3.学校対抗選手権

第一部

第21話 合流

 あれから数か月が経っていた。


 凛空も桜愛も無事に回復し、仕事に戻っていた。


 そして季節はすっかり夏。とにかく暑かった。もう全員夏仕様になっていた。


 今日は何やら、特別な日らしい。何かは知らないが。


 東京校の校門の前には、凛空と悠香と夏向と桜愛と快音が集まっていた。

 そして、あの時と同じように、校門の外側からすごい圧力のような魔力を感じていた。

 凛空は最近、なんとなく魔力の見分けがつくようになっていた。

 そのため、この魔力は、悠莉のものだと瞬間的にわかった。


「おにーちゃーん!」


 悠香は悠莉にそう呼びかけた。

 悠莉はその声に軽く手を挙げて返した。


 悠莉が悠香たちに合流するまでの時間は、そう長くはなかった。


「お兄ちゃん、久しぶり」

「ああ。まあ……数か月ぶりってとこか?」

「うん」


 兄妹にしてはぎこちない。でも、それがこの兄妹だった。


「悠莉、予定空いたんだな」


 快音は、悠莉と悠香の会話が終わったのを見計らってそう言った。


「空けたんだよ。アイツが一対一でやろうって言うから」


 悠莉は気怠げにそう言った。

 アイツとは誰を指す言葉なのだろうか。凛空にはわからなかった。


「毎年そうだな」

「人は違うけどね」

「そうだな」


 快音と悠莉はテンポよく話を進めていく。


「桜愛、怪我してたみたいだけど大丈夫か?」

「うん。もう平気」

「それはよかった」


 悠莉は一気に話を桜愛に持って行った。

 悠莉も桜愛の怪我を知っていたようで、心配していたようだった。


「夏向、相変わらず元気か?」

「ああ」


 夏向に対して軽すぎないか? と思わずツッコミたくなるが、そこはこらえた。


「凛空、」


 悠莉は凛空にも話を振ってきた。急すぎて、凛空は少しビクッとしてしまった。


「少しは強くなったか? 見せてもらうからな、今回」


 悠莉は凛空の隣まで来てそう言った。


「え、あ、えっと……今回って、何するの?」

「え、説明されてないの?」

「う、うん」


 悠莉は凛空がてっきり知ってるものだと思ってたらしい。

 悠莉は快音のことを少し睨んだ。


「いやぁ……ごめんごめん。俺だって忙しくてね、自分の仕事だってあるし……」


 快音はそう言い訳した。今この場で話してくれてたらまだよかったかもしれないのに。


「まあいい」


 悠莉はそう言った。声のトーンが少し落ちた気がする。

 だが快音はヘラヘラとしていた。これが快音なのだが。


「今日やるのは、学校対抗選手権。通称、学校選」

「学校選……?」

「そう」


 悠莉はそう説明を始めた。


「魔術学園には、東京校と大阪校がある」

「ほう」


 それはなんとなくわかっていた。


「それで、学校選はその二校の代表者で勝負する」

「ほう……具体的には?」

「具体的には、ある空間に術式で作られた怪物に近しいものを五体放つ。それを倒すまでの速さを競う。そんな感じ」

「なるほど……」


 なんとなく理解はできていた。

 いかにも魔術師っぽい競技だった。


 体育祭とか、そういうのの代わりなのだろうと凛空は思っていた。


「まあ、別々にやるから、殺し合いにはならないはずだよ。対象はCが四体とBが一体だから、ちょっと大変かもしれないけど」


 魔術師や怪物には、強さを示すランクがある。どちらも、SからDまであり、普通がCで、BとCが多いらしい。Sなんていうのは異次元とも言われている。


 凛空の場合は、魔力量だけ考えるとBだが、経験も踏まえ、Dからのスタートとなっている。


 怪物のランクに応じて、どの魔術師が行くのかというのが決まるらしい。

 そのため、このランクはかなり重要な指標だった。


 だからか、こんなところにもランク制が適応されている。


「なるほど……まあ、大丈夫だとは思う」

「その意気だ」


 悠莉は凛空の肩をポンと叩き、校門の方に向かった。悠香たちもその後に続いていく。


「凛空ごめんね、伝えてなくて」

「だ、大丈夫です」


 快音は申し訳なさそうにそう言ってきたが、快音は自分の仕事も、家の事も、学園の事も、色々やってて大変だと凛空は思っている。だから、責める理由もなかった。


 その時、校門の前に、一台の車がやってきた。その車は、普通の車よりは少し大きな車だった。


 悠莉と快音はその車に近付いて行った。すると、運転席の窓が開き、二十代後半から三十代前半くらいの男の姿が見えた。


「凛空、行こ」


 悠香がそう呼びかけてきた。悠香たちもいつの間にか車の近くにいた。

 凛空は置いて行かれたくない一心で悠香たちに合流した。


「お、君が新人くんか」


 車の中からそんな声が聞こえた。さっき見えた運転席の男が放った言葉みたいだった。


「えっと……」

「俺は二年担当の如月きさらぎ歩武あゆむ。ついでに東京校の統括もやってる」

「なるほど……」


 この人が如月歩武か……と凛空は思った。


 見かけは優しそうな感じで、感じる魔力も多い方だと感じていた。


 そして凛空たちはその車に乗り込んだ。凛空はなんとなく流れで乗ってしまったが、どこに行くのかはわかっていない。


「あのぉ……」


 凛空は隣にいた悠莉に問いかけるようにそう呟いた。


「今向かってるのは、それの専用フィールド。昔から採用試験的なので使われてたところ」

「ほう……っていうか、何で聞きたいことバレてんの……?」

「この状況で話してないことって何かなって。考えたら向かってるところ言ってなかったなって」

「なるほど……」


 恐るべし。

 そして凛空は不思議で仕方なかった。


 そして数十分後、とある施設のようなところに到着した。一応東京ではある。


 敷地を囲む塀と門。その中には二階建ての建物と、塀で囲まれた森があった。


 凛空たちはその建物の中に入っていった。


 一階は一部屋になっていて、簡単に椅子と机が置かれていた。


 その一階には既に先客がいた。男四人と女二人の合計六人。大阪校のメンバーと考えるのが妥当。


 六人の中の一人がこっちに向かってきた。女の人だった。そして快音がその女の人に歩み寄って行く。


「待たせたな」

「こっちも今来たとこだから」

「そっか」


 快音とその女の人はかなり仲が良いみたいだった。


「じゃあ、初めましてもいるから、全員自己紹介しようか」


 悠莉がそう言い、自己紹介する流れになった。


「大阪から行こう」


 快音と仲良さそうな女の人がそう言い、大阪校の人たちが立ち上がって、近くに集まってきた。


「俺は高坂たかさか陸斗りくと。三年魔獣使い。ランクはBだ。よろしく」


 黒髪で高身長の男がそう言った。凛空は何だか冷たい雰囲気を感じていた。


杠葉ゆずりは聖響いぶき。一年。ランクはCです。よろしくお願いします」


 今度は凛空と同い年だった。

 凛空は少し控え目な男の子といった印象を持った。


夜桜よざくら七瀬ななせです。一年生でギリギリBランクです。よろしくお願いします」


 明るいけど、どこか影があるような、そんな女の子……といったところだった。


中野なかのはるか……です……」


 そう言ってペコリとお辞儀をした男の子。少し小柄で、前髪でどちらの目も隠れている。さらに、心ここにあらずといった感じで、不思議な男の子だった。


「俺は早乙女さおとめ剣都けんと。一年で、まだ新人なんでDです。よろしくお願いします」


 こっちは元気な感じだった。ウザいぐらいに元気で、嫌われがちだが、めっちゃ優しい……といったところ……というイメージを凛空は感じていた。


「私は雪野ゆきの音緒ねお。大阪校の一年生担当。一応、そこの鳴宮家当主の先輩」


 仲良くしていた女の人は気怠げにそう自己紹介をした。そういう自己紹介なら、仲良くしてたのもわかる。


「あと、今二階に二年担当の若葉わかば海亜かいあっていうのがいる。大阪校の校長みたいな感じな人」


 音緒はそう付け加えた。


 海亜は歩武と同じような役割ということだった。


「じゃあ、東京も」


 快音がそう言い、東京校の自己紹介が始まって行った。


「じゃあ、そっちから」


 悠莉はそう言い、夏向の方を見た。


「え、俺?」

「そ」


 夏向は一瞬動揺したが、すぐに受け入れたようだった。


「えーっと、東京校二年、伊桜夏向です。よろしくお願いします」


 夏向は簡単にそう自己紹介をした。

 順番は、隣にいた桜愛に移った。


「愛野桜愛です。よろしくお願いします」


 桜愛も簡単に自己紹介していく。


「はい。朝吹家前当主の息子、朝吹悠莉でーす」

「その妹の悠香です。お兄ちゃんみたいに強くはないですけど、よろしくお願いします」


 見事な兄妹コンボ。

 初めて会った時にこの自己紹介されたら近寄りがたい存在に思えてきそうだと凛空は感じた。


 そして、いつの間にか凛空に順番が回ってきていた。


「あ、えっと、その……一年の風晴凛空です。新人ですが、よろしくお願いします」


 凛空はすごく緊張していた。凛空はこういうのは苦手だった。なんとかできてよかったが。


「そして、一年担当で鳴宮家当主、鳴宮快音です」


 快音はそう自己紹介した。こっちも文字列の威圧感がすごかった。


「あと、こっちも二年担当の校長的な如月っていうのがいます。もう二階行っちゃったけど」


 快音もそう付け加えた。


 歩武はいつの間にか移動していたようだった。凛空だって、少しは魔力を感じることができる。でも、移動したことに気付かなかった。不思議だ。

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