第18話 爆炎

  ◇ ◇ ◇


 火生は軽々と避けられてしまった。でも、陽乃女は全く反撃してくる気配がなかった。


 凛空はそれを不思議に思ったが、深くは考えずに次々と火生を発動させた。


「威力は十分。でも、正確性に欠ける……未熟な魔術師の典型……だね」


 術式をかわしながら陽乃女はそう言った。


 確かに、正確性に欠けている。それは事実。それに、未熟なのも事実。言っていることは合ってる。だけど、言い方なのかはわからないが、凛空は陽乃女にムカついていた。


 そういうことじゃないが、それを見抜く力と余裕。それが陽乃女の力であって、凛空との差だ。そう簡単に勝てる相手ではない。当たり前だが。


「未熟だからなんだ」

「ん? わかんないの? 君じゃ、あたしを倒すことはできないってことだよ。白雪だったら別だけどね」


 陽乃女はそう言った。


 確実に自分の方が強い。そう言い張っていると言う事だ。そのことについて凛空は否定しない。でも、負けるつもりはない。


「なるほど……でも、やってみないと分かんないだろ?」

「ふーん。やっていいんだ」

「やってみろよ」


 そう言うと、陽乃女は両手を広げた。その姿は何かを受けるかのようだった。


 凛空は思わず身構えてしまった。

 これが術式の発動モーションのようなものだと感じたからだった。


 何が来るか、全く予想ができない。

 凛空はとりあえず、火生を発動させた。


 すると、陽乃女の周りに光が舞い始めた。


 今は防御体勢が取れないはずだから攻撃のチャンスのはずだけど、凛空はそこで攻撃したらダメなような、罠のような気がしていた。


 凛空が未熟なら、そこで攻撃してきて罠に引っかかる。陽乃女はそう思って、絶対に勝てるような自信になっているような、そんなことを感じていた。


 ここは、撃ってきた術式に真っ向から対抗することしかない……と凛空は思った。


 陽乃女は胸の前で何か白い球体を作り出した。そして不気味にニヤッと笑った。


「来い……」


 凛空はそう呟いた。


 その瞬間、その球体から光線が発射された。


「マジかよ……」


 凛空からは、思わずそう声が漏れてしまった。


 そしてとっさに右側に跳んで凛空はその光線の直線上から動いた。

 でも、光線は一気に横に動き、凛空を追ってくる。

 凛空はその光線から必死に逃げるしかなかった。


 体育館の壁に横一直線に焦げたような跡が残る。突き抜けているかはわからないが、かなりの威力であることは確か。

 人間があの術式に当たったら、確実に死にそうだと凛空は改めて恐怖を感じた。


 そんな悠長なことを考えている場合じゃない。

 何か対抗しないと、逃げてるだけじゃ、死ぬ……!!

 でも、皐月家には悪いが、火生じゃ全く対処できそうにない。

 どうしよう……


 ……


 あれしかない。


 凛空がとっさに思いついたのは、それしかなかった。



 凛空は、勢いそのままに斜め上に跳び上がって、火生と同じような動きをした。


「爆炎……!」


 凛空はその光線に向かって、爆炎を発動させ、放った。

 初めてでも、なんとか形にはなっていた。


 凛空は急いで光線の直線上から離れるように急いで床に着地する。



 爆炎は光線と真っすぐにぶつかり合い、性能通りに爆発した。

 光線は、そこで途絶えた。


「やった……!」


 凛空は喜んでいたが、喜んでる場合ではない。ただ術式を破壊しただけで、陽乃女には何の危害も与えられていない。しかも、凛空は爆発を起こした挙句、自分に被害が返ってきている。


