第19話 空間創造
痛い。
体が熱い。
確実に頭も打った。
怪物の魔力は、まだ残っている。
陽乃女はまだ生きている。
なら、やらなきゃ……
凛空はなんとか立ち上がった。
煙が薄くかかっている先に陽乃女の姿が見える。
陽乃女も立ち上がっていた。
「くっ……未熟でも……さすが皐月ってとこだね……」
陽乃女はさっきほどではないが、まだ余裕そうにそう言った。
「無駄に魔力量が多い。でも、未熟だから強い術式はできない」
陽乃女は続けてそう言った。
それは事実だから、しょうがなく認めるしかないことだった。
「だったらなんだよ……多いに越したことはないだろ……?」
凛空はなんとかそう言い返す。でも、言い返す気力はもうない。
「まあ、そんな君には、この術式は解けないね」
「えっ……?」
解けない術式――つまり、対抗策がない術式ということ。正確には、『凛空にはその対抗策は使えないだろう?』ということみたいだが、そこまで聞いたところで、凛空の知識では、どんな術式かはとてもわかるものではなさそうだった。
「空間創造……」
陽乃女は天井に手を向けてそう呟いた。
空間創造……? それって、あの、皐月家最強の術式の空間創造なのか……?
凛空には聞き覚えのある術式だった。
凛空がそう考えているうちに、周りに黒い膜のようなものが張られ、何か光る点がいくつもあり、プラネタリウムのようになっていた。
「何だ……これ……」
凛空は思わずそう呟いていた。しかも、不覚ながら、綺麗と少し思ってしまった。
「綺麗でしょ?」
陽乃女はニコッと笑いながらそう言った。その笑顔の裏を考えると、ぞっとしてくる。
「まあ、君には使えないね。この術式、私のオリジナルだし」
そりゃオリジナルだろう。凛空の火蹴だって一応オリジナルだ。
「他のだってそうだよ? さっきの術式は、
何故か段々と声に悔しさみたいなものがにじみ出ているように感じた。
言っていたことから推測するに、簡単に言えば、弟子に抜かされたといった状況なのだろう。
確かに、そんな状況は悔しいから、自然と悔しさがにじみ出るのもわかる。
「まあ、君に空間創造は使えないようだね。その様子だと」
陽乃女はそう言った。それもまた事実だった。
凛空がわかりやすいのか、陽乃女がすごいのか、どちらなのかはわからないが、さっきから凛空は事実を突きつけられすぎている。
「空間創造は、空間創造以上の術式じゃないと破れない。しかも、対処しないと必中。さて、君はどうする?」
陽乃女は凛空にそう問いかける。
凛空にもう術式を発動させる力は残っていない。その状態で、まだ使ったこともない空間創造なんて使えるはずはない。
終わった……
凛空じゃなくても、同じ条件なら誰もがそう思う状況だ。
「何で白雪は君にあたしの相手を任せたんだろうね。あたし、魔力量は影秀より少ないけど、アイツは空間創造なんて使えない。見誤った結果、後輩が死ぬなんて、相当なダメージだね。よかったよかった」
陽乃女は凛空が何も言わないからなのか、そんなことまで言ってきた。
悔しいが、何もできない。
「世界創造……」
もう諦めていた時、少女のような声が、膜の中に響いた。
その瞬間、夜空のような膜が崩れ、さっきよりも真っ黒で、光がないような空間が広がった。
膜で覆われているだけではなく、どこまでも続くような気配まであるような真っ暗な空間。
一言でいえば、不気味だった。
そんな空間の中に、凛空と、陽乃女と、上空に黒いどこかのお嬢様が着てそうなワンピースを着た黒髪ロングの少女がいた。
この空間を作ったのは、その少女みたいだった。
「な、何……」
陽乃女はその少女に驚いていた。
仮に陽乃女の仲間なら、仲悪すぎだ。味方の術式を破るなんて。そう考えると、この少女は陽乃女の仲間っぽくはなさそうだった。
だからといって、凛空の味方かと言われればわからない。この少女は第三陣営的な立ち位置なのかもしれない。
どんな立ち位置にしても、今から何をするつもりなんだ……?
凛空は動向を見つめた。
「……闇討ち」
少女がそう呟くと、陽乃女の体を一筋の線が貫き、陽乃女はそのまま後ろに倒れた。
そして、光の欠片となって消えていった。
「えっ……」
凛空は思わずそう声を漏らした。
凛空がダメージを与えていたとはいえ、もう回復しているはず。そんな状態の陽乃女を、たった一撃で倒した。
何者なんだ、この少女……
誰もがそう思うだろう。
少女は陽乃女がいたあたりに着地した。その瞬間に暗闇は崩れ落ちた。
辺りを見回してみると、体育館の壁も、もろくなっていたせいか、崩れ落ちているところが多くあった。
そして少女は振り返り、凛空の事を見た。
凛空はその圧というか、そんな感じの何かに押され、尻餅をついてしまった。
少女は、凛空に真っ直ぐ向かってくる。
そして、凛空の目の前で止まった。
今まで、勝手に少女だと思っていたが、見た目からも、凛空は確実に少女だと確信を持った。これで違うとかそういうのはやめてほしい。
何思ってんだ……? 俺。と凛空は自分にツッコミを入れる。
「大丈夫? 凛空くん」
少女はそう言って凛空に手を伸ばしてきた。
「あぁ……うん。大丈夫」
そう言って、凛空は自力で立ち上がろうとするが、その瞬間にひどい痛みが足首に走って、また尻餅をついてしまった。
「いったぁ……」
凛空は思わずそう呟いた。
っていうか、何でこの少女、俺の名前を……?
今更過ぎるが、凛空はそう思った。
「今、何で私が君の名前を知ってるのかって思ったでしょ」
少女はそう言った。
完全にバレていた。
「今更すぎ」
少女も同じことを思っていた。
「それに。怪我してること忘れるとか、意味わかんない。自分の身体のことくらいちゃんと把握しておきなよ」
ごもっともだ。
「まあいいよ。私は
「なるほど……」
優多は凛空に顔を近づけながらそう言ってきた。
優多じゃなかったら、もっと大人だったら、こんな冷静に反応はしていないだろう。
「でも、何でここに?」
「知り合いからの情報でね」
「ん?」
優多は、少し気取ったようにそう言った。
「事前調査の報告の割に、かけてる人数が多い。だから、何かあるんじゃないかってね。上が隠してること……とか。それで、ちょっと見に来てみた。そしたら、新人が空間創造にハマっちゃってたから、助けた。そんな感じ」
「なるほど……」
その知り合いっていうのが誰なのか、凛空は気になっていた。
「ありがとう。助けてくれて」
「大丈夫。当然だから。新人だし、しかも皐月家の血筋。助けた方が、今後のためになる」
「なるほど……」
意外と考えは大人だった。
「それにしても、君も中々やるね。結構攻撃してた」
「見てたの?」
「うん」
「だったら……助けてくれたらよかったのに……」
「助けたら意味ないでしょ? 新人には経験が必要。特に君は、それなりの魔力は持ってるわけだし」
「えぇ……」
でも確かに、爆炎が使えるようにはなった。成長はした。まあ、結果的に助かったからこれ以上言う事もなかった。
「ごめんねー私じゃ君を担げないから」
「いや、大丈夫」
凛空は何か申し訳ない気持ちになった。
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