囲気になってきていた。


 凛空は話す人もいないので、動きがあるまで広い部屋のすみっこでしゃがんでいることにした。人間観察とかっていうやつだ。


  ◇ ◇ ◇


「あの」


 夏向に誰かが話しかけてきた。その人物は、大阪校の一年生、夜桜七瀬だった。


「ん?」

「桜花系……ですか? 血統的に」

「ま、まあ……」


 初対面にしては、かなり攻めた質問だ。


「苗字からわかる通り、私も桜花系です」

「そっか……」


 急に言われて、夏向は七瀬がどういう意図で聞いてきたのかわからなかった。


 大体、桜花系は苗字の漢字に「桜」が入っている。苗字で桜が入っているものはそこまで多くはないだろう。つまり、魔術師で苗字に桜が入っている場合は、桜花系と考えるのが普通だ。


 わざわざ確認のために聞くのは少しおかしい気がしていた。


「でも、あんま聞かないけど……」

「まあ、桜花は広いから……知らなくて当然ですよ」


 桜花系は、他の家に比べて枝分かれが多く、桜花の術式も途絶え始めている。魔術師でない者も多い。


「伊桜は一回途絶えてるから、人のことは言えないけど」


 伊桜の術式は、夏向の父親で途絶えたと思われていた。まあ、魔術師ではよくあることだ。


「そうなんですね。夜桜は意外と長く続いてるんですけど」

「そう……か……」


 夜桜家は、かなり魔術師としては優秀な家系。だが、そこまで人が多くないことから、あまり知られてはいない。


「お互い、頑張りましょう。桜花として」

「……ああ」


 何故か宣戦布告のようなものをされてしまった、夏向なのであった。


  ◇ ◇ ◇


「悠莉、」

「お、聖響」


 悠莉は大阪校で顔見知りの一年生、杠葉聖響と話をしていた。


「元気そうで良かった」

「まあな。ありがと」


 聖響は悠莉のことを心配しているようだった。


「他の一年は? 仲良くやってるか」

「ああ、うん。まあ、それなりに」

「そっか」


 悠莉はさりげなく大阪校の情報を仕入れようとしていた。


「悠莉が助けた人、他にもいるの?」

「あー、えーっと、中野遥……あの子は、昔助けたらしい。俺もよくわかんないけど。多分、快音が音緒に預けて、大阪校に入ったんだと思う」

「そうなんだ……」


 悠莉は、案外色々な人を助けている。聖響もその一人だった。


「遥くん、ぼーっとしてて、何考えてるんだか、わかんないんだよね」

「昔色々あって、その反動みたいだけどね。心の中では色々考えてそうだし。戦えてればそれでいいって感じで」

「そう……だね」


 悠莉は意外と覚えていたようだった。


「聖響も術式を扱えるようになったし、まあ、負けるつもりはないけど、頑張って」

「悠莉も……悠莉は頑張らなくても大丈夫そうだけど」

「まあ、それなりにやるよ」


 そして二人は握手を交わした。


「あ、ユズキは元気?」

「多分。入学してからは一回しか会ったことないけど、その時は元気だったと思うよ」

「そっか」


 悠莉が言った、「ユズキ」という人物は、悠莉からすれば従兄弟にあたる人物で、大阪校の二年生、朝吹あさぶき悠月ゆずきだ。

 朝吹家現当主の三男で、悠莉とは同い年ということになる。

 ちなみに朝吹家の現当主は、悠莉の父の弟となる。


「会いに行ってみるか、今度」

「大阪来るの!?」

「まあ。たこ焼き食べたい」

「え」


 そういう理由かよ、と聖響は思ってしまった。


  ◇ ◇ ◇


「快音さん……!」


 そう快音を呼び止めたのは、大阪校一年生の早乙女剣都だった。半ば強制的に手を引かれ、中野遥も付いて来ていた。


「おう、剣都に遥。元気そうだね」

「はいっ!」


 剣都は、快音に助けられて魔術師になった。遥は、悠莉と快音に助けられ、快音から音緒に預けられた。どちらも、快音が関わって魔術師になった。


 その前に、命を救われたというのもある。


「二人とも、頑張れよ。それなりに」

「そんなこと言っちゃっていいの? 東京校の担当なのに」

「だから『それなりに』って」

「あーね」


 快音と剣都は話を進めていったが、遥は全く興味もなく、別の方向を見ていた。


 その視線の先には、すみっこで人間観察をしていた凛空がいた。


