第14話 下見

 あれから数週間後、凛空は次の任務のために話し合いをするということで、寮の共有スペースに来ていた。


 そこには、凛空と桜愛の他に、もう一人の男が来ていた。

 さらにそこに、もう一人男が来た。この男は、すごく大人っぽかった。


「もう全員揃ってたみたいだな」


 その男はそう言いながら、三人のいる場所まで来て、立ち止まった。


「俺は、白雪しらゆき颯希さつきだ。よろしく」


 この人が、悠莉が挨拶しに行った、サツキか……

 凛空は瞬間的にそう思った。


「あー、一応、三年担当してる」


 颯希はそう続けた。


 凛空はまさか三年の担当だとは思ってなかった。でもまず、三年生に会ったことないから、知らないのも当然だった。まず、凛空は二年生担当にも会ったことがない。


「じゃあ、次……」


 颯希はそう言って、もう一人の知らない男に視線を向けた。


「え、俺?」


 その男の見た目は、右目に前髪がかかっていて、厨二感が漂っていた。


 颯希は、『そうだよ』と言わんばかりの目でその男を見つめた。


「はぁ……」


 男は、少しため息をついた。そして顔を上げ、気持ちを切り替えたような感じがした。


「俺は紫雲しうん知樹ともき。一応、三年だけど、敬語とか尊敬とかめんどくさいから、タメ呼びで頼む。とにかく、よろしく」


 知樹はそう自己紹介した。凛空はとりあえず軽く会釈えしゃくをしておいた。


「それじゃあ、次は、桜愛、頼む」

「わかった」


 颯希と桜愛は知り合いだった。当たり前のように。


「私は愛野桜愛。二年生。よろしく」


 桜愛はそう自己紹介をした。


「じゃあ、新入生」

「はい」


 凛空はわかってはいたが、いざ振られると緊張してしまった。


「えっと……その……一年生、風晴凛空です。よろしくお願いします」


 凛空は何事もなく自己紹介を終えた。


「今回はこの四人でとある任務に向かう」

「詳細は?」

「高校。怪物の情報があった。夜中に高校に侵入し、怪物討伐」

「なるほど……」


 颯希と知樹が主に話を進めていった。


「関係機関への連絡はもう本部が済ませてある。決行日は今日。今から移動する」


 颯希がそう言った。


 そして四人はその高校に移動した。



 時刻は夕方だった。

 高校には、部活の学生たちが残っていた。

 四人は校舎の下見をすることになっていた。


 高校の先生には、心霊現象が起きているということで、その調査と伝えられていた。間違ってはいないが、少し違う。まあ、噓をつくのはしょうがない事だった。


 校舎に特に変わったところはなく、至って普通の校舎だった。

 でも、魔力はすごく感じていた。魔術師とは違う、怪物のような魔力だった。


 ちなみに、凛空は上着を着ていても、そのまま術式が撃てるようになっていた。


「なるほどねぇ……」


 知樹はそう呟いた。知樹もそれに気づいているようだった。まあ、当たり前か。



 四人は校内を回ってみたが、魔力量が特段多かったりするところはなかった。全体的に魔力が広まっていたような印象だった。


 どこに現れそうと特定することはできなかったし、もちろん姿も見ていない。

 どうするつもりなのか、凛空は気になっていた。


 そして四人は学校を後にして、近くの飲食チェーン店に入った。


「一応、残ってた魔力は、怪物二体分だった。でも、他にいる可能性もある」

「とりあえず、一体見つけたらそこで分かれよう」

「そうだな……」


 颯希と知樹を中心に作戦の話し合いが始まった。


「分かれるにしても、どう分かれる?」


 桜愛がそう聞いた。


「うーん……実力で考えるなら、俺と桜愛、颯希と凛空じゃないの?」


 そう言ったのは知樹だった。


「そうだな……まあ、最初はそういう感じで行くけど、そのあとまだあったら、そこは臨機応変に、それぞれで判断して動こう」

「そうだな」「うん」「わかった」


 颯希の言葉に、凛空も含めた他の三人はそれぞれの返答をした。


 そして四人は夜になるまで待つことにした。



「凛空ってさ、なんで魔術学園に来たの?」


 知樹が急にそう聞いた。暇を持て余した末の質問だった。

 でも、凛空はなんて答えたらいいのかわからなかった。


 今席にいるのは凛空と知樹だけで、颯希や桜愛は席を外している。それに、周りに他の客は誰もいなかった。


「えっと……両親が、任務中に死んで……でも、魔術師だってことすら俺は知らなくて。それで、その世界を見てみたいって思って。元々、快音くんが誘ってくれたっていうのもあって……」


