第20話 怪我

  ◇ ◇ ◇


「桜愛……!」


 知樹は、桜愛を置いて行ったフロアにたどり着き、意識がない桜愛を発見した。

 そして知樹は桜愛に駆け寄って行った。


「桜愛、大丈夫か?」


 知樹が呼びかけるが、桜愛は何も答えない。


 知樹は、桜愛の首元に手を当てる。そして少しうなずいた。


「死んではないか……」


 知樹は、魔力の反応的に桜愛が死んでないことはわかっていたが、ちゃんと脈も確認したというところだった。


「どうするかな……」


 知樹は少し考えた。


 ――とにかく、ここから連れ出して、颯希たちと合流しなきゃな……


 知樹はそんな結論に至り、桜愛を背負って校舎を出ようとした。


 怪我を確認できるような状況ではなかったから、知樹は確認してない。まあ、死んでないってことは、まだ大丈夫っていうこと。という考えでもある。


 知樹はそんなことを気にせず、階段をジャンプして一気に下り、校舎を出た。


「えっと……体育館か」


 知樹は颯希や凛空の魔力を感じ、体育館に居るというのを察した。


 そして知樹は体育館に向かった。


  ◇ ◇ ◇


 優多と沈黙の時間が流れていた。


 誰か来てくれないかと数分待っているが、誰も来ない。数分でそんな考えになるのも少し変か。


 優多にはもう背中を向けられている。顔を合わせていないだけまだマシといったところだった。


「ふぅ……はぁ……はぁ……」


 体育館の崩れた瓦礫がズレる音と共に、そんな吐息が体育館に響く。


 瓦礫の中から現れたのは、颯希だった。


「凛空、大丈夫か?」


 颯希は凛空に駆け寄ってきながらそう言った。


「優多……が助けたのか?」

「何か悪い?」

「いや、別に」


 颯希と優多は知り合いのようだった。


「凛空、悪化したか? もしかして」

「うん……多分」

「なるほど……」


 多分どころか、確実だ。


「乗れ」

「えっ……?」


 颯希は、背中を向けてしゃがんでそう言った。


「背負ってやるから」

「あ、ありがとう」


 凛空は颯希の背中に乗った。


 こんな状況は何年ぶりだろう。怪我してるとはいえ、凛空は少し恥ずかしさを感じていた。

 しかもこんな少女に見られているとは。


「優多はどうすんの?」

「ん? 帰るよ? そっこー」

「そうか。俺はどう報告したらいい?」

「凛空くんがどうにかしたってことにすればいい。私はいなかったていで」

「わかった」

「じゃあねー」


 颯希とそう話した後、優多はどこかに行ってしまった。どこに行ったのかはわからない。消えていったようでもあった。


「知り合いなの……? 優多と」

「まあね。ながーく知ってる。十年くらいかな……多分」

「十年……」


 十年ということは、颯希が高校生の時くらいの頃だ。

 魔術師であることは間違いなさそうだが、何者なんだと凛空は考える。


 優多は見た目からして十歳ほど。生まれた時からとか、そういう感じの話なのかと凛空は予想した。

 仮にそれが正しいなら、十歳であんなに強いとかバグりすぎだ。でも、最強の魔術師はあの子じゃないと考えると、悠莉はどんな強さを持っているんだという考えに至る。


 変なことになりそうだから、無駄なこと考えるのは辞めようと凛空は思った。



「お、颯希。そっちも怪我か」


 少し進んだところで、知樹と再会し、知樹はそう声をかけてきた。


「ああ。足首骨折っぽいな。歩けないらしいから、全治一ケ月ってとこだろう」

「そっか……でもまあ、学校選がっこうせんには間に合いそうだね」

「多分な。よかったな。出なくてよくて」

「うん」


 聞きたいことが色々あるが、今は痛みの方が強くなってきていて、凛空には聞く余裕はなかった。


「そっちは?」

「壁に頭打ったっぽい。あと、見た時には外れてたけど、ガラスが刺さってたっぽい。今は意識ない」

「そっか。そっちは……」

「全治は知らない」

「だよな」