「遥、」


 それに気付いた快音が、そう遥に話しかけた。


「アイツは東京の一年、風晴凛空。興味あるなら、話しかけたら?」


 遥は快音にそう言われ、凛空の方に向かった。


  ◇ ◇ ◇


 人間観察をしていると、誰かが凛空に近付いてきた。


 その人物は、大阪校の一年生、中野遥だった。


「えっと……」


 遥はもじもじとしていた。


「君、風晴凛空くん?」

「うん」


 これはさっき自己紹介してるから、聞くまでもない。


「一人?」

「ま、まあ……」


 一人で何か悪いか? と凛空は少しキレかけていた。


「僕、学校選とか、別に興味ない。他の事も、大体そう。でも、君には興味ある」

「え?」


 告白かよ。

 凛空は思わずそう言いたくなる。


 目が見えないから、どこ見ていいかわかんないのもあるが。


「友達、なろ?」


 遥はしゃがんでそう言った。凛空には一瞬だけ、目が見えた。その瞳は、だった。


「あ……えっと……」


 凛空はどうしていいのかわからなかった。


 遥は首を傾げて、かわいいアピール的なのをする。無意識だろうが。


「友達って、勝手になるものじゃない?」

「ダメなの?」

「ダメってわけじゃなくて、その……まあ、その……」

「ん?」


 子犬みたいにくーんって言わないで……と凛空は遥に圧倒されていた。


「よろしくね、遥くん」

「よろしく……! 凛空くん」


 かわいい……可愛すぎる……こんなかわいい男子が居ていいものなのか……?

 そう凛空は考えた。


 何で俺は男子にときめいてしまっているんだか……と自分にツッコミも入れる。


 凛空は珍しく、仲良くなれそうろ感じていた。まあ、学校選は敵同士だが。


  ◇ ◇ ◇


「なんか、ありがとね」


 遥が凛空と上手くやってるのを見て、音緒は快音にそう言った。


「ん?」

「いや、別に俺は何も」

「遥は、快音がいいみたいだよ」

「そっか」


 快音は自覚ないみたいだが、遥は意外と快音を気に入っている。


「転校するか?」

「本人に聞いてみな」

「現状維持でいいと思うけど」

「なら言わないで」


 音緒はちょっと真剣にそう言った。

 一方快音は、笑いながら「ごめんごめん」と言って場をやり過ごした。


 音緒が言い返そうとした時、部屋の階段の方から、両校の校長的なポジションの二人が現れた。これで言い返すのは不可能になった。


  ◇ ◇ ◇


「みんな、そろそろ準備しよう。どっちからになったんだ?」


 歩武ともう一人がやってきて、もう一人の方がそう言った。そのもう一人が、若葉海亜だった。


「大阪から」


 音緒がそう答えた。


 ポジションが上でも敬語は使わないのは、教師クラスでも変わらないものだった。


「そうか」


 海亜はそう短く返した。


 そして全員の見える位置に移動した。凛空と遥は思わず立ち上がってしまう。


「東京と大阪、どちらが優秀か。一年に一度の学校選を始めよう」


 海亜はそう宣言した。


 場を静寂が包む。妙な緊張感にも包まれていた。


「大阪は準備して定位置につけ。東京は二階に上がれ」


 歩武がそう呼びかけ、全員が準備を始めた。


「じゃあね、凛空くん」


 遥はそう言って、他の人たちに付いて出ていった。


「凛空、行くぞ」


 凛空はそう声を掛けられ、二階に上がった。


 二階も、一階と同じような造りになっていた。

 違うところと言えば、大きめのモニターが多く置かれていることだ。


 そのモニターには、森のような風景が映し出されていた。

 数台あるうち、全てに、似たようで違う風景が映し出されていた。


「すご……」

「すごいだろ」

「えっ?」


 悠莉は何故か自慢げだった。


「俺の術式なの、これ。全部」

「え」


 凛空は驚いていた。


「詳しくは言えないけどね」


 他人の術式のことを深く聞くのは辞めた方がいい気がする。ここは聞かないでおこう。と凛空は自制した。


「そろそろ始めるぞ」


 海亜がマイクに向かってそう言った。

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