「いったぁ……」


 凛空は普通に破片が当たり、痛みを感じていた。しかも、足もまた痛くなってきた。


「へぇ……破るんだ。君は。まあ、少しは強いみたいだね。しかも、皐月の家」


 陽乃女は余裕そうにそう言った。


 力の差がありすぎることは明白だった。


「まあ、でも、あたしが強いんじゃなくて、君が弱いんだからね? 言っとくけど」


 言葉の追撃。身体だけじゃなくて心まで攻撃してこないでくれと凛空は願った。


「そうかよ……散々言ってくれたけど、俺、全然痛くないから」


 これは完全な噓だ。


「再会しようぜ? 『殺し合い』」


 ここまできたら、もうやるしかない。死ぬ気で。

 凛空はそう決意する。


「いいじゃんいいじゃん。それでいい。本気で来てくれないと……ね?」


 陽乃女はまだ余裕そうだった。


「ふぅ……」


 凛空は大きく息を吐いた。

 そして真っ直ぐ陽乃女を見つめた。


「でも、勝つのはあたしだから」

「勝つのは俺だ」


 お互いにそう言い合ったところで、お互いに術式を発動し合った。


 凛空は連続で爆炎を発動させた。陽乃女は威力は下がっているように感じるが、さっきと同じように光線を発射した。


 さっきもそうだったが、光線はかなりの持続性があった。何かを吸収するような動作があったから、魔力とは別のものがもとになっていることがわかる。


 凛空は光線に爆炎をぶつけ、光線を破壊する。

 でも、いくら破壊しても、ちっとも陽乃女本体に攻撃が当たることはない。それじゃ、全く意味がない。


 こっちは爆発で床の破片が飛んできたりで怪我してるわけだし、対抗はできても、反撃ができない。凛空はどうしたらいいかわからなかった。



 凛空はしばらく考えながら、必死に光線を防いだ。

 でも、全く策が思いつかない。それに、魔力が減っていくばかり。


 その末に凛空がが思いついたことは突飛なことでもない。ただ、怪我を無視しようというだけだ。


「もうちょっと待ってくれよ……」


 完全に折れるのは。


 凛空は踏み込んで一気に陽乃女に向かって行った。


 陽乃女は同じように光線を放ってくる。

 凛空はそれを横に避けながら進んでいく。


 距離が近くなるほど射撃位置をずらすのは大変みたいで、近付くほど光線は気にしなくてよくなった。


 そして火蹴を発動させた。


 怪我を無視して、陽乃女を数発蹴る。すると、光線の根源になっていた球が消えた。


 集中力というか、そういったものが切れると、無くなるような感じなのだろう。

 これで次の光線までチャージの時間が必要になるだろう。

 罠の可能性ということもあるだろうけど、この状況で、発動させようとも思わないだろう。

 多分。

 というか、そうだと願いたい。


 そのあと続けて火生、爆炎を発動させ、バランスを崩した陽乃女に思いっきりヒットした。


 陽乃女は体勢を立て直し、光線とはまた違った術式を放とうとした。

 でも、凛空はそこに突っ込んでいき、火蹴を発動させた。


 数回蹴るが、それを全て手で防がれてしまう。


 その時、再度、ボキッという音が鳴った気がした。骨が完全に折れた音だった。


「っ……」


 すごい痛みで、これ以上攻撃を続けるのは無理だった。でも、ここで止めたら確実に死ぬ。


 死にたくない……

 凛空は咄嗟にそう思った。


 人間ならば、誰しもが思う事。でも、思う状況に遭遇することは少ない。

 そんな状況に、今遭遇した。一回ではない、これからもあるかもしれない。

 そのたびに生を選ぶ。

 魔術師を続けるために。

 両親の見た世界を感じるために。



「うあぁぁぁぁ!!!!」


 凛空はそんな声を上げ、力を振り絞り、陽乃女の目の前で爆炎を発動させた。


 この距離だったら、直接爆炎が当たる。避けられないし、威力も高い状態で当たる。


 その代わり、凛空も相当な爆発の影響を受ける。捨て身のような攻撃。


 でも凛空には、それしかできない。

 やるしかない。


 凛空はそう決意し、陽乃女に直接蹴るように爆炎をぶつける。

 その瞬間、大きな爆発が起きた。凛空も陽乃女も爆風で吹き飛ばされていき、体育館の壁にすごい勢いで衝突した。


「っ……」

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