 凛空は簡単にまとめてそう話した。周りに誰もいないから話せたことだった。


「そうなんだー」


 知樹はやけに軽かった。


「なんか、みんなそうなんだなー……」

「えっ?」


 知樹は呟くようにそう言った。


「俺はさ、そんな理由はないしさ、ただ、親がやってたから。言われるがまま。みんなすごいなって思うんだよね……」

「……俺も、ちょっと前まではそうだった。親に言われるがまま、進路決めて……って」

「そうだよね……でも、目的なしに強くなったりとか、モチベ持たないんだよなー」

「へぇ……」


 確かに、理由や目的がなきゃモチベーションは持たない。凛空だって、知樹と同じような感じになってた可能性だってある。他人事ではなかった。


「でも、目的とか、理由がないのに、何でやってるの?」

「あー、最初にこの道に足を踏み入れた瞬間から、もう、普通には戻れないっていうか、そんな感じでさ……」

「へぇ……」


 凛空も他人には言うなよって言われた気がするから、もう後戻りはできそうにない。

 知樹は目的とか理由がないとか以前に、戻れないからやってるという感じだった。


「辞めるって言ったら、颯希と快音くんと如月きさらぎに必死に止められるし」

「キサラギ……?」

「ああ。二年担当の魔術師。如月きさらぎ……えっとー……」


 知樹は下の名前を思いっきり忘れているみたいだった。元々覚えてないのかもしれない。


歩武あゆむな」


 そう付け加えたのは颯希だった。颯希と桜愛がちょうどよく戻って来ていた。


「俺が快音の一つ下で、歩武が快音の二つ上」

「へぇ……」


 颯希はそんな細かいところまで凛空に教えてくれた。


 その証言を基にすると、快音が二十六歳だから、颯希が二十五歳で、如月が二十八歳というわけだった。まあ、だからどうってことはないが。


「とにかく、そろそろ行こう」

「おう」「うん」


 颯希に促され、四人はさっきの高校に向かった。


 外は暗くなっていたが、校舎は変わらず建っていた。当たり前だが。

 でも、一つだけ変わったことがあった。それは、感じる魔力の強さだった。

 さっき来た時よりも、確実に強くなっていた。

 数が増えているのか、強い怪物がいるのか……ただ怪物が姿を現しただけかもしれない。

 どんな理由にしても、何かが起こる予感がしていた。


「じゃあ、行くぞ」


 颯希がそう言って、三人はそれに頷いた。


 そして門を乗り越え、学校の敷地内に入った。もちろん、許可は取っているから、不法侵入ではないが、見た目は不法侵入に見えるだろう。それはやむを得ないことだが。


 中に入ると、凛空はさらに強い魔力を感じた。その魔力は、トンネルの時よりも大きく感じていた。


 さっきの颯希の話だと、怪物が二体ほどというところだったが、とても二体とは思えない。トンネルの時が、ほぼあの二体だったのを考えれば、その二体がかなり強いだけなのかもしれないが、二体以上いるという可能性も出てきた。


「場所はわかるね……これだけの反応があれば」

「うん」「わかる」


 颯希の言葉に知樹と桜愛はそう答えた。でも、凛空は全くわからなかった。これが経験の差だった。


「じゃあ、分かれよう」


 颯希がそう言い、颯希と白雪、知樹と桜愛で分かれて、別のところに向かった。



「魔力に慣れれば、場所とか、何体いるかとかがわかるようになる。焦らなくていい」

「うん……」


 颯希はフォローするようにそう言った。

 でも、それは凛空が劣ってることを示しているようで、凛空は、わがままだが、少し嫌な感じがした。自分で自分の首を絞めているだけなのだが。

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