第13話 葉獣
◇ ◇ ◇
ある日の夜。快音は普通に散歩していた。
その場所は、鳴宮家本家の近くの場所だった。
「だるいな……俺だってなりたくて当主になったんじゃねえんだよ……勝手に死にやがって……」
快音はそう呟いた。快音は今日、少し鳴宮家の関係者と揉めていた。
その時、快音は怪物の気配を感じ取った。
居る方向、向かってきていること、その速度、それを快音は感じて、計算して、理解していた。
そして快音は左手を左に伸ばした。
その瞬間、その方向からすごい速度で怪物が現れた。
快音はその怪物を軽々と片手で受け止めた。
「君、名前は?」
快音は危機感をまるで持たずに、怪物にそう聞いた。
「……
怪物は戸惑い、迷いながらもそう答えた。
「俺はー、知ってると思うけど、鳴宮快音。言っとくけど、君には負けないからね。せいぜい楽しませてね」
「俺はそんなに弱くない。甘く見るな」
「そっかぁ…強い方が楽しいからさ、俺、これでも最強の魔術師の一人って言われてるからさ、遠慮しないでかかってきてね」
「くっ……」
快音は怪物を煽りながらそう言った。
快音はただの遊び程度にしか思っていなかった。でも、その怪物の強さはちゃんとわかってたし、相手が本気なら遊びじゃないこともわかっていた。
でも、怪物は本気ではなかった。ただ、快音の実力を確かめる。それが怪物の目的だった。
快音はそれを、完全に見抜いていた。
そして、葉獣は快音に真っ直ぐに向かってきた。しかし、快音は難なくそれを防ぐ。
「え……」
葉獣はめげずにもう一回快音に向かっていく。
快音は、今度は横に動いてかわした。
葉獣はそのまま通り抜けて地面にぶち当たった。そしてそのぶつかったところから草が生えた。
「へぇ……こういうやつね……」
快音は、あえてそう呟いた。牽制の意味もあってのことだった。
「驚いたでしょ、なんで当たんないんだって」
「別に……」
「伊達じゃないんだよ? 最強の一人っていうのは」
「っ……」
「でも、まだ他に術式、あるだろ? 最強の術式とかってやつ。もしかして、その魔力量を持って使えないとか……?」
「殺されたいんか……」
「んなわけ」
快音は徹底的に煽っていく。葉獣はそれにまんまと乗せられていった。
「……
ついに葉獣は、例の『最強の術式』を発動させてしまった。
葉獣がそう呟くと、周りの景色が変わった。その周りの景色は、森林のようになっていた。
「来たか」
快音は驚くこともなくそう呟いた。
そして快音の足に蔓が巻き付いていく。
「……
葉獣はそう呟いた。でも、それによって見た目での変化は起こらなかった。
でも、快音は変化を感じていた。
さっき巻き付いた蔓から魔力が吸われていくような感覚を感じていた。
「……世界創造」
今度は快音がそう呟いた。
周りが快音からすれば見慣れた景色になる。ここはもう快音の術式の中だ。
「えっ……? 破られたのか……?」
葉獣がそう呟いた。
快音は、葉獣の発動させた最強の術式――世界創造を簡単そうに打ち破った。
世界創造の対抗法は、これしかなかった。さらに強い世界創造で打ち破る、それが唯一の対処法だった。だから、快音はそれを実行した。その結果だった。
「君の術式はその程度ってことだよね」
「なんだよ……」
快音は確実に葉獣のことを下に見ていた。
「君ともう少し話してたいけど、そろそろ決着つけないといけないとね……」
快音はそう言った。さっきと雰囲気が変わったことに、葉獣は気付いて身構えた。
「……
快音がそう言うと、葉獣の周りを水流が包んだ。
葉獣はその水流を壊そうと殴ったが、その殴った腕がもげて無くなってしまった。
でもその腕はすぐに再生した。
そしてその水流が渦になり、葉獣のことを引きちぎろうとした。
葉獣は半分くらい引きちぎられたが、そこで渦はなくなり、変わっていた景色もなくなった。
それでも葉獣はまだ生きていた。
世界創造は最強の術式。使えるだけでも相当な術式を持つし、どんな術式でも確実に決まり、命を奪う、必殺の術式だった。
快音は、ぐったりとしているそいつを掴んで持ち上げる。
「君さ、なんで俺のとこ来たの? 誰かの指示?」
「違う」
快音はこの質問をするために、これだけの術式を発動させても、殺さなかった。
「ほんとに? 例えば……
その言葉に、葉獣が少し動揺したように見えた。
「違うって言ってるだろ」
「ふーん……」
その瞬間、葉獣は剣で快音を切りつけようとした。
快音はさすがにその力は残ってないと思ってた。
「最後のひと足掻きってとこかな……」
快音はそう呟いた。
そして葉獣は快音の手を逃れ、逃げていった。
これは快音が意図的に逃がしたものだった。
「あいつがかかわってたんだな……何するつもりだ……」
快音はそう呟いた。
神桜里斗――彼は快音と同い年の魔術師だった。
ある日、重症の傷を負い、どこかに消えた。
――闇落ちした
そんな噂があった。
今、快音の中で、それが噂から、確信に変わった。
◇ ◇ ◇
「葉獣、やられたな。お前」
葉獣は、今生きている怪物の、強者たちが集まる場所に来ていた。そして、そこで一人の男にそう言われた。
「……強かった。さすが、Sランク」
「そうだな……」
葉獣が言った『Sランク』とは、魔術師のランクのことで、快音のことを指している言葉だった。
「みんな、今の話聞いたか? これが魔術師の力だ。でも、これより強い魔術師がまだいる。それを、しっかりと覚えて、自身を強化してほしい」
男は、暗闇に向かってそう呼びかけた。そして、歓声のようなものが上がった。
「まずは一つ仕掛けてみる。そこで、向こうの反応を見る。参加したい奴は教えてくれ」
男がそう呼びかけると、暗闇の中から、四人が前に出てきた。
「そうか……じゃあ、君たち四人に任せる。リーダーは
「はい」
四人は声を合わせて返事をした。
「場所や日時は調整して後日伝える。それは、他のみんなにも教えるから、周りで騒ぎを起こさないように注意してほしい。頼んだぞ」
「はい」
今度は何十人もの怪物たちが返事をした。
そして男は不気味な笑みを浮かべた。
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