 桜愛はかなり重症みたいだった。


「とりあえず、救急車か……」

「救急車だと、あそこには運ばれない」

「じゃあ、行くしかないのか……?」


 颯希と知樹は、そんな話をしながらも、学校の敷地から出ようとしていた。


「この時刻なら、走ったってバレないよ」

「そうだな……」


 知樹の提案で、何故か病院まで走ることになったらしい。その辺の病院じゃダメな理由があるのか……?


 そんな疑問が生まれたところで、颯希と知樹は同時に走り出した。


 車に乗っているときに流れる景色と同じような景色の流れ方をした。それくらいすごい速度だった。人間の域を超えているようだった。


 深夜なためか、道にはほとんど誰もいない。わざとそういうところを選んでいるのかもしれないが、これをもし見てしまったなら、まず目を疑うだろう。


 そして数十分走ったところで、とある病院に入っていった。二人はその建物の、夜間救急用の扉の前で、立ち止まった。


 扉には、『第二救急科・夜間救急進入口』と書かれていた。救急科に第一と第二があるということなのだろうが、わざわざ分ける意味がわからない。


 そしてその扉の外には、数人の人がいた。


「連絡……はぁ……はぁ……来てましたか……? はぁ……はぁ……」


 知樹がその数人にそう話しかけた。


「はい。来てました。えっと、愛野桜愛さんと、風晴凛空さんでよろしいんですよね?」


 数人のうちの一人がそう言った。


 そしてそのあと、凛空は処置室の中に入れられ、右足を凝視された。


 それから、右足を色々され、凛空は普通じゃ考えられないような声を上げた。自分でもびっくりしたくらいだ。


 そのあとレントゲンを撮られ、「折れてますね」とはっきり言われた。


「それは……なんとなくわかってますけど……」


 凛空はなんとかそう答える。


「足首が完全に折れていて、骨がズレているので、手術で正常な位置に戻す必要があります」

「え」


 凛空は、手術という言葉に、激しく動揺した。


「手術をするには同意書が必要なんですけど、本部のデータベースには、ご家族の記載がないみたいですね。どうしたらいいですかね……」


 そんなの、凛空に聞かれてもわからない。

 しかも、この人たちは魔術師のことを知っていた。


 魔術師をしている上では、普通だったらどうやったらこんな怪我をするんだという怪我をすることだってある。だから、そういう説明を省くために、連携をする病院があり、そのため、第二救急科というものがある。


「親戚とかは……」

「親戚……」


 凛空の親戚といえば、皐月家しかいない。


「母が、皐月家当主の妹なんです。それだったら、どうですか……?」


 一応凛空はそう言っておいた。


「確認してみます」


 医者はそう言って部屋を出ていった。


 その数時間後、凛空はサインが取れたと言われた。

 玲磨がサインをしてくれていたらしい。

 これは感謝しなければならないと凛空は感じた。


 そしてそのまま手術をすることになった。



 数日後、手術はうまくいったが、動けない状況になっていた。当たり前だが。


 そんな時、病室に思わぬ来客があった。

 その人物は、皐月家現当主の皐月玲磨だった。


「あ……」

「凛空くん。よかったな、骨折くらいで」

「あの、サイン……」

「ああ……君は実力者だからね。魔術師はただでさえ人手不足だから、治る怪我なんかで辞められたら困る」

「なるほど……」


 あくまでも魔術師のためねぇ……とは思ったが、それでもありがたいと凛空は思った。


「あ、あと、君と一緒に運び込まれた子、意識戻ったって」

「本当ですか?」


 桜愛のことだった。意識が戻ってよかったと凛空は思った。


「嘘つく理由はない」

「よかった……」


 凛空が安堵の息を吐いている間に、玲磨は「じゃあな」と言って病室を出ていった